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ウェルテル効果

 ウェルテル効果という現象がある。

 かのドイツの文豪ゲーテが著した小説『若きウェルテルの悩み』に由来する。

 1774年に刊行されたこの小説では、青年ウェルテルが婚約者のいる女性シャルロッテを愛し、叶わぬ思いを胸に自殺してしまう。

 

 『若きウェルテルの悩み』は発刊後、ヨーロッパ中でベストセラーとなり、ウェルテルをマネて、自殺者が急増するという社会現象を巻き起こした。

 

 ウェルテル効果とは、このケースから名前を取った、後追い自殺現象を指す。

 日本おけるウェルテル効果の代表例は、歌手の故岡田有希子さんが1986年に自殺した後に、若者が次々と後を追いかけたケースだ。

 

 岡田さんの愛称から取って、“ユッコ・シンドローム”と名付けられ、大きな社会問題にまで発展した。

 あまりの自殺者の多さに、当時の若者に人気絶頂だったお笑いコンビ〈とんねるず〉主演のTVドラマ『お坊っチャマにはわかるまい!』では、第9回めのタイトルを「自殺してんじゃねえよ」として、若者たちに自殺をするなというメッセージを出した。

 

 そして、今年、再びウェルテル効果が起こった。

 

 2011年5月、1日当たりの自殺者が急伸。調査してみると人気タレント故上原美優さんの自殺が報じられた翌日の5月13日から1週間、1日平均の自殺者数は82人から124人に増えていたことが分かった。

 増加分の半数以上を20~30代が占め、女性の比率が高かったという。

 

 政府は、「メディア各社に(自殺報道の)ガイドラインの策定を呼びかけるべきだ」としていたが、報道自主規制としてのガイドライン策定は、とんだ見当はずれだろう。

 

 そもそもウェルテル効果とは、最後のひと押しなのである。

 有名人の自殺が報じられる前に、後を追った者たちは相当の悩みを抱えていたに違いない。

 日本経済は右肩下がり、就職活動もうまくいかない、恋愛やおカネ、人間関係、病気などの悩みがあったかもしれない。

 

 そんな問題を抱えていた日常から逃れるための最後のひと押しがウェルテル効果なのだから、報道自主規制をしたところで、抜本的な解決にはつながらない。

 

 むしろ、ウェルテル効果を防止するための報道の役割とは、毎日毎日飽くことなく、“生の喜び”をしっかりと伝えることにある。