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低価格戦略見直し、MDで差異化、食のインフラ化で需要創造=コープさっぽろ 大見英明 理事長

コープさっぽろは2011年3月期、コープこうべ(兵庫県/櫻井啓吉理事長)の供給高(民間企業の売上高に相当)を抜いて初めて全国の生協のトップに立った。競争環境が厳しさを増す北海道において、コープさっぽろは「食のインフラ」を標榜。移動販売や夕食宅配などの新規事業を次々に立ち上げている。人口の減少が進む北海道でどのような成長戦略を描くのか──。大見理事長に聞いた。

旧旭友ストアー8店の売上が低迷、過度な低価格政策は見直す

──2011年3月期、コープさっぽろの総事業高(民間企業の営業収入に相当)は2478億円で対前期比4%増となりました。店舗事業や宅配事業の供給高も前年実績をクリアしています。

コープさっぽろ理事長 大見英明 おおみ・ひであき 1958年生まれ。82年、コープさっぽろ入職。95年に商品部食品バイヤー(酒・米担当)に従事した後、SSM業態部長、リニューアル本部長、生鮮本部長を歴任。2002年に常務理事、06年に専務理事に就任。07年から現職。

大見 たしかに供給高は前年を上回りました。10年度の店舗事業の供給高は1774億円で対前期比4.3%増、宅配事業「トドック」の供給高は688億円で同3.4%増となっています。ただし、予算はクリアできていません。しかも経常剰余金(民間企業の経常利益に相当)は10億円と前年の約半分まで減らしてしまう結果になりました。

──どのようなことが原因ですか?

大見 店舗事業の不振が大きいですね。10年1月に経営不振に陥った旭友ストアー(旭川市)から譲り受けた8店舗の売上低迷が響いています。商品政策(MD)や価格政策をコープさっぽろの店舗と同じにし、10年4月から8店舗を順次オープンさせました。売上は旭友ストアー時代の1.6倍を見込んでいましたが、実際は1.1倍にとどまりました。なぜかといえば旭友ストアー時代からのお客さまにご支持いただけなかったからです。売上が計画未達のため、店舗改装費や人件費をカバーできず、利益を大きく減らしてしまいました。このことが経常剰余金半減の主因です。

──どのような部分が支持されなかったと分析していますか?

大見 コープさっぽろの「価格」です。旭友ストアーはどちらかというとディスカウント色を強めた商売をしてきました。MDや価格政策のすべてを変えて生協の店舗として再スタートしてみると、従来からのお客さまは「高い」と判断されてしまったのです。

 コープさっぽろとしても仕入れ改革による原価低減を進めて低価格政策に注力してきましたが、旭友ストアー時代からのより低価格志向が強いお客さまに応えることができませんでした。

──しかしながら、北海道の小売業の主役はディスカウントリテーラーです。旭友ストアーでの教訓をバネに、今後もさらなる低価格政策に磨きをかけていくのですか?

大見 いいえ。逆に過度な低価格政策は見直そうと考えています。

 08年9月のリーマンショック以降、コープさっぽろは、組合員さんの生活に少しでも貢献したいと考え、「低価格」に重きを置いてきました。09年度からは野菜の売価を5%ほど引き下げたほか、加工食品3500品目の価格を15~30%引き下げた「北海道元気プライス」や、従来の半値に相当する「お試しください低価格」商品の販売などに取り組みました。

 もやし1袋19円、生めん1玉29円、豆腐1丁38円……と、定番商品を低価格で提供しました。しかし、組合員さんの多くは「安い」とは言ってはくれませんでした。実際、満足度調査をしても「商品の安さ」は、評価項目の上位には入っていません。つまり、組合員さんは「安さ」を求めているわけではなかったのです。

 北海道では小売業の淘汰が進み、それぞれの店舗の特色がはっきりしてきています。したがって、生協本来の強みである商品の「安全・安心」や「品質」にあらためて重きを置き、組合員さんを維持・深耕する方向に舵を切ります。

──今後は、「価格」以外の要素を武器にする。

大見 そうです。組合員さんは安い商品を率先して購入するわけではなく、品質のしっかりした商品を相応の価格で購入したいという傾向があります。

 ましてやチェーン間の競争が激しさを増している北海道では、「価格」で戦うと消耗戦になってしまいます。結局は体力勝負になり、経常利益を安定的に出している企業が勝つことになります。コープさっぽろよりも売上規模の大きいアークス(北海道/横山清社長)さんやナショナルチェーンであるイオン(千葉県/岡田元也社長)さんと、価格という土俵でがっぷり四つに組んで戦うことは得策ではありません。

 そこで、過度に低価格に重きを置いた価格政策は改める必要があるという認識に至りました。

競合が真似できない商品を開発して差異化図る

──では、どのような要素で競合企業との差別化を図っていくのですか?

大見 まずは競合が真似できないオリジナル商品を開発して差異化を図ることに重きを置きます。

 コープさっぽろは、11年2月から北海道産の飼料米で飼育した牛や豚、鶏などの畜産品「黄金育ちシリーズ」商品の販売を始めました。農協や地元の食品メーカーと連携して商品化したものです。

 北海道には減反による休耕田が多くあります。飼料米の生産には若干ですが国から補助金が出ますし、飼料米を売ることで農家の方々の収入も増えます。また飼料米で家畜を飼育することは食料自給率のアップにもつながります。さらに輸入穀物飼料が飼料米に置き換わるわけですから、海外からわざわざ飼料を運んでくる必要がなくなり、二酸化炭素の排出を削減することもできます。そうしたメリットがあることから、コープさっぽろは道内で生産されている飼料米の半分に当たる約700トンを押さえました。

 消費者に安全・安心な商品を提供するという本来の目的に加えて、生産者や地元食品メーカーの振興にもつながり、生産者と消費者、そして生協の3者にメリットがある取り組みだと自負しています。

 そして「黄金育ちシリーズ」だけでなく、ほかにもオリジナル商品の開発を進めて競合と差異化を図っていきます。

北海道の「食のインフラ」になる!

──今後、北海道では人口が減り、市場縮小に拍車がかかります。どのような成長戦略を描いていますか?

大見 11年3月31日現在、北海道の人口は550万人(267万世帯)です。人口は今後20年ほどで約100万人減ると予想されています。

 現状、コープさっぽろの宅配事業「トドック」を週1回、平均5000円以上利用されている組合員さんは28万人います。また、月2万円以上店舗で買物をする組合員さんは24万人います。この28万人と24万人という数は、実際は世帯数と見なすことができますので、日常的にコープさっぽろを利用しているのは全世帯の20%ほどになります。

 宅配事業については、毎年5万~6万人が新規に組合員登録する一方で、4万人ほどがやめてしまいます。理由は、「引っ越したから」「高齢になってあまり利用しなくなったから」などさまざまで、「注文用紙にいちいち書き込むのが面倒で注文しなくなった」という組合員さんも多くいます。

 見方を変えると、1年間で4万人がやめるということは、過去に生協を利用したことがある、または生協をよく知っているという方が数十万人(世帯)いる計算になります。この層を再び組合員にできる可能性があります。

 また、これまでの宅配事業や店舗事業ではカバーできていなかった需要を取り込むために新しい事業を立ち上げ、新規組合員の獲得も図ります。

──新しい事業とは、どういったものでしょうか?

大見 コープさっぽろは、今後の事業の方向性として北海道の「食のインフラ」になることを掲げており、その一環として10年度に立ち上げたのは、移動販売車の「おまかせ便」と、夕食を宅配する「コープ配食サービス」です。

 まず、ひとつめは10年10月から本格的にスタートさせた「おまかせ便」です。北海道には過疎化が進んだために小売業の店舗がほとんどないエリアがたくさんあります。調べてみると約40万人がそういった「買物不便地域」に住んでいることがわかりました。

 「おまかせ便」は、2トントラックに1000SKUを積み込み、店舗を基地に過疎地を巡回するというものです。現在、111ある店舗からクルマで1時間圏内の範囲で移動販売を行うとすると、買物不便地域の約70%、約28万人を移動販売車でカバーできる計算になります。

──移動販売に取り組む小売企業は日本全国に少なくありませんが、事業としては利益を上げていません。

大見 コープさっぽろの場合は、利益をしっかりと確保しています。

 実は、移動販売事業はこれまでにも行ってきました。1997年に解散した夕張市民生協が実施していた移動販売事業をコープさっぽろが引き継いだのです。財政破たんした夕張市は、過疎化の進行とともに生活の足となるバスの便数が減り、高齢者を中心に食品スーパー(SM)などに出かけることができない“買物難民”が増えていました。そのような中で粛々と移動販売事業を行っていたのです。移動店舗となるトラック1台の1日の供給高は約10万円で、直接事業剰余金(民間企業の営業利益に相当)もしっかりと出していました。本格展開しても事業として利益を出せるめどがついたことから「おまかせ便」を開始したのです。11年8月末までに移動販売車21台を投入する予定で、2~3年後には100台態勢にしたいと考えています。

──もうひとつの「コープ配食サービス」はどんな事業ですか?

大見 配食サービスは、もともとは1人暮らしの高齢の組合員さんの安否確認をどうするのかと、行政とも話し合う中で着想を得た事業です。

 週1回商品を配達する宅配事業の「トドック」の配送スタッフは、年に数回、訪問先の高齢者の異変に気付いて救急車を呼ぶことがあります。そこで組合員さんと会う機会を週2回以上に増やせないかと思案しました。

 安否確認が必要になるような高齢者の方は、体に不自由があり、料理をつくることもままなりません。そこで食事を配達することを思いつきました。

 配食サービスは10年11月から札幌市や石狩市、小樽市、岩見沢市でスタートし、対象エリアを徐々に広げています。1食当たり「低カロリー食コース」が498円、「普通食コース」が590円で、プロセスセンター(PC)から週3~6回夕食を配達します。現在、札幌エリアの利用者は2000人ほどです。これが3000人を超えれば利益を出せるようになります。

 配食事業の課題は、いかに飽きのこないメニューを開発し続けられるかです。手づくり感があって、家庭の味に近いようなメニューを考案することがいちばん難しい。総菜のPCで配食用の弁当をつくるのではなく、今後、専用の工場を道内に数カ所つくることを検討しています。

手薄な札幌エリアに小型店を出店

──宅配事業や移動販売、配食サービスは「食のインフラ」になるという方向性がはっきり見えます。今後の店舗事業ついてはどのように考えていますか?

大見 地域の核になる店舗は、北海道の組合員さんの「食をインフラ」を支えていくという意味で、非常に重要だと考えています。現在、旭川以南の全道に店舗を展開していますが、店数が少ないエリアには新規に出店していくことを検討しています。

 既存店については当面はスクラップ&ビルド(S&B)が中心になります。不振店の見直しはもちろん、競争力が落ちている店舗については適宜S&Bを行って売場面積を拡大していきます。

──新規に出店するエリアはどこになりますか?

大見 札幌エリアです。これまで不採算店舗の閉鎖を進めたため、店数が少なく、組合員さんから出店の要請が多くあります。とはいえ、コープさっぽろがメーン展開してきた売場面積600坪、850坪タイプを出店するとなると、店舗用の敷地は3000坪ほど必要であり、そのような土地は札幌エリアにはほぼありません。そこでバックヤードを設けないタイプの売場面積450坪ほどの小型店を出店できないか検討しているところです。

 実は、すでに小型店の出店が決定している物件があります。さっぽろ高齢者福祉生活協同組合(北海道/川原克美理事長)さんが運営する老人ホームに併設する店舗です。福祉生協さんは札幌市東区の2カ所で有料老人ホームを運営しており、今後、新しい施設の開設に合わせて1階部分にコープさっぽろが小型SMを出店します。早ければ12年度、遅くても13年度には出店する予定です。福祉生協さんとは今後も連携して、SM併設有料老人ホームを開発していきます。