厳しい商環境で海外シフトが顕著に
コロナ禍で多くの食品小売業態が特需に沸いた一方、逆風に苦しんだコンビニエンスストア(CVS)業界。今、その反転攻勢に向けて各社が大きく動きだしている。
大手CVS3社の2021年度の既存店売上高は前期実績を上回った。しかし、その伸び率はコロナ感染拡大で大きな影響を受けた前期の落ち込み分を完全に挽回するには至っていない。
CVSが振るわない要因にはまず、消費者の生活様式の変化がある。リモートワークが定着し、外出や旅行を控える動きが続くなか、近年CVSが積極出店を進めてきたオフィス街や都心部立地の店舗の利用が減っている。
次に、これまで成長源としてきた新規出店が難しくなっていることが挙げられる。かつて大手CVSは年間1000店前後を新規出店していたが、店舗間競争の激化を受けて、20年2月期頃から店舗拡大スピードにブレーキをかけ始めた。21年度の店舗純増数はセブン-イレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長:以下、セブン-イレブン)が120店、ローソン(東京都/竹増貞信社長)が163店にとどまり、ファミリーマート(東京都/細見研介社長)については77店の純減となっている。
こうした傾向を受けて主な成長を海外に求める企業も出てきた。とくにセブン-イレブンの親会社であるセブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長:以下、セブン&アイ)は21年5月、米国の石油精製会社マラソン・ペトロリアム(Marathon Petroleum)が運営するガソリンスタンド併設型CVS「スピードウェイ(Speedway)」を総額2兆円超で買収。22年2月期は営業収益全体の約6割、営業利益全体の約4割を海外CVS事業が稼ぐまでになっている。今後は日本、北米を除く国・地域でも事業を拡大し、それらの国と地域で25年度までに5万店の店舗網を確立したい方針を明らかにしている。
セブンは温めてきた配送サービスを全国展開へ
しかしコロナ禍3年目に突入した今、大手CVSを中心に、企業の柱である国内CVS事業で再成長を実現するべく新規ビジネスの展開を加速させている。これまでもCVS各社は全国の店舗網を生かした新たな収益事業を模索し実験してきた。コロナ禍での不振を受けて次の成長の活路にしようと、それらの施策を全国展開させる動きが出ているのだ。
たとえばセブン-イレブンは、店舗商品を最短30分で即時配送するサービス「7NOW」の展開エリアを一気に拡大させる。同サービスは17年10月に北海道の一部エリアで実証実験を開始し、その後、対象エリアを広島県・東京都にも広げて粛々と検証を重ねてきた。
セブン-イレブンの永松文彦社長は「CVSすなわち“便利店”である私たちが今後提供していくべきサービス」と同サービスの重要性について言及しており、23年2月期には5000店に、さらに従来の予定を1年前倒しして25年2月期には全国でのサービス展開をめざす方針だ。
「7NOW」の詳細な利用実績は非公表だが、女性客の獲得や、店舗と併用する顧客の1カ月当たりの「セブン-イレブン」利用高は、コロナ前を上回る効果が出ている。また、顧客が「店舗」「7NOW」のいずれで商品を購入しても、店舗側では同程度の売上・利益を確保できる収益モデルをすでに確立できているそうで、既存店売上高を押し上げる可能性のあるサービスとして期待されている。
同じ配送サービスでも、ローソンは自前ではなくデリバリー事業者との提携を進めてサービスを拡大している。すでに「UberEats(ウーバーイーツ)」や「Wolt (ウォルト)」などの計5社と提携、店舗商品を配送するサービスを45都道府県3232店(22年5月26日時点)まで広げており、その数は群を抜いている。さらには「UberEats」との協業関係と、店内厨房の機能を生かし、店内調理のデリバリー専用メニューを宅配する「ゴーストレストラン」事業にも参入。26年2月期には同事業の実施店を全国1000店まで拡大する方針を打ちだしている。
“店舗のメディア化”に乗り出すファミマ
一方、ファミリーマートがねらう新規ビジネスは、店舗を活用した広告・メディア事業だ。21年9月、親会社である伊藤忠商事(東京都/石井敬太社長)とともに事業会社ゲート・ワン(東京都/藏田一郎社長CEO)を設立。AIカメラ搭載の大型デジタルサイネージ「FamilyMartVision」を6月末までに3000店、将来的に全国の店舗への設置をめざす方針を発表した。同社に先駆けて20年10月、NTTドコモ(東京都)、サイバーエージェント(東京都)とともに設立したデータ・ワン(東京都/太田英利社長)が広告代理店となり、CVSの顧客データと、サイネージや決済機能付きアプリ「ファミペイ」などの独自メディアを生かし、ワン・トゥ・ワン(One to One)の広告モデルを開発し、収益化をめざす。
すでにサイネージ導入店では、宣伝した商品の購入が平均で約2割、最高で約7割アップする効果が出ているそうで、多くの企業から出稿希望を受けているとともに、店舗の売上増が期待できるとして加盟店オーナーからも設置を求める声があがっている。
こうした“店舗のメディア化”は先進的な欧米の企業ではすでに大きな潮流となっている。米ウォルマート(Walmart)は、デジタル広告プラットフォーム「WalmartConnect」を立ち上げ、個々の消費者に合ったデジタル広告サービスの展開にまで事業領域を広げている。ファミリーマートの細見研介社長は「デジタルと店舗を活用した新規ビジネスが今後、CVS事業の大きな柱になっていくことは間違いない」と述べており、同社はCVS業界でも先陣を切って乗り出したかたちだ。同様の実験をセブン-イレブンも一部店舗で開始しており、CVSの新たな収益モデルとして確立できるのか注目される。
日用・衣料品に薬も!あらゆるニーズに応える
直近のCVSの動きで特筆したい点はそれだけではない。新しい生活様式への対応も急ピッチで進めている。たとえば、コロナ禍で高まるワンストップショッピングニーズに応えるべく、セブン-イレブンは青果や100円ショップ「ダイソー」の商品を、ファミリーマートは衣料品のプライベートブランド(PB)シリーズの売場を拡大するほか、22年5月には処方薬を送料・手数料無料で、最短翌日には受け取れるサービスを、東京都内の約2400店で開始している。
来店動機の創出にもこれまで以上に注力している。コロナ禍で人の行動が制限されるなか、CVSは立地の利便性だけでは利用を獲得するのが難しくなっており、「店に行きたくなる理由」を提供する必要が生じているためだ。たとえばセブン-イレブンは今年1月から「北海道フェア」「アジアングルメフェア」などの企画を毎月実施。その結果、3月・4月は既存店平均日販が前期はもちろん、コロナ前の20年2月期の実績も上回る効果が出ているという。
本特集では、日本最大級のスマートフォン位置情報データプラットフォームを有するunerry(ウネリー:東京都/内山英俊社長)の協力を得て、コロナ禍でCVSの利用者がどのように変化しているのかを調査した。結果、外出自粛により自宅近くの決まったCVSを利用するようになる傾向があり、それが一定割合、定着していること、またコロナ禍が主婦や若い世代などこれまでメーン利用者ではなかった新しい層がCVSを利用し始めるきっかけになっていることがわかった。これらの層に継続して「店に行きたくなる理由」を提供できれば、コロナ禍はCVSにとって新しい客層を取り込む契機になるのかもしれない。
地域対応をいっそう進めている点にも注目したい。たとえばローソンは23年2月期からエリアカンパニー制を採用。各エリアの営業・商品・店舗開発組織を移管することで、消費者により近い現場で意思決定を行い、地域に密着した事業運営を図る。すでに22年3月には北海道と近畿エリアで同制度を始動した。
地域に密着した店舗運営では北海道を地盤に約1200店を展開するセコマ(赤尾洋昭社長)は、地元の食材や味にこだわった商品開発で22年4月まで22カ月連続で既存店売上が前年同月を超える好調ぶりを見せている。このことから、地域対応強化にはCVSの伸びしろがあると考えられそうだ。
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これらの動きから言えるのは、CVSが店舗網を生かした新規ビジネスや、新しい品揃えや提案により、商圏内のあらゆるニーズを深掘りしようとしていることだ。コロナ禍では食品スーパーやディスカウントストアなどの業態が特需に沸く一方でCVSは厳しい逆風を受けるかたちとなった。しかし忘れてはならいないのが、CVSはこれまでも変化対応によって新しい需要を切り開き、成長を続けてきた業態であることだ。次なる施策を一気に加速させている今、商圏内でどのような存在感を発揮してくるのか、あらためて注目するべき存在といえる。
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