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相鉄線沿線の駅周辺や「駅ナカ」への出店を進める=相鉄ローゼン伊藤英男社長

2009年4月、相鉄ホールディングス(当時の社名は相模鉄道、以下相鉄HD、神奈川県/鳥居眞社長)の完全子会社となった相鉄ローゼン(神奈川県)。現在同社は、相鉄グループ全体の経営資源を最大限に活用しながら、構造改革を断行し、経営健全化を進めている。昨年5月に相鉄ローゼンの新社長に就任した伊藤英男氏に、改革の進捗と新たな成長戦略について聞いた。

相鉄グループのリソースを最大限活用し、経営改革急ぐ

──10年5月、親会社である相鉄HDの専務執行役員から、社長として相鉄ローゼンに着任しました。09年4月に相鉄HDの完全子会社となった相鉄ローゼンを、相鉄グループ全体の戦略上どのように位置づけ、成長戦略を描いていますか?

相鉄ローゼン代表取締役社長  伊藤英男 いとう・ひでお 1947年生まれ。70年青山学院大学法学部卒。同年、相模鉄道入社。94年相鉄不動産取締役、99年相模鉄道取締役、2003年同社常務取締役。05年同社常務執行役員。06年同社自動車カンパニー長委嘱。07年同社専務執行役員。09年相鉄ホールディングス(相模鉄道より商号変更)取締役、同年同社専務執行役員、自動車カンパニー長委嘱。10年5月、相鉄ローゼン代表取締役社長・ 社長執行役員(現職)

伊藤 当社は09年に上場廃止になるまで、22年間にわたって株式上場企業として、独立独歩の運営方針を貫いてきました。順風満帆だった時代はそれでよかったのですが、今やスーパーマーケット(SM)業界の競争は激化し、当社を取り巻く環境は厳しさを増すばかりです。

 一方、相鉄グループ全体から見ると、流通事業の中核企業である当社は、グループ総売上高の約3割を占めるグループ最大の企業です。ところが利益面では、グループ連結決算になかなか寄与できていません。当社の営業利益率や経常利益率を0.1%でも改善できれば、相鉄グループ全体の収益性を大きく改善できます。

 したがって、100%子会社化することで、ヒト・モノ・カネといったグループのリソースを最大限に活用し、当社の経営健全化を実現する。そして当社を中核企業とする流通事業が相鉄グループ連結決算に、利益面でしっかり貢献できる基盤をつくり上げたい。

 そのための第1ステップが、相鉄HDによる完全子会社化であり、丸紅(東京都/朝田照男社長)さんと相鉄HD、相鉄ローゼンの3社業務提携の締結だったのです。丸紅さんからは、SM経営のプロを派遣してもらい、経営改革を断行し、着実に成果を出しながら現在に至っています。

──沿線価値向上という相鉄HDの戦略に呼応して、相鉄ローゼンの戦略も立案、実行されている。

伊藤 そうです。その戦略が、10年9月に発表したグループ戦略ビジョンである「ビジョン100」です。これは相鉄HDが17年に創立100周年を迎えるに当たり、10年後の19年度を見据えて策定されたものです。

 20年までの間に、相鉄線の沿線環境は様変わりします。15年にJR湘南新宿ラインとの相互直通運転がスタートし、二俣川駅から渋谷駅や新宿駅に直行することが可能になります。そして19年には東急東横線との直通運転がスタートするのです。これにより、相鉄線沿線にお住まいの方の利便性が高まり、とくに東京都心へのアクセスが格段に向上します。

 沿線環境が大幅に変わることを契機に、再度、沿線価値の向上を図ろうというのが「ビジョン100」のテーマです。その沿線価値を決める重要な要素の一つが、食品をはじめとする生活必需品を便利に買物できるという生活環境です。つまり、沿線価値向上には、当社は不可欠な存在であり、より地域のお客さまにとって魅力的な店にするためにも、早期の経営力アップが急務なのです。

──その実現に向けて、伊藤社長に白羽の矢が立った。

伊藤 そうです。ただ、基本的な構造改革の方向性は、春日徹夫前社長が、丸紅さんとの業務提携締結を含めて、しっかりと打ち出したものです。したがって、春日前社長が定めた構造改革路線を踏襲し、執行するのが私の役割になります。

 すでに、丸紅さんより野口公一副社長をはじめとする幹部が派遣され、構造改革に取り組んだ成果は、売上にはっきりと出ています。ですから営業面については、経験豊かな野口副社長に委ねて、陣頭指揮をとってもらいます。

 一方、私は負の遺産処理など、当社の基本構造に改革のメスを入れる役割です。せっかく従業員が一丸となって営業利益を上げてくれたにもかかわらず、支払い利息などのせいで最終利益が思うように上がらないのでは、モチベーションは下がってしまいます。

営業時間延長効果で、既存店売上高がプラスに

──直近の売上状況を教えて下さい。

伊藤 消費低迷が続く中で、10年度上期(10年3-8月)は既存店売上高を対前期比でほぼ1%減にとどめ、奮闘しました。客単価が下落する中にあって、客数増でカバーした格好です。夏場以降の売上も好調で、10年度第3四半期(9-11月)の既存店売上高は対前年比でプラスになりました。

──具体的には、どのような打ち手を施したのですか?

伊藤 まず取り組んだのが、お客さまの利便性を考えた営業時間の延長です。10年度上期までに36店舗で営業時間の延長を行いました。当社の店は過半近くが相鉄線各駅の周辺にあります。横浜駅発の最終電車に乗ったお客さまが、自宅の最寄り駅で降車された後でお買物できる時刻まで営業しようというのが基本的な考え方です。24時間営業の店も2店舗だけありますが、多くは深夜1時30分ぐらいまでの営業としています。

 36店舗の総延長時間は、年間で実に6万時間にも上ります。新規出店はしていませんが、営業時間延長によって何店舗か新規出店したのと同様の売上拡大効果を得ることができました。

 営業時間の延長に伴って、店舗オペレーションも組み替えました。たとえば、夜間でもできたて総菜を提供できるようにしたのです。従来、夕方4~5時ができたて総菜を提供する最終時間帯でしたが、それを夜間まで延長しました。グループの別会社が運営するインストアベーカリーも同様、最終の焼き上がり時間を延長しています。

 それらの施策の結果、お客さまからは「夜10時に来店しても欲しい商品が品揃えされている店」として認知され、深夜に加え、これまでの営業時間の売上も向上しました。ナイトマーケットの掘り起こしに成功したのです。営業時間の延長による売上拡大効果は、4%程度あるものと試算しています。

──大きな需要を掘り起こしたわけですね。売上拡大の施策としてはほかに、09年6月より毎月1回行っていた「ローゼン市」を、月2回に増やした効果が出ていると聞いています。

伊藤 そうですね。もともと「ローゼン市」は、お客さまがワクワクするような「お買物の楽しみを感じてもらえるセール」にすることがねらいでした。それによって、お店の賑わいを創出したかったのです。

 月1回の「ローゼン市」は、農産品を中心に特売価格でご提供することがお客さまに受けて、瞬く間に定着しました。ただ、その売上拡大効果も10年6月に一巡しました。そこでお客さまのニーズにお応えして、その6月から毎月第3水曜日も「月なかのローゼン市」としたのです。

FSPを活用して広告宣伝費を削減

──現在の相鉄ローゼンの基本的な商品政策(MD)は、どのような考え方に基づいていますか?

伊藤 当社の立ち位置は、低価格訴求を第一義とするような各社さんとは違います。駅に近いという利便性を生かし、品質の高いものを、できる限り手ごろな値段で提供するのが基本的な商品政策です。

 値ごろ感を訴求できてかつ粗利益を確保できるという意味で大きな武器になるのが、当社が加盟する八社会(東京都/木下雄治社長)のプライベートブランド(PB)であるVマーク商品です。これまでは当社を含め、加盟各社が独自のPBを開発していましたが、今後はVマーク商品を各社のPBとしてもっと注力する方針を固めました。今年の春以降、どんどん新商品が発売される予定ですので、Vマーク商品の価値がさらに高まると期待しています。当社も今後、ますますVマーク商品の販売に力を入れていきます。

──売上拡大を図る一方で、販売管理費の削減についてはどのように取り組んでいますか?

伊藤 すでに09年度に10億円の経費を削減していますが、10年度も上期だけで相当な額の経費削減に成功しています。

 大きな成果が得られた例としては、FSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)データを活用した広告宣伝費の見直しです。店舗ごとに来店客を分析し、チラシ配布エリアを絞り込んだのです。また、一部の冷蔵ショーケースを非冷蔵化することも行いました。これには、光熱費削減以外のねらいもあります。冷蔵ショーケースが減ることで店頭に陳列されている冷蔵管理する商品の陳列数量を削減し、回転率が向上しましたので、鮮度アップと、廃棄・値下げロスの削減効果も得られるのです。

 今後も物流システムの効率化など大きなものから電灯をこまめに消すなど小さなものまで、努力の積み重ねによって経費削減を実現しているような状況です。

──従業員の働き方を変えるなどして、人件費の低減にも着手されるのですか?

伊藤 当社では、パート社員がたいへん大きな戦力になっています。そのパート社員の実力向上に努め、できるだけ少ない正社員で運営できる態勢を整え、店舗の人件費を削減していきたいと考えています。正社員が減った分をすべて新たな正社員雇用で賄うのではなく、欠員をリタイヤ後の団塊の世代など実力の高いエルダー社員(※定年退職後の再雇用者)で充当などして、店舗の経費構造を転換していきます。

今期13店舗の改装を実施
売上アップ着々

10年10月に改装オープンした「そうてつローゼン港南台店」。相鉄ローゼンの売上げ2番店で、改装後の年商は、改装前の7~8%増の50億円を見込む

── 一方、店舗戦略としては、10年10月改装オープンの港南台店をはじめ、店舗改装を積極的に推進しています。

伊藤 なかなか新規出店できる環境が整いませんから、店舗改装を急ピッチで進めています。09年4月以降では23店舗の改装を実施済みで、10年度は、すでに改装済みの店も含め、13店舗を改装しました。港南台店では改装前に比べて7~8%の売上増を見込んでいますが、多くの店で改装による売上アップに成功しています。

──改装のポイントは何ですか?

伊藤 まずはお客さま目線の売場づくりです。次に全面的な売場改装をすると投資コストが膨大にかかるので、店内レイアウトの見直しやゾーニングの変更を行い、できるだけ低い投資で最大のリターンが得られるように工夫しています。たとえば当社の店には、店舗規模と比べて過剰な面積のサービスカウンターを設けている店がいくつもありました。

 そこでサービスカウンターの規模を適正化し、それによって得られたスペースを催事コーナーに転換しました。人員もレジのチェッカー業務と兼任することで人時を効率的に減らすなどして、新たな売場スペースのねん出と売場運営人員の削減の両立を実現しました。

──知恵を絞って、売上拡大に向けた改装をしているわけですね。店舗改装の一方で、不採算店舗の閉鎖はひと段落したのでしょうか?

伊藤 賃貸借契約の満了に基づいて、10年度上期に「川崎パレール店」、下期に「用田店」を計画どおりに閉鎖しました。今後も賃貸借契約の条件等を勘案しながら、各店ごとの状況に応じて判断していきます。

──新規出店はいかにして進めていきますか。

伊藤 新店を出店すると社内の士気も高まりますから、その意味でも新規出店はしていきたいです。出店エリアは基本的に相鉄線沿線の駅前や駅ナカを模索していきます。たとえば東急東横線とJR線と相互直通運転を開始するに当たり、新たな駅舎の建設や改装が行われます。その際に駅ナカへの出店ができるよう、相鉄HDに働きかけをしています。まだ具体的な案件はありませんが、できる限り早く実現したいと思います。

 今後の新店の店舗面積については、駅前や駅周辺の物件の場合は300坪を標準規模に考えていますが、駅ナカ物件の場合は70~100坪ぐらいのコンパクトな店舗になるでしょう。そういった小型店の場合も、きっちりと生鮮4品を品揃えし、お客さまに便利に使っていただける店づくりを行います。当然、店内に生鮮品の加工場を設置することはできませんから、近隣店舗で加工した生鮮品を運び入れたり、アウトパック対応で品揃えすることになるでしょう。具体的にどのようにして駅ナカ店舗を実現するかは今後、社内で検討を進めていきたいです。