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ダイソーの矢野社長

 大創産業(広島県)の矢野博丈社長は、まったくとらえどころがない。

 ご存じ大創産業は、100円ショップの「ザ・ダイソー」などを国内に2570店舗、海外25カ国に564店舗を展開するチェーンストア企業である。売上高は3414億円(2011年3月期)を計上する“大企業”だ。

 初めて取材した時には、4時間ほど席をともにしながら、わずか3ページのインタビュー記事をまとめるのに四苦八苦させられた。

 それというのも、接触している間中、のべつまくなしでダジャレや冗談ばかりを口にするからだ。気づけば、質問の大半は、はぐらかされてしまっている――。

 “センミツ”とは、千のことを話したうちホントのことは3つくらいというほら吹き然とした人のことを指すが、まさに“センミツ”を地で行くのが矢野社長だ。

 真顔で長い話をするから、これは真剣な話であろう、とまじめに聴いていると「全部、ウッソー」という落ちがあったりする。一筋縄では、どうにもならない人である。

 厄介なのは、そんな長い取材時間の中で本当に時々、実に鋭い経営論を口にすることだ。当たり前のことなのだが、だから、集中を切らして、聞き流していることもできない。

 常に遊び心を忘れていないから、発想は自由。「メキシコに出店する」とか「大道芸人を派遣する会社をつくりたい」とか、夢かうつつか境のないような独り言が満載だ。

 テレ屋なのか、すべて計算ずくなのか、全く分からないし、正直に言えば、一日中一緒にいれば、神経をすり減らしてしまいそうだ。

 その一方では、「この記者は、そんなことを考えているだろうな」と見透かし、大変な気配りがあったりする。

 記者泣かせの経営者であることは間違いないのだが、これほどのパワーとバイタリティにあふれる経営者はそうはいない。