ネットと実店舗の顧客情報を統合し、個別化された最適なサービスを提供する「ユニファイドコマース」が注目されている。EC(電子商取引)事業の支援会社、いつも(東京都/坂本守社長)の望月智之副社長に「ユニファイドコマース」について解説してもらった。
「オムニチャネル」と「ユニファイドコマース」
ユニファイドコマースとは、一般的にはオンラインとオフラインがつながり、便利で一貫性のある、より良いショッピング体験を提供するという考え方である。いわばオムニチャネル(ネットと実店舗を統合した販売方法)の進化版だ。オムニチャネルが一般に「お客が店でもネットでも買える場所の提供」を意味していたのに対し、ユニファイドコマースは「買物の体験や買物のしやすさ」に重点を置いている。
とくにアパレル業界ではその活用が進んでおり、試着・接客・コーディネートの提案・購入・取り置き・チャット相談など接客周辺の領域で多く使われている。ユニファイドコマースの意義について、望月氏は「企業側と消費者側から見た視点では若干異なるので整理が必要だ」と話す。
企業側から見ると、リアルタイムで店舗とネットの在庫が常に共有され、両チャネルの顧客データが一元管理されていることが必要で、この「在庫管理」と「顧客データ」の一元化によって「お客さまにリッチな買物体験が提供できる」(望月氏)。
さらにお客の「購買情報」も店舗でもオンラインでも把握することによって、値引きや新商品の告知などマーケティングキャンペーンを最適化することができる。これらを全体的にシステムで統合することで、オペレーションが一元的に管理され、従来の煩雑な作業が効率化できることに企業側の意義があるという。
一方、消費者側から見ると、オンライン上で接客をしてもらい、店舗で受け取るなどのシームレスな(継ぎ目のない)買物体験が享受できる。また、好みの色や柄をおすすめされるなど、パーソナライズ(個人向けに最適化すること)された体験が提供される。さらに即時に在庫情報がわかり、受け取り場所は複数の選択肢から選べ、問い合わせ履歴とその内容が一元的に管理されることで、自分に合ったサービスを受けられるという。
従来は店舗中心だった商売が、ECが伸長し、2010年頃からオムニチャネルが登場、その進化系としてユニファイドコマースが注目されてきた。したがって、オムニチャネルにおける会員情報と在庫情報がすべての基盤になっている。
自動化の限界、人間の知見がカギに
ユニファイドコマースでは「顧客体験」と「パーソナライズ」が同時に語られることが多い。パーソナライズについて望月氏は「消費者が受け取る情報は以前に比べて格段に増えているうえ、必要な情報しか受け取らなくなっている。パーソナライズによってSNSなど会社から個人に発信する情報が読みやすく受け取りやすくなるなど、現状ではコミュニケーションツールの最適化という成果が出ている。課題はAIがいくら進歩しても、人間であるマーケッターによるシナリオやキャンペーンの設計、高度なマーケティング判断が必要で、それなしにはうまくいかないことだ」と述べている。
つまり、システムへの依存や数字に引っ張られることなく、マーケッターが業界や顧客を理解し、仮説とインサイト(消費者の隠れた心理)を持っていないと成果は出ないということだ。
一方、顧客体験について望月氏は「今の若い人たちは買物がデジタル中心になっている。オンラインがメインで、オフラインは受け取り場所などサブとしての限定的な機能にとどまっている」と指摘する。若い消費者はネット上で商品を見て、意思決定してから店に行くことが買物行動のデフォルトになっているため、企業側もオンラインを中心に試着、接客から支払いまでの一連の買物プロセスを、よりスムーズに、人を介さず実現できるように変える必要があるという。
顧客体験には、買物の煩わしさをなくすという方向のほかに、よりリッチな顧客体験を実現するという方向性がある。たとえばオフラインにおける優秀な販売員は、接客の声掛けから始まり、なぜ買物をしに来たのかを聞き、さまざまな商品や組み合わせのパターンを時間をかけて提示している。
ユニファイドコマースではこうした一連の接客をオートマチックに行い、クーポンや商品提案などによって滞在時間やページ閲覧数を増やし、売上に貢献するという流れを構築できるという。
ユニファイドコマースを機能されるためのポイント
ただその前提として必要なのは、リアルタイムの在庫連携など基幹システムの更新だ。
望月氏は「国内小売企業はITインフラ投資が欧米に比べて圧倒的に少ない。ユニクロや無印良品のようにデジタルの責任者や役員がいて、『組織全体をデジタル中心に変えていく』という意思決定をすることが必要だ」と強調する。ただ、「近年は会員情報や在庫情報の基盤を構築した小売業が徐々に増えており、この中で成功事例が出てくれば、意思決定もしやすくなるだろう」とも予想する。
ユニファイドコマースがきちんと機能するためには、以下の3つが重要であるという。
- 会員基盤と在庫基盤の整備
- 店舗受け取りなどオフラインとの連携
- アプリが消費者のスマートフォンに存在し、それを見に行く習慣がある
また顧客接点のハブがアプリになり、お客の動向やさまざまな行動履歴を企業が理解できなくてはならない。たとえばユニクロでは上記のポイントに加え、店舗とオンラインでの購入履歴がサイズも含めアプリに格納され、ひも付けされている点を望月氏は評価している。
食品スーパーやドラッグストアへの活用は
では嗜好性が強いアパレルではなく、食品スーパーやドラッグストアではユニファイドコマースは効果を上げられるのか。
望月氏は「食品スーパーはレシピと食品との買い合わせが鍵になり、お客の趣味趣向とひも付けること。ドラッグストアは基本的にはアマゾンのように購入したシャンプーなど消耗品が切れそうになったら、そのタイミングで通知を送り、さらに割引している他の商品も紹介するといった形でユニファイドコマースを実現できるだろう」と述べている。
関連する注目技術として望月氏はリテールメディアを挙げる。小売業は購買情報という最も本質的で価値のある情報を持てるし、最近はリテールメディアも以前よりかなり安いコストで構築できるようになっている。そのためにも、オンラインとオフラインを統合し、何を購入したかというデータを取得しておくことが重要だという。
ユニファイドコマースの広がりによって、「集客・コンバージョン(成約)率・買い上げ点数の向上」が実現できる。SHEIN(シーイン)やTemu(ティームー)などの中国発EC企業がマーケットを席巻するなか、国内企業は売れる商品が何かをデータで理解すること、高品質なものづくり、サプライチェーン全体を効率化することが課題だと望月氏は言う。
アパレルを中心とした小売企業にとどまることなく、食品スーパーやドラッグストアにおいても、ユニファイドコマースを実現するためのチャンスは到来している。AIの活用を含め、業界全体が大きく飛躍する機会が訪れている。