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ビッグ・エー、快適さの追求で描く次世代ディスカウントストアの姿とは

ビッグ・エー(東京都/三浦弘社長)は、「1円でも安く売るための根拠」を求めて店舗運営の無駄を省く工夫を続けています。それは業務をよりシンプルに簡素化していくものですが、単に削ぎ落とすだけのプロセスではありません。個々の業務の合理性を高めていく前提に「快適さ」の追求があります。この快適さは顧客の買物体験だけでなく、従業員の働きやすさも含めたものです。顧客にも従業員にとっても快適であることを追求する先に、次世代ディスカウントストアの姿を描いています。

改装で新たな試みを集約したビッグ・エー花畑店

花畑店の改装(21年9月)に今期の施策を集約

 21年度の試みを凝縮した店が、昨年9月に改装した「花畑店」(東京都足立区)です。まず通路幅を2mから2.4mに広げ、より快適に通れるようにしました。売場の回遊性を高めた結果、買上点数のアップにつながっています。ただし、通路拡張のためにグロサリーの定番棚を4列から3列に削減する必要がありました。陳列スペースの減少を補うためにバックヤードを圧縮して売場を広げ、中通路もカットして1列の長さを伸ばしています。こうした工夫でアイテム数は改装前の1割減ほどにとどめ、標準の2400品に近い品揃えを確保しました。

 店舗オペレーションで目指したのは、「補充は1日1回」を徹底することでした。菓子の最下段には、これまでの段ボール陳列よりも多くをストックできる投げ込み式の什器を導入しました。副次的な効果として、段ボール陳列より商品パッケージが見やすくなり、子供の食いつきがよくなったそうです。

最下段に投げ込み式什器を導入して陳列量を増やす

 冷食には平型ケースを導入し、売場を従来の1.5倍に広げました。電力の効率を考えて扉付きケースが主体ですが、エンドの2台だけは扉なしです。ここに夏なら氷、冬は冷凍うどんなど回転の早い商品を展開します。追加の補充作業をしなくても欠品を防げるようになるなど、冷食の販売点数は2倍以上に伸びているそうです。

快適に働けると売価が下がる?

 冷食売場の平型ケースですが、こだわったのは補充頻度だけではありません。女性スタッフが陳列の際に段ボールを抱え上げても無理のない高さに抑えました。作業のしやすさへの配慮は、日配のスライド棚にも見られます。容量1Lの牛乳を数多く陳列するため、以前からスライド棚は負荷に耐えられる特別仕様のものでした。花畑店では従業員の意見をもとに、スライドの解除スイッチを左右2ヵ所から中央1カ所に変更したモデルを採用しています。1ヵ所なら片手てロック解除できるためで、なるほど合理的です。

女性スタッフでも作業しやすい高さに抑えた冷凍平型ケース

 また、何年か前の店舗から、店長室はレジのすぐ近くに移動しています。店舗は常に2名体制ですから、店長はいつでもレジに気を配る必要があります。店長室がレジ近辺に移動した結果、花畑店のケースでは、店長の業務中の歩数が改装前の約1万8000歩から1万2000歩に減少したといいます。この歩数3割減、仮に店長が身長1m70cmだとすれば4kmほどの歩行距離の違いになりますから大きな差です。

 三浦社長のお話を聞くと、働く人の快適さを追求することと「1円でも安く売るための根拠づくり」は根底でつながっていることが分かります。「他の店よりも働きやすい環境にすることで定着率が上がれば、採用や人材教育に費やす経費が下がります。そのことがより安く売る原資になっていくのです」(三浦社長)。一方で新戦力を必要とする際には、働きやすい環境が採用を容易にすることも期待できます。

ディスカウントストアのイメージ刷新、22年度上期にかたちに

 前述のようにSKUを削ってまで通路幅を拡張したのは、買物体験の快適さを重視したからです。ビッグ・エーでの買物をいっそう快適にするために、三浦社長はディスカウントストアのイメージとして抱かれがちな「安かろう悪かろう」を変えたいと言います。

 「ネットでなんでも購入できる時代にわざわざご足労いただくわけですから、気持ちよく買物できる環境を整えることはもちろん、あの店に買物に行くと思ったときの印象が大切です。ディスカウントストアに対してお客さまが抱くイメージから変えていきたいのです」(三浦社長)

 イメージを変えるといっても、外観や内装をラグジュアリーにするといったことではありません。「ディスカウントストアとしては、1円でも安く売ることにつながらないことに投資はできない」(三浦社長)という基準は不変です。

快適さを追求する先にDSのイメージ刷新を目指す

 従来のディスカウントストアとは一線を画すイメージをどうやってかたちにするか、社内で検討を続けたものの明確な答えは見出せなかったそうです。そこで芸術系などの大学や短大、専門学校、高校などに声をかけ、学生から店舗デザインを公募するコンペティションを3月末まで実施しています。最優秀賞1点には100万円の賞金を出します(プロの建築士にデザインを依頼するよりは低価格とか…)。店舗デザインに若い感性を取り入れ、実際に店舗として仕上げるのは22年度上期の新店や改装店になる予定といいます。

 店舗デザインをこのタイミングで変更するのにも明確な理由があります。昨年統合したアコレの看板を、ビッグ・エーに切り替えていく必要があるからです。22年2月時点で110店ほどの店舗数がありますが、改装のタイミングは適時とのことで変更を急ぐことはしません。その理由も明確です。看板を変えるだけでは1円でも安く売ることにはつながらず、買物体験や働き方が快適になるわけでもないからです。看板の統合は、中身の変更を伴う改装に合わせて計画的に進めていく方針です。