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スーパーの歌聞きに県外から来店者続々の怪 西川貴教さんとコラボ実現、平和堂のSNS活用術

「かけっことびっこ」は、滋賀県人なら誰もが口ずさめる有名な曲。なぜなら地元の総合スーパー企業、平和堂全店で毎日流れているイメージソングだからである。その歌をわざわざ県外の人が聞きに来る“怪現象”が起きている。きっかけは同社Twitterによる、あるつぶやきだった。

平和堂のイメージソング「かけっことびっこ」を歌う西川貴教さん

 高校時代、あの人気ミュージシャンは平和堂でアルバイトしていた!

 1958年創業の平和堂は今年、65周年を迎えた。節目を記念し制作されたイメージソング「かけっことびっこ」の特別バージョンが全店で流れている。歌っているのは滋賀県出身のミュージシャン、西川貴教さんだ。

 店内では毎時24分と55分の、1時間に計2回放送される。中途半端な設定に思えるが、「西川さんの苗字の一部『24(にし)』、その約30分後の『55(ゴーゴー)』と、お客さまにゴロ合わせで時間を覚えてもらえるよう工夫した」。こう教えてくれたのは、公式TwitterInstagramといったSNSを担当する販促担当者である。

 西川さんが平和堂のイメージソングを歌うきっかけは、平和堂公式Twitterでのあるつぶやき。

平和堂の一部店舗では、西川さんのデビュー25周年を記念したスイーツ菓子「西川ポルボロン」と「西川フィナンシェ」。そのことをツイートしたのがコラボのきっかけとなった

 時系列で紹介すると、平和堂がTwitterを開設したのは20216月。若い年齢層向けに、自社プライベートブランドやおすすめ商品を紹介するのが目的だった。その一環で昨年10月、西川さんのデビュー25周年を記念したスイーツ菓子「西川ポルボロン」と「西川フィナンシェ」を、平和堂の一部店舗で販売中であることをツイートした。

 これを受け、西川さんは次のように引用リツイートした。

 「はず〜む〜こころの〜、おかい〜も〜の〜平和堂〜滋賀県人のアンセム『かけっことびっこ』を歌う日も、そう遠くないかも?今まで以上に平和堂さんとグッと結び付きが強くなりました!」

 「アンセム」とは「応援歌」の意味。思いもよらぬ反応に平和堂社内は沸いた。早速、「かけっことびっこ」を西川さんに歌ってもらえるかを打診するため所属事務所に連絡したところ、話がとんとん拍子に進んだという流れである。

 聞けば、西川さんと平和堂には以前から意外な縁があった。滋賀県で生まれ育った西川さんは高校時代、同社守山店の催事コーナーで甘栗を販売するアルバイトをしていたそうだ。またデビュー後、DJを務めるラジオ番組でイメージソングをアカペラで歌い、注目を集めたこともあった。

 今回のコラボ実現まで、両者は長い時間をかけ、じわりじわりと距離を縮めていたのかもしれない。

 

原曲を生演奏で忠実に完コピ

コラボをきっかけに西川さんと平和堂の平松社長との対談も実現

 今年に入り動き出したプロジェクトだが、西川さんは既存のカラオケをバックにただ歌ったのではない。平和堂では本格的なサウンドをめざし、カラオケの制作からスタートした。

 最近は、コンピューターを使えば比較的、手軽に、低コストで楽曲を作ることが可能。しかし今回のカラオケは、イントロのブラスセクションを含めすべて生演奏にこだわった。「原曲を忠実に再現、サビの部分ではテンポが速まっている部分など生ならではのノリまで完コピした」(販促担当者)。

 こうして完成した特別バージョンの「かけっことびっこ」は、平和堂創業日にあたる今年31日から12月末までを期間とし、平和堂全店で流れている。

 来店客からは好評だ。いつもと違う歌声に驚くお客がいる一方、すぐに西川さんだと気づいて聞き入る人など反応は多様である。SNS上では「めっちゃパワフル!元気でるね」「スーパーの平和堂でも西川くんの歌う平和堂ソングが流れてて楽しかった😆さすが滋賀の偉人」などの書き込みが見られる。

 そのなか情報を聞きつけ、イメージソングを聞くためにわざわざ来店する熱心な人も少なくない。今春以降、滋賀県の各所で「T.M.R. LIVE REVOLUTION’21 -VOTE-」ライブを行なった際には、 他県からもファンが平和堂に押し寄せた。

 いずれも近くに平和堂がないエリアに居住する人たちである。来店するとスピーカーの下に立ち、静かに鑑賞するファンもいる。その後は店内で買い物をしたとの写真付きのツイートも多数見られる。つまり、わざわざ県外の人が平和堂の歌を聞きに来る怪現象が起きているわけだ。

 今回のコラボをきっかけに平和堂の平松正嗣社長との対談も実現した。YouTubeにはその時の様子を収めた動画がアップされている。

 幅広いファンを持つ西川さんがイメージソングを歌ったことで、他県で初めて平和堂という企業の存在を知った人もいるようで、同社では手応えを得ているようだ。

 振り返れば、そもそものきっかけは平和堂がTwitterでつぶやいたことに始まる。それが思わぬ展開となり、今回のコラボにつながった。

 今後も平和堂ではTwitterはじめSNSに力を入れる方針だ。販促担当者は、「単に販促のためだけではなく、お客さまとの関係を強化するツールとしても活用していきたい」と話している。