2022年は小売業受難の年
2022年は小売企業、小売株には受難の年になりそうです。
元々日本の小売業の多くは輸入依存度が高く、円高局面では製造小売業がシェアを伸ばしてきました。一方、円安局面では仕入れ価格の高騰とオーバーストアによる競争の厳しさで、小売企業は押し並べて苦労をしてきました。
ただし、海外展開で成果を出せば、海外の売上利益の成長が国内の停滞を補い結果として業績・株価を牽引します。2010年代、中国、東アジアの成長を追い風に、ファーストリテイリングや良品計画が大きく業績を伸ばしたことは記憶に新しいと思います。
しかし今回の円安局面では、海外に救いを求めることも難しくなりました。特に中国の経済成長が鈍化していること、既に中国進出を果たした企業では浸透率が高まった結果、マクロ成長の鈍化の影響を受けやすくなってきたことが底流にあります。
さらに中国ではコロナウイルス対応による断続的な大都市のロックダウンが続いており、Eコマースが浸透しているとはいえ、リアル店舗において一定のマイナス影響は不可避と思われます。
しかもこの結果、日本におけるインバウンド消費の復活も遠のいてしまいました。
日本国内では徐々に行動制限が緩和されると思いますが、同時にモノからコトへの消費対象のシフトが予想され、物販業にとっては決して楽観できる状況とは言えません。
実際、
気を吐く百貨店株
そのような中で株価が気を吐いているのが百貨店株です。
三越伊勢丹ホールディングスは昨年末比+15%上昇、J. フロントリテイリング▲4%下落、高島屋+10%上昇になり、
確かに日本でのコロナ禍はワクチン接種の浸透と治療薬の普及で行
そこで今回は百貨店の株価の回復の背景を少し整理してみたいと思います。
三越伊勢丹ホールディングスの株価上昇要因は?
三越伊勢丹ホールディングスは2021年3月期に営業赤字▲209億円(日本基準)を計上しましたが、2022年3月期にはいって収益がボトムアウトしており、通期営業利益の会社計画は30億円とされています。これは販売管理費における経費構造改革を進めるなかで、総額売上高が回復することが効いています。市場コンセンサスを眺めると、2023年3月期の営業利益予想は195億円程度、これは2020年3月期を上回り、2019年3月期の水準の3分の2の水準です。株価が2019年末の水準まで回復してきたことは、同社の経費改革と採算改善に対する期待の高さがうかがえます。
次に、同社の中長期的な方向性を統合報告書2021で確認しておきましょう。
経営戦略の概要は「お客さまのお困りごとを感動的に解決し、お客さまの関心ごとを革新的に提案する」という百貨店改革を通じて、「お客さまの暮らしを豊かにす“特別な”百貨店を中核とした小売グループを目指」すこととのことです。
計数面では、3年後の2025年3月期の営業利益目標を350億円(内訳は百貨店事業220億円、不動産事業70億円、金融事業49億円)、10年後の営業利益を500億円レベル(内訳は百貨店事業225億円、不動産事業150億円、金融事業100億円)と描いており、百貨店の再生フェーズ→連邦経営による展開フェーズ→まちづくりによる結実フェーズというステップを設定しています。不動産開発は2025年3月期以降に本格投資を進める模様です。
具体的な戦略については統合報告書をはじめとした開示資料をご覧いただくとして、当座の3年間は本業である百貨店事業の再構築に力を入れること、そのためには主力店舗の個性を明確にし、外商を強化し、個客管理の徹底、固定費の削減を進めることが主軸に置かれています。
筆者の見立てでは、いずれかの時点で新宿伊勢丹、日本橋三越の建屋に手を加える時がくるということでしょう。主力店舗の再開発に取り掛かっても、物理的「売場」の減少の影響を最小限にとどめることができる体質になることが、同社の最大の課題だと思います。得意客の開拓と深掘りができるか否かで、新宿・日本橋の街づくりへの関与が変わり、同社の収益アップポテンシャルおよび収益の安定性が規定されていきます。当座の3年間はこのように本業である百貨店事業の売上・利益の「質」が注目されることになります。現在は商品調達、CRMの双方でデジタル・トランスフォーメーション(DX)を実装するには最適なタイミングだと思います。このチャンスを活かしきることができるでしょうか。
J.フロントリテイリングの株価上昇要因とは
次に、同社の中長期的な方向性を統合報告書2021で確認しておきましょう。
経営戦略の概要は「くらしの『あたらしい幸せ』を発明する」を基本的なビジョンとし、向こう三年でまずは収益力の「完全復活」を実現し、その後デベロッパー事業と決済・金融事業の比重を高めつつ、「こころ豊かなライフスタイルをプロデュースし、地域と共生する個性的な街づくりを行う企業グループ」へ発展させるという目論みです。
同社は3年後の2024年2月期の営業利益目標を403億円(内訳は百貨店事業229億円、SC事業100億円、デベロッパー事業44億円、決済・金融事業24億円)、2031年2月期の営業利益を800億円レベル(内訳は百貨店事業+SC事業480億円、デベロッパー事業+決済・金融事業等320億円)と描いています。
具体的な戦略については統合報告書をはじめとした開示資料をご覧いただくとして、当座の3年間は、リアル店舗を基軸に据えた「リアル×デジタル戦略」「プライムライフ戦略」「デベロッパー戦略」が主軸になります。さらに固定費の削減と経営指標としてROIC(投下資本利益率)を導入することによる資産効率管理を進めることになります。なお、デベロッパー事業の注力エリアは栄(名古屋市)と心斎橋(大阪市)となり、収益への明確な寄与は(三越伊勢丹ホールディングス同様)、現在の三か年の中期計画のあとになる模様です。
先行するJ.フロントリテイリングが示す深い“悩み”
また長期戦略の方向感についても市場が納得感を持っていると思わ
例えば、「コロナの“気づき”をどう活かすか」という記述では、
今後の外商の役割は、富裕層の動産管理、アドバイザーか
最後になりますが、2社の資料を眺めながら気になったのは、高額品の販売が好調な点です。ここでいう高額品とは、時計・宝飾・ラグジュアリーブランド・現代アートを指すようです。
この背景には、円安進行を見越した輸入高額品への需要の高まりがあるのでしょう。しかしそれにとどまらず、ひょっとすると、富裕層がインフレ到来を見越して、高額品の動産に分散投資することでインフレヘッジやリスク分散を進めているのかもしれません。そうであれば、今後の外商のあるべき姿は、動産の管理・アドバイザーなのかもしれません。目配りを続けたいと思います。