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低迷する花き業界、なぜ青山フラワーマーケットはコロナ禍でも売上が伸ばせるのか

花き業界は依然として下降の一途をたどっているが、パーク・コーポレーション(東京都/井上英明CEO)が運営する「青山フラワーマーケット」は新型コロナの巣篭もり需要もあって観葉植物や花瓶類の売上をコロナ禍前から1.5倍に伸ばしている。創業時から法人向けではなく自家需要に着目。モノを売るのではなく「花のある生活=ライフスタイル」を売るという視点で店舗拡大していった。企業と人が成長する上で大切にしたものは何だったのか。

日常的に花を楽しめるように 

青山フラワーマーケット エキュート立川店

 2月初旬、青山フラワーマーケットの本社では、年に2度実施しているという従業員の「レベルチェック」が行われていた。その回の挑戦者は3名。アルバイト、社員や管理職まで職位を問わずいくつかの“受験資格”を満たしている人がこの社内テストに挑める。用意されたのは色とりどりの花と黒板。お題は、花の魅力を伝える黒板書きと、制限時間内に旬の花のコーナー作りを完成させることだった。試験監督が出来栄えをチェックし、合格すれば仕事の幅が広がり給料アップも期待できるという。

 同ブランドのコンセプトである「Living With Flowers Every Day」には、花を売ること以上に、花が身近にある生活を届けたいとの思いが込められている。新型コロナの影響で生花や観葉植物を自宅に継続的に飾る人が増えた。「花のある暮らしを始めたいからまずは花瓶を買おう」「インテリアに観葉植物をプラスしよう」といった需要が増え、鉢物や花瓶などのアクセサリー類の売上がコロナ禍以前と比べて1.5倍に伸びている。

 「他の花屋さんとの違いがあるとすれば、旬へのこだわりと商品の付加価値だと思っている。一年は52週あり、その時々で旬のものを一番良い売り場で展開している」と話すのは、ブランドマネージャーの遠藤寛和氏。たとえば、327日の桜の日にちなんで、啓翁(けいおう)桜、旭山桜などの花木や鉢植えを店の入り口にコーナーを設けて置いている。春の知らせを店に並ぶ桜から受け取り、自然と立ち止まる客も多い。

競合他社との違いは

ライフスタイルブーケのディスプレイ

 同社で働く従業員の技術の高さを象徴する看板商品は、「ライフスタイルブーケ」。小ぶりなサイズながらプロの技術が光り、花瓶にポンとさすだけで様になる。飾り方の手本も店内で紹介してあるため、「なるほど、こう飾ればオシャレに見えるのか」という発見がある。ブーケは飾る場所もイメージしやすい「グラスブーケ」「キッチンブーケ」「ダイニングブーケ」の3種。ワンコイン以下から購入できる手軽さもあって、思わず手が伸びてしまうのだ。

 店づくりにも青山フラワーマーケットらしさがあふれる。まず、冷蔵庫を排除した点だ。花の鮮度を保つために商品を冷蔵庫に入れて販売する花屋は少なくないが、同社は花の香りや造形を楽しみながら花を選べるよう配慮した。また、花の魅力を手書きした黒板を活用したり、花だけでなく葉物から枝ものまで縦のラインを無駄なく使うことで、立体感のあるディスプレイに。スタッフのユニフォームも花が映えるように上半身を黒に統一、サロンは土色と徹底され、生命力あふれる花の部分が客の目に飛びこんでくる工夫がある。

 ECサイトも展開しているが、91の割合で店舗購入が多いという。ECの利用者層は、「オンラインだと花を買いやすい」との理由で男性需要が高い。全体では、自家需要のシェア5割、贈り物のシェアが4割。コロナ禍で一時、店の来店数が減り、ギフト需要は10%減となっている。「ECは花のボリュームが大きくて持ち帰れないケースなどでも利用されている。青山フラワーマーケットは首都圏の出店がメーンなので、今後は、ECを通して全国に花を届けたい」(遠藤氏)

自家需要にこだわるワケ

青山フラワーマーケット 南青山本店のパース画像

 青山フラワーマッケットの母体であるパーク・コーポレーションは1988年に創業され、翌年から生花事業に着手した。日本に花のあるライフスタイルを提案したいと 、店舗数を全国で118店舗(20223月現在)まで拡大している。

 青山フラワーマーケットは、新たなマーケットを切り開いた“開拓者”でもある。例えば、遠藤氏が入社した2001年当時、日本の花き市場の需要の中心は、冠婚葬祭や贈答用の花といった法人向けだった。しかし青山フラワーマーケットは花や緑に囲まれた心ゆたかなライフスタイルを提供するべく、起業当初から自家需要をターゲットにしていた。

 そのため、店内には胡蝶蘭など法人需要の花は置いていない。季節の花々を店内にぎゅっと凝縮させたような、ささやかでも自分や大切な人が心を豊かにする旬な花を提案している。そうした個人を対象にした花屋は、持ち帰りの利便性や家賃に考慮し、住宅街に出店するのが業界のセオリーだが、青山フラワーマーケットは人通りの多い駅構内や百貨店の入り口などに出店している。洗練された店構えと、豊かな季節の花々。マスメディアの広告は打たずとも、知名度は高い。メイン顧客は30~50代だが、コロナをきっかけに若い世代も花を求めに店に訪れるようになっているという。

右脳と左脳を刺激する人材育成

 企業の成長に欠かせないのは人材だ。花屋の仕事は、朝が早く力仕事も多いハードワークというイメージがあるが、「青山フラワーマーケットなら働いてみたい」と憧れる若者は少なくない。遠藤氏も、その一人だったという。

 「幼い頃から花に囲まれて育った。成長とともに家具職人を目指すようになったが、17歳の時にインテリア雑誌で見た青山フラワーマーケットの花の“ヴィジュアル”に心奪われ、20歳でアルバイトとして働き始めた」(同)

 ちなみに、同社の社員は、新卒以外では2530歳未満が最も多く、男性社員は1015%だという。

 しかし、店舗が急速に拡大し従業員が増えていく中で、創業者の概念を店舗スタッフ一人に共有するのは容易ではないだろう。遠藤氏は、「技術はいくらでも教えられるが、大切なのは従業員一人ひとりがモチベーションを高くもち自主性を持つこと。弊社のスピリットを丁寧に伝えるようにしている」と話す。

 また、同社のマネジメント法の一つに、「右脳と左脳を分ける」という考え方がある。店長の代わりに「ショップクリエイター(右脳派)」と「ショップマネージャー(左脳派)」を置き、前者は店づくりや店舗のあらゆるクリエイティブな表現を担い、後者はお金の管理や採用、店舗の運営を担っている。人には得手不得手があるのが当然で、得意を生かしながら、店を運営するという手法だ。

 どの花を発注するか、現場に権限を持たせているのも同社の人材育成の鍵だろう。 「通常、個人を対象にする街の花屋さんの仕入れは社長など経営のトップが行う。あるいは多店舗展開をする生花販売業の多くは、本社が発注業務を一括管理するケースが多いが、弊社は現場に権限移譲することで、従業員のスキルアップとモチベーションの向上を目指している」(同)

 また、キャリアパスは技術や表現力、経験値に応じて「LEAF(リーフ)」と呼ばれるレベル分けをしている。従業員の技術を問わず、アルバイト1日目から成長を実感できる仕組みもある。「今日はこれができるようになった、というように、作業内容を細かく要件分けしている。ブランドマネージャーとして、数年前に、思いつくままに要件を並べたら2500要件もリストアップしてしまった。そこからスリム化するのは大変ではあったが、それほど細かく技術向上できるということであり、レベルを問わず一日一日成長できていると、従業員が体現できる仕組みは他社にはない独自の教育プログラムであると自負している」(同)

海外進出先は「パリ」

パリ店の外観

 2015年には、海外進出も果たしている。海外の一号店はパリ。街中に花屋があり花を楽しむというライフスタイルが生活者に定着しているパリで、青山フラワーマーケットは評判の花屋となった。

 注目されるようになったきっかけは、青山フラワーマーケットの代名詞的存在であるライフスタイルブーケだった。「なんて小さくて可愛いの!」とパリジェンヌが驚いたのは、花の買い方に違いがあるからだ。彼らはチューリップを20本といったように、一品目をまとめ買いする傾向にある。日本人の器用さ、小さくて豊かな世界観が新鮮に映ったのだろう。

 多くのパリジェンヌに愛されるようになった結果、パリのシャルル・ド・ゴール空港では、ロダン美術館、ピエール・マルコリーニ等と同列に紹介されるようになった。そうしたパリの評判を聞きつけたロンドンのバイヤーが、20185月、世界一と名高い「セルフリッジ英国百貨店」のエルメスの真横に出店する機会を作ってくれた。

 そうした反響を受け、コロナ前は、ニューヨーク、アジア圏への出店も視野に入れていたが、現在は、状況を伺いつつ、次の展開を思案中だという。 

積極的に行う「商品開発」

 一方で課題もある。遠藤氏によると、少子高齢化で生産者が減っており、さらに新型コロナの影響で冠婚葬祭の需要が減少していることから、厳しい選択を迫られる生産者もいるという。「このまま生産者が減り続けると10年後には、『売る花がない』といった現象も想像できてしまう。作り手が減り、流通する花が減れば、お客さまに届けられなくなってしまう。向こう3年を目処に生産者との強固な関係構築に注力していきたい」(同)

 たとえば、市場を通さず花きの鮮度を保った状態でエンドユーザーに届ける仕組みを構築する。近年活発化している産地直送はもとより、生産地で採れた花を新幹線で店舗へ届ける新幹線輸送にも花屋で初めて参画。421には高速バス輸送企画をスタートするなど、生産性向上のための課題解決や多様な出荷形態の構築といった、さまざまな取り組みを模索している

 商品開発にも意欲的だ。例えば、お月見の花飾りで使う、黄色の菊「ピンポンマム」。「弊社では、まんまるのお月様のようなピンポンマムをメインにしたアレンジメントを提案しているが、ピンポンマムはこの季節に日本であまり流通しておらず、海外からの輸入に頼っていた。これを日本の生産者に委託し、数年がかりで開発。現在は国内の生産者からの仕入れが可能になり、より品質の良い美しいピンポンマムを提供できるようになった」(同)

ブランドマネージャーの遠藤寛和氏

 4月15日、南青山本店がリニューアルオープンする。1993年のオープン以来、多くの顧客に愛されてきた店舗だ。長年の感謝の気持ちを込めて、リニューアルオープン時には1万本のバラで客を歓迎する。花の力をより感じられる空間へアップデートし、さらに提案の幅を広げていく考えだ。