メニュー

第40回 2021年のショッピングセンター総括と、コロナ後、売上はどこまで戻るのか?

ニューノーマルも2年も続いて立派な「ノーマル」となった。2020年から緊急事態宣言やまん防、自粛の連続で、リアルな場での消費市場は一部を除き大きな打撃を受けた。その結果、2021年のショッピングセンター(SC)はいかなる状況だったのか?今回はデータを元にレポートする。

zhudifeng/istock

新規開業SCと閉鎖SC 減少するSC売上高

 2021年は新規開発の着手や工事を遅らせたり開業を延期したり、場合によっては計画を一旦白紙にしたり、そんな案件が続出した。先の見えないコロナ禍、需要がいつ戻るのか予測がつかず、仮に造っても入居するテナントがいなければ不動産賃貸業は成り立たない。

 それは商業施設に関わらずオフィスも同様、この懸念が払拭されない限り、新規開業は減少する。SC開業数もその予想とおり24カ所(図表1)まで落ち込んでしまった。しかし、これがコロナ禍のせいかと言うとそうでもなく開業数の減少は近年の状況であり、コロナ禍はそれを加速したことになる。

図表1 SC開業数の推移(左)と図表2閉鎖等SCの推移(右)

 その一方で閉鎖するSCや商業床部分を減少させるSC(以下、閉鎖等SC)は37カ所となり、昨年に比べると大きく減少した(図表2)。20年の閉鎖等SC(77カ所)はコロナ禍前の意思決定であった一方、21年の閉鎖等SCの減少はコロナ禍により意思決定が遅滞したことが要因として考えられる。

 閉鎖等を選択するSCは、他用途への転換や老朽化等による建替えが主だったことからコロナ禍によって次への成長に関する意思決定が滞ってしまったことを憂慮する。

  その結果、2021年末の日本におけるSC総数は、図表3の通り、新規による増加が24カ所、閉鎖等による減少が37カ所となり、3,195カ所(2020)から13カ所減って3,182カ所となった。

図表3 SC総数の推移

テナント構成の変化とコロナ禍での売上の推移

図表4 テナント数業種別構成比

 21年開業のSC内のテナント数業種別構成比(図表4を見ると、衣料品の11.8%に対して食関連が35.2%(食物販15.2%、飲食が20.0%)となり、引き続き衣料品の低下と食関連の高まりが指摘される。コロナ禍による在宅ワークの広がりや外出制限による食のデリバリー需要の高まりなどはあるがこの傾向は筆者がかねてより指摘している「衣食住から食住衣へ」の転換をコロナ禍がさらに加速させている。

 20年1月に始まったコロナ禍によって大きくダメージを受けたSCだが、その売上高は20年の前年割れに続き21年も残念ながら19年レベルには戻っていない(図表521年後半大きく収束の期待を持った新型コロナウイルスだったがオミクロン株の到来によりまた感染が拡大し、先の見えない22年の年明けを迎えることになった。

図表5 既存SC売上高伸長率の推移

 では、この先、元に戻るのか。この質問に対する答えは「戻るものもあれば、戻らないものもある」であり、言い方を変えると「戻りたいものは戻るし、戻りたくないものは戻らない」となる。

 在宅ワークを希望しても出社を求められるような半ば強制的なものはさておき、一度便利さを経験したものはそう簡単に戻ることは無いだろう。

 ではどの程度戻るのだろうか?

コロナ後、売上はどこの地点まで戻るのか?

 ここで「元に戻るのか」についてもう少し掘り下げて考えてみたい。この質問で言う「元」とは2019年を指すことが多い。しかし、冒頭、「ニューノーマル、2年もやればもうノーマル」と書いたように通勤、買い物、外食、飲み会、働き方、旅行、時間消費すべてがこれまでと変化し、イメージするインバウンド3000万人時代だった2019年に戻るのはかなり難しい。

 それを図示して解説する(図表6。まずそれぞれの点を次の通り定義する。

図表6 コロナ後戻る位置

 これまでも日本の人口は緩やかに減少し少子高齢化も進み、SCや百貨店の市場は徐々に減少、ウイルスの襲来が無くても訪れる地点がE点であった。

 ところが20201月ウイルス襲来によってB点からC点へ一気に下落、ここが現在地点となる。

 ここまでは誰しも理解できると思うがここからが問題である。

 質問「元に戻るのか」の「元」が点Aとなれば良いが残念ながらこの点は2019年時点の場所であり、今は不要不急の販売額の下がった線(コロナ影響線)上にあるD点がコロナ後の収束点となり、戻ったとしてもそれはA点ではなくD点となるのである。

 これを所与して捉えてしまえば自ずと点Dとなる。とすると今回のコロナ禍をゲームチェンジのチャンスと捉え時代に合わせた変革を行うことで「ビジネス変革線」へ移ることが我々の課題になるのである。
出典:図表1~5は、(一社)日本SC協会定例記者会見2021年12月発表資料

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒