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「北の快適工房」の商品開発基準は850以上!北の達人コーポ木下勝寿社長インタビュー【前編】

自社開発の化粧品や健康食品のEC事業を手掛ける北の達人コーポレーション(北海道)。消費者の悩みに細かく対応した商品開発や、巧みな利益管理の手法で注目を集めている同社。今回は、同社の戦略について聞いた木下勝寿社長へのインタビュー内容を2回にわたってお届けする。前編では自社ブランド「北の快適工房」での取り組みを中心にまとめた。
(インタビュー実施日:2021年12月1日)

もともとは“副業”としてスタート

――足元の業績をどのように見ていますか。

木下 20212月期の業績は、売上高92億円(対前期比8.2%減)、営業利益20億円(同30.3%減)、経常利益20億円(同29.9%減)、当期純利益13億円(同29.7%減)の減収減益でした。しかし、計画比では新規獲得件数の増加などが奏功し、売上高・各段階利益ですべてプラスとなりました。

 222月期上期では、連結決算に移行したことで前期との正確な比較はできませんが、売上高49億円、営業利益9億円、経常利益9億円、当期純利益6億円となっています。今期も新規獲得件数が予想を超える伸びで、売上高・各段階利益は計画比を大きく上回っています。

 

木下勝寿●北の達人コーポレーション代表取締役社長。1968年神戸生まれ。大学在学中に学生起業を経験し、卒業後は株式会社リクルートで勤務。その後、独立するも、事業に失敗しフリーターに。無一文の中、北海道が日本で最も可能性を秘めた土地であるという判断をし、パソコン1台で乗り込み移住。コネもツテも一切無い状況から1人で起業し、社員数たった70人で東証一部上場を成し遂げ、一代で時価総額1000億円企業に。広告運用や商品開発、顧客サポート、システム開発に至るまでを内製化することにより利益最大化を実現。東洋経済ONLINE「市場が評価した経営者ランキング」1位。日本国政府より紺綬褒章8回受章。著書『売上最小化、利益最大化の法則利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)はAmazon3部門を始め、ビジネス書ランキング各種7部門で1位となる。

――コロナ禍でEC業界は好調ですが、木下社長の体感としてはいかがですか。

木下 コロナ禍でECは伸びたと言われていますが、それはもともと実店舗のコンビニエンスストアやスーパーマーケットで購入していたものをECで買うようになった人が増えたというだけで、当社のようにもともとECで販売していた商品がさらに売上を伸ばしているわけではありません。

 212月期では計画比は上回ったものの、対前期比では減収減益です。その理由はコロナ禍というよりはマーケティングスキルのマンネリ化や商品開発のスピードの遅さなどの内部要因にあります。われわれのオリジナルブランド「北の快適工房」では「びっくりするほどよいものができたときにしか販売しない」というコンセプトがあり、年間で販売開始できる商品の数にバラつきがあります。また、1つの商品を開発するのに2~3年かかるため、今後は同時並行で開発する商品の数を増やしていくなど工夫していきたいです。

――「北の快適工房」の商品開発の手法について詳しく教えてください。

木下 もともと当社は北海道の特産品を販売する会社でしたが、オリゴ糖を中心に健康食品を売り始めたのが現在の「北の快適工房」のはじまりです。最初はあくまで“副業”の位置づけだったため、「いいものができれば売ろう」というスタンスでした。徹底的に品質を追求した商品だけを販売し、お客さまに喜んでいただいたことが今の事業の根幹となっているため、今後もこの方針は継続していきます。

消費者のクレームをチェック項目に反映

――品質を追求するうえで重視しているポイントはありますか。

木下 最も重要視しているのはお客さまの「体感」です。モニター調査では、社名も商品名も明かさず商品を使ってもらい、アンケートで70%以上が効果を体感することが発売の最低条件です。これに加え、熱を加えたときや落下した場合の耐久性など、当社独自の850以上のチェック項目をすべてクリアしてようやく発売となります。この項目が年々増えており、開発のハードルが高くなっているのが悩みの種でもあります(笑)

――そこまで多くのチェック項目を設けている理由を教えてください。

木下 当社は取り扱い商品が35アイテムと少ないぶん、1種類の商品を大量に販売する戦略を採っています。たとえば、不具合が出る確率が1万分の1の場合、われわれは100万個販売すると100個の不良品が出ます。多品種少ロットの企業は1万個しかつくらず、クレームは1件しか出ないため見逃される傾向があります。しかし当社は100件クレームが出ますので、その1つ1つに目を向けているため、チェック項目が増え続けているのです。

13種類の効果を盛り込んだ育毛剤を開発

――最近のヒット商品は何ですか。

木下 169月に発売した「ヒアロディープパッチ」が大ヒットしています。絆創膏のガーゼ部分にヒアルロン酸を固めた剣山のようなものを付けた「マイクロニードル」という技術を採用した商品です。

 ヒアルロン酸が保湿に効果的な成分だということはよく知られていますが、分子が大きく浸透しにくいという欠点もあります。浸透率を高めるには分子を小さくする手法が一般的ですが、「ヒアロディープパッチ」では逆に分子を大きくし、痛みを感じない程度の小さな針で皮膚に直接ヒアルロン酸を注入するという手法を採りました。年間売上は関連商品を含め40~50億円規模となっており、当社全体売上の約半分を占めるほどの商品に成長しました。

大ヒットした「ヒアロディープパッチ」

――ほかに同規模の売上を持つ商品はありますか。

木下 10~20億円程度の商品はありますが、まだ「ヒアロディープパッチ」ほどの規模には育っていません。最近ではオールインワンゲルの「シンピスト」や男性をメーンターゲットとした発毛促進剤の「モウダス」に力を入れています。「モウダス」を開発する際には、市販されている200種類以上の育毛剤を調べ、「抜け毛を防ぐ」「頭皮を健やかにする」など、各育毛剤が持っている効果を13種類に分類しました。しかし薄毛の原因は人によって異なり、複合的なものでもあるので、どれが自分に合うかは使わなければわかりません。そこで「モウダス」では13種類の効果をすべて盛り込み、誰にでも使いやすいようにしました。

 後編では商品開発の方向性や利益アップの手法、今後の成長戦略についてまとめています。お楽しみに!