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ナスの“へた”も商品に! オイシックス、フードロス率脅威の0.2%に迫る

世界では多くの人々が飢餓に苦しむ一方、先進国を中心に多くの食材が廃棄されている。もちろん日本も例外ではなく、フードロス削減は重要な社会的課題の1つだ。そんな中、フードロス削減への率先した取り組みに注目が集まっているのが、食材宅配事業を展開するオイシックス・ラ・大地(東京都/高島宏平社長、以下:オイシックス)だ。この記事では、オイシックスのフードロス削減について具体的な取り組み内容と削減を可能にするオイシックスの強み、さらには今後の展望をレポートする。

なかなか進まない日本のフードロス削減

 日本のフードロス問題は深刻だ。日本における年間食料廃棄量約570万トン(農林水産省/2019年推計値)は、アフリカなど飢餓にあえぐ国々に対する食糧援助420万トンを軽く上回っている。17年の612万トン、18年の600万トンから徐々に減少しているとはいえ、まだまだ削減が必要な数字だ。行政も課題を認識しており、環境省・農水省共同で食品リサイクル法に基づく「発生抑制の目標値」を設けて民間に削減を促しているが、目標もあくまで努力義務にとどまり企業の自主的な取り組みが頼りなのが現状だ。しかしその企業側でも、抜本的な取り組みはなかなか進まない。日本では廃棄、つまりゴミとして食品を処分する費用が安く、手間とコストをかけてまでフードロスを削減するメリットが薄いことがその原因の一つともいわれている。

 そんな中、本気でフードロス削減に取り組んでいるのがオイシックスだ。「サステナブル・リテール」を成長戦略の柱に据え、ビジネスとテクノロジーの力でおいしい食事を持続的に提供していく姿勢を明確に打ち出している。もともと、有機野菜や無添加食品、生産者保護などを重視した商品提案で顧客を集めてきた同社。この方針に賛同して集まったユーザーには食の安全や社会貢献に関心の高い層が多いことも、フードロス削減を推し進める原動力になっているといえるだろう。

アップサイクル商品がヒット ナスの“へた”も食べられる

 オイシックスの取り組みを具体的に見ていこう。オイシックスといえば、一食分の食材がセットになったミールキットが代表的な商品だが、フードロス削減の第一の要はこのミールキットにある。ミールキット自体が消費者の手元で食材の廃棄が出にくい商品であることに加え、会員制であることから需要の予測がしやすい。さらに、生産者の作柄状況と顧客の需要予測を取り込んだマッチングシステムの活用でより精度を向上させ、流通におけるフードロス率を0.2%にまで抑え込んでいる(2021年11月現在/一般流通チャネルは約5〜10%)。オイシックス経営企画部グリーンプロジェクトリーダーの東海林園子氏は、「0.2%というのはほぼ理論値に近い数字。配送中の衝撃がきっかけで傷んでしまったものや、出荷時点では問題なかったがお客さまの手元に届いた時には傷んでいたものなど、回避の難しいものがほとんどを占めている」と話す。

オイシックスが販売しているアップサイクル商品。素朴な味わいで、言われなければアップサイクル商品だとは気づかないクオリティだ

 アップサイクル商品の開発にも積極的に取り組んでいる。通常であれば捨ててしまう部分を活用した、「ここも食べられるチップス ブロッコリーの茎」(30g/430円:以下すべて税込価格)や、「同 なすのヘタ(黒糖味)」(20g/430円)が好評を得ているという。これらブロッコリーの茎などは、本来であれば収穫・加工などの段階でゴミとして捨てられてしまっていたものだ。

 アップサイクル商品の難しさは、これまではゴミとして捨てていたものを「食材」として管理しなくてはならないところにある。生産・加工の視点で見ると手間が増すだけと捉えられがちだが、意外にもこれらの商品が好評であることを生産者に伝えると「無駄なく食べてもらえてうれしい」という反応で快く協力が得られることも多いという。

 もちろん、アップサイクル商品が成功するためにはいかに付加価値の高い商品を提案できるかが肝だ。たとえば上記のなすのヘタを活用した商品は、カリカリとした食感の良いチップスになっており、本来捨てていたものだとは思えない仕上がりだ。アップサイクル商品の開発も手がける東海林氏は、「意外性と味の良さがポイント。これからも新たな商品開発には注力していきたい」と話す。

オイシックスの外にもフードロス削減を広げる

 いわゆる不揃い、傷のある野菜をそのまま販売する「ふぞろいRadish」も好評だ。会員の中でもより手作りにこだわるユーザーが集まる傾向のある「らでぃっしゅぼーや」のサービス。購入者からは、「不揃い野菜をどう上手に調理するか、腕の見せ所」という反応もあるという。

オイシックス経営企画部グリーンプロジェクトリーダーの東海林園子氏

 ただし、不揃い野菜の通販には問題もある。「思っていたよりも不揃いだった」「想像よりも傷が多かった」など、購入者のイメージとのギャップが生まれやすいためだ。オイシックスでは、アンケートなどを通じてきめ細かなヒアリングを実施し、どの程度までならほとんどの購入者が「問題ない」と感じるのか、顧客の許容範囲を細かく見極めつつ販売を行っているという。さらに、22年春には神奈川県海老名市に「フードレスキューセンター」を新設予定だ。不揃い野菜はもちろん、豊作によって余ってしまった食材を一括で買い付けることで、従来よりもスムーズなミールキットへの加工やアップサイクル商品への転換を目的とした施設だ。また、包装技術と温度管理を工夫することによって、食材の保存期間延長によるロス削減も見込んでいるという。

 これらの取り組みによってフードロス削減に邁進するオイシックスだが、「フードロス問題は、オイシックスだけが熱心に取り組んでいても解決しない。ムーブメントを日本全国に広げていく必要がある」とも東海林氏は語る。

 まず第一歩として、オイシックスの企画力を活かし他社と協力して新たな商品を開発する取り組みを始めているという。例を挙げると、えごま油抽出の際に生じる残さからぬか床を作る試みを福島県の企業と協力して行っており、商品はオイシックスだけでなく他社ブランドでも販売される。この取り組みには、外部を巻き込んでフードロス削減を推進することができることに加え、オイシックスの持つ知見を広め、加工技術をさらに高めることができるなどメリットが多い。

 フードロス削減に関しては一歩先を行くオイシックス。フードロス削減がオイシックスの外に広がれば、波及効果は大きい。今後の展開に大いに期待したい。