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「ショッカー」の論理

 まずは、仮面ライダーのストーリーをおさらいしたい。

 

 敵役である「ショッカー」は世界征服をたくらむ国際秘密結社。 首領の正体は不明であり、各国に展開する「ショッカー」の基地において、“鷲”のレリーフから声だけで指令を発している。

 ゾル大佐、死神博士、地獄大使といった大幹部達は、仮面ライダーに次々と倒され、追い詰められた首領は、自らアジトを爆破。これによって、事実上、「ショッカー」は壊滅。そして世界に平和が戻る――。

 

 国際テロ組織のアルカイダを「ショッカー」になぞるとどうなるだろうか?

 アルカイダは、1990年代以降、主として米国を標的とした数々のテロ行為を実行したとされ、組織のナンバーワンであるウサマ・ビンラーディンが2001年9月11日に指揮した米同時多発テロ事件は、米国のみならず全世界に大きな衝撃を与えた。

 2011年5月2日、ウサマ・ビンラーディンは米軍の「ジェロニモ」作戦において、パキスタンのアボタバードの豪邸で頭を撃ち抜かれ死亡。このことを知った米国民は、スーパーボウルを制したチームの地元町のように「世界に平和が戻った」と歓喜した。

 

 確かに、仮面ライダー的な世界観で言えば、極悪軍団の指導者の死は、世界の平和を意味する。

 ところがノンフィクションの人間の世界はそれほど単純なものではない。

 

 宗教や世界観などの“考え”の違う国家や組織や人間に対して武器を突き付けても、言うことを聞かせることなどできはしない。

 

 国家や組織や人間を殺すことはできても“考え”を殺すことはできないからだ。

 

 そのことは、人類史が証明している通りだ。

 

 違う“考え”に対しては、違う“考え”を理解するように努めるとともに、自分たちの“考え”も理解してもらい、お互いに歩み寄るしかないだろう。

 あるいは“考え”の違いを明らかにして相互に尊重するしかない。

 

 実は、今になってみると、「ショッカー」は、なぜ世界征服をたくらむ国際秘密組織になったのかを私は知らない。その基本的な“考え”も、世界征服達成後に何をしたいのかも知らない。

 

 そんなものである。

 ひょっとすると初めから仮面ライダー側にいて、「ショッカー=悪」と決め付けてしまっていた私の“考え”が間違っていたかもしれない。

 

 アルカイダについてはどうだろうか?

 報道されている範囲では分かるものの、やはり彼らの本当の“考え”を私は知らない。そこにあるのは、米国同時多発テロ事件を起こした「恐怖の組織」であるというイメージだけだ。

 

 今年10月には人口70億人を超えるという狭い地球で“考え”の異なる人々が共存するにはいくつも方法はない。

 その点からいえば、米国のウサマ・ビンラーディン射殺は明らかに誤りであり、各国に分散するアルカイダは報復を表明するなど、終わりなき報復合戦の引き金を自ら引いてしまっただけのような気がする。