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「デジタル化と小売業の未来」#9 日本で外資系スーパーマーケットの撤退が相次ぐなか、コストコが生き残った理由

ECを含めた米国の小売業界は日本の先を行き、その象徴とも言えるアマゾン(Amazon.com)の影響力は日本の比ではありません。ただし、世界の名だたる小売企業が日本に進出しては撤退を繰り返してきた歴史を振り返ると、世界で成功している企業が必ずしも日本でも成功できるわけではありません。今後、そんな日本でデジタルと共存する実店舗の在り方を考えるためには、これら歴史的な背景を「ガラパゴス」というざっくりとした言葉で片付けるのではなく、世界と日本の「決定的な違い」を見直す必要があるでしょう。

コストコのアメリカと日本の店舗数のちがい

 日本において外資系食品スーパー(SM)の数少ない生き残りとも言われているコストコ(Costco)を例に挙げて考えてみましょう。デロイトトーマツコンサルティングが発表した調査レポート「世界の小売業ランキング2020」によると、2018年度の売上高ランキングはウォルマート(Walmart)が小売売上高約5144億米ドルで1位、コストコが同1415億米ドルで2位、アマゾンは同1402億米ドルで3位。18年度ではコストコはアマゾンを上回る巨大小売チェーンとなっています。

18年度のコストコの売上はアマゾンを上回っている

 世界的に見ても驚異的な売上高を誇るコストコですが、日本ではそれほどの影響力を持つには至っていません。その理由を詳しく見ていきましょう。

 コストコの店舗は「イケア」や「ドン・キホーテ」と同様に、店内の滞留時間を長くするように設計されています。とくに家族でゆっくり滞在できるように、店舗や駐車場も大きく設計されており、子連れでも安心して車で来店可能で、食料品や日用品などを大量にかつ安くまとめ買いすることが可能です。日本においてもその目新しさと独自性が支持を集め、日本でも30店舗を展開しています。しかし、米国(プエルトリコ含む)では559店舗を展開しており、日本とはケタ違いであることがわかります。

 

日本の住環境では大量のまとめ買いができない

  この圧倒的な差を生んでいる大きな理由の1つが、日本の住環境にあります。アメリカでは住宅面積の広さから冷蔵庫が複数ある家庭が多いほか、冷蔵庫とは別に大きな冷凍庫を所有している家庭もあります。そのため、冷凍食品を大量に買い溜めしていることが一般的です。

 一方、日本の住宅はアメリカほど広くはありません。カニや肉、魚などお徳用のビッグサイズ商品は、欲しいと思っても冷凍庫に入る絶対量が少ないため、物理的に購入可能な個数に制限があります。限られたスペースに収納できるぶんだけを購入するのであれば、わざわざ郊外店舗に行かなくてもネットで簡単に購入できるため、まとめ買いを前提とした外資系の小売店舗はどうしても苦戦を強いられるのです。

コストコは日本で「イベント的に遊びに行くエンターテインメントの場所」として定着した(写真は日本国内店舗の売場)

 アメリカのように、日常的に商品を買いに行く場所としてコストコを利用する人は日本では多くはないでしょう。しかし、ほかの外資系SMが撤退していくなか、日本でもコストコは生き残ることができています。その理由は、コストコが「イベント的に遊びに行くエンターテインメントの場所」として定着したからです。

 

「買う店」と「行く店」のちがいを理解する

 日本では週末に行きたい場所として、百貨店やショッピングモール、イケア、コストコなどが上位に挙がる傾向があります。しかし、これらは決して買いたい物がある場所の上位にランクインしているとは限りません。実際に買いたいものや買う必要があって行くお店と、とくに買うつもりはないけど週末に行きたいお店は全然ちがうのです。「買う店」と「行く店」のちがいを理解することに、日本の実店舗が生き残るヒントが隠されています。

アメリカの小売トレンドは日本の先を行っている

 米国では、アマゾンの影響もあってコロナ前から実店舗の閉鎖が加速しています。コストコのように米国と日本の店舗を全て単純比較することはできませんが、小売における大枠のトレンドは常に米国を追従してきています。大きな視点では米国のトレンドを元に日本の今後を予測しながら、さらに日本ならではの生き残り方を模索する必要があるでしょう。デジタルが台頭してきたことで、「買う場所の定義」は大きく変化しているのです。

 

プロフィール

望月智之(もちづき・ともゆき)

1977年生まれ。株式会社いつも 取締役副社長。東証1 部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつもを共同創業。同社はD2C・ECコンサルティング会社として、数多くのメーカー企業にデジタルマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。