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落語家・立川志ら乃のスーパーマーケット徒然草  第6回 落語会の打ち上げは、スーパーで。

久々にお届けするスーパー大好き落語家・立川志ら乃のスーパーマーケット徒然草。3回にわたってお送りした怒涛の江古田のスーパー探訪記から閑話休題。かねてから「落語会の後の打ち上げのあり方」に疑問を持っていた志ら乃は、「スーパーで打ち上げする」というユニークすぎるイベントを恒例化。そして「スーパー好き」の輪が徐々に広がっていく――。

 「スーパーで買物して帰る」という斬新すぎる打ち上げイベント

 基本的に私は自主興行の落語会では打ち上げをしません。私自身、酒とタバコをまったくやらないというのと、そもそもの体力がないので疲れちゃうからというのが主な理由です。それに加えて、打ち上げが好きな人は「打ち上げ行こう!」と大きな声で言いますが、反対に打ち上げが苦手な人はその意思を伝えることをはばかると思っているからです。

 ですので、主催者の私が打ち上げを行った場合、しぶしぶ参加するか、もしくはそれを断るのにストレスを感じる人がいるのではないか?という考えすぎな細かい性格が発動してしまうのです。しかしその性格から、「でも前座さんなどはお腹が空いていて、何か食べて帰りたいと思っているのではないか?」とも感じていたのです。

 そこで編み出したのが「スーパー打ち上げ」です。それまで落語会が終わると、私は一人スーパーに寄って帰っておりましたが、このスーパーでの買物に皆を参加させるというのはどうだろうと思いついたのです。

 同じ時を共有するのは買物しているときだけ。買物が終わったら家に帰り、各々が好きなタイミングで打ち上げをするというコンセプト。打ち上げで一番心配なのは「会が長引いて遅くなるのでは?」ということではないでしょうか。終わりの時間が確実に見えていれば参加しやすい。スーパーでの買物はどう長くても30分弱。またスーパーに置かれているものすべてから各々が商品を選び取ることができるので、「生魚苦手な人が打ち上げで寿司屋に連れて行かれる地獄」みたいなことも避けられます。

 私としてはいいこと尽くめと思いましたが、「落語家として、そんな野暮でしみったれたことをしていいのか?」という不安があったのも事実。おそらく誰もこんなことはやっていないし、「ちゃんとした打ち上げに連れて行け!」と思う人だって出てくるだろう、と。しかし、「誰もやっていない? なら私がそれをやれば唯一無二!」と強い気持ちで後輩をスーパー打ち上げに誘うことにしました。

後輩の顔色を伺いつつ、豊洲の「フードストアあおき」で打ち上げ開始!

 最初からノリノリで参加してくれる人もいましたが、先輩が言うから断りにくいという感じで付いてくる奴もいました。そいつの名前は立川流二つ目の「らく兵」。真面目と言えば聞こえはいいけど、少し頭が固いと言われても仕方がないような奴。人付き合いがやや苦手だけれども、実は人恋しいと思っているに違いない奴。そして酒で師匠をしくじり禁酒中の奴。まぁ色々あるけど私はこいつの高座は好き。そんな奴。

熱演後のらく兵の後ろ姿

 今年の1月から月1回のペースで始めた豊洲文化センターでの落語会終演後、ゲストとして出演してもらったらく兵と訪れたのは、自動演奏のピアノがお出迎えすることでおなじみの「フードストアあおき東京豊洲店」。

 ここのお総菜はやや高いのですが、味は本当にうまい。しかも夜の落語会の後だと、ちょうど「40%引き」の時間帯にぶつかるので、「やや高い」が消え「大満足」しか残らない。だから大体の人は満足してくれるだろうという自信はあったものの、女子っぽいノリのスーパー打ち上げというものにやや難色を示している硬派ならく兵の姿を見てややビビる私。

 そんなプレッシャーに押されつつも店に入り、アオキの見どころなどらく兵に説明しつつお総菜コーナーへ。

  「どれを買ってもいいからね」

  と言ったものの、やはり先輩のおごりということなので、値引きシールの付いたものの中から一生懸命、食べたいものを選ぶらく兵。「とんかつ弁当」と「赤飯」だったか、とにかく炭水化物たっぷりのチョイスだったことを覚えています。

アオキでの打ち上げの一コマ。左から筆者、江古田でのスーパー周りの相棒・談吉、そしてらく兵

らく兵、「あおき」の魅力に“陥落”

 翌日、らく兵からお礼のメール。いつも丁寧で落ち着いた文面のメールが届くのですが、この日は「いつも食べている総菜の味と全然違いました!!」というようなテンション高めの内容。それから数日後楽屋で直接会った時も、

  「兄(あに)さん、先日はお弁当大変おいしゅうございました」

 と深々頭を下げたかと思うと、

 「で、次の豊洲の落語会はいつでしょうか」

 と出演希望なのか、アオキに行きたいのか・・・いや両方だな!という積極性を出して来た。今まで見せたことのない、驚くような前のめり加減。そして今では「どうする?今日アオキ寄ってく?」などと聞く間もなく、2人して足が自然とアオキに向かうように。

 アオキで楽しそうに総菜を選ぶらく兵の姿を見て気をよくした私は、どんどんスーパー打ち上げを開催することになるのです。というわけで次回は「スーパー打ち上げでミロを買った女優・真下玲奈」をお届けいたします。

 

※ツイッターで「#スーパー打ち上げ」で検索すると今までの打ち上げの様子を見ることができます。

 

 

立川志ら乃

1974年2月24日生まれ。98年3月、立川志らくへ入門。2012年12月に真打ち昇進。16年7月に「スーパーマーケットが好きである」ことを突如自覚。スーパーに関する創作落語に「グロサリー部門」「大豆なおしらせ」など。

Twitter:@tatekawashirano

ブログ:https://ameblo.jp/st-blog/