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活況のフードデリバリー市場に北欧から現れた刺客・Wolt(ウォルト)の深謀

新型コロナウイルス(コロナ)禍での巣籠もり需要を背景に、国内でも活況を呈するフードデリバリー市場。「Uber Eats」や「出前館」など全国区でサービス網を展開する大手をはじめ、大小さまざまなプレーヤーが乱戦を繰り広げている。そんななか、北欧・フィンランドから日本上陸を果たし、地方都市を中心に勢力を広げつつあるのが「Wolt(ウォルト)」だ。サービス品質向上を徹底的に追求した「おもてなしフードデリバリー」を標榜し、日本国内でのシェア拡大を図っている。

地方都市を皮切りにサービス開始、10月には東京にも進出 

フィンランド発のフードデリバリーサービス「Wolt(ウォルト)」。20年10月に東京にも進出した

 近頃、水色のユニフォームや配達バッグを身にまとって自転車で駆け抜ける配達員の姿を目にしたことはないだろうか。おなじみの四角い黒地のバッグを背負ったUber Eatsの配達員に比べると数はまだ少ないが、その鮮やかな”水色の配達員”の正体は、北欧発祥のフードデリバリーサービス「Wolt(ウォルト)」の配達パートナーだ。

 Woltは、2014年にフィンランドの首都ヘルシンキで創業。現在は世界23カ国110都市以上でサービスを展開している(12月現在)。日本では20年3月に広島でサービスを開始したのち、札幌市、仙台市、呉市(広島県)と徐々にエリアを拡大、同年10月には東京への進出を果たし、渋谷区、港区、新宿区、目黒区、世田谷区、品川区の一部を対象にサービスを提供している。さらに12月初旬には岡山市、旭川市、盛岡市、福岡市と立て続けに新規エリアを開拓。短期間でのサービス網拡大を果たしている。

 ただ、コロナ禍で需要が高まっているとはいえ、国内フードデリバリー市場はUber Eatsをはじめ、数多のプレーヤーが乱立する激戦市場。ましてやWoltは後発であり知名度も低い。そこで淘汰されずに勝ち抜くためには競合との差別化が必須だ。

カスタマーサポートはあえて人力… 
「おもてなしフードデリバリー」が意味するところ

 当然、Woltも無策の丸腰で日本市場に参入したわけではない。同社は「おもてなしフードデリバリーサービス」を標榜するが、これは日本における戦略の方針を一言で表したものだ。つまり、従来の「レストランの味が手軽に家で楽しめるという利便性」のみを訴求するのではなく、そこに「徹底した顧客満足向上のための取り組み」を付加したということだ。

 その一環として、サービスエリアである各地域にオフィスを置き、カスタマーサポートを行うというのがWoltの特徴の1つだ。日本支社の第1号社員でマーケティングマネージャーを務める新宅暁氏は、「フードデリバリーはレストラン、配達員、お客さま、そしてそれを支えるシステムなどが複雑に絡み合うビジネス。どこかでエラーが1つ起きれば、配達の遅延につながる。そうしたエラーをいち早く改善し次は起こさないことが顧客満足度向上につながる」と話す。各所で起きる不測の事態にスピーディに対応するため、オフィスをローカルで設けることにこだわるのだ。

 また、お客からの問い合わせはチャットで受けるが、流行りのチャットボットではなくすべて人力で対応する。平均1分以内で担当者が返信する仕組みで、コストや労力はかかるものの、顧客満足向上のためには欠かせないものとしてこだわっているようだ。

 ちなみに、このチャットシステムは配送員も利用する。「注文内容に相違がある」「届け先の情報に不備がある」といった不測の事態に瀕しても、すぐにサポート部署から対処法について回答が得られる。配達員は1分1秒の遅れが1日の報酬に影響する面もあるため、チャットシステムは配送遅延の抑止だけでなく、配達員の待遇向上(報酬アップ)にもつながっていると言える。

 加えて、配達員の”質”も重視するのがWoltの特徴だ。近年、フードデリバリーサービスの浸透とともに、配達員が関与する交通事故の多発や、交通ルールの無視といった問題が顕在化している。そこでWoltは採用ハードルをあえて引き上げて、交通ルールを順守し安全に商品を届けられる配送員のみを採用している。

 Woltの配達員になるためには説明会の受講が必要で、その後適正テストを受験する。ここで規定の点数に達しない場合は配達員として登録できない決まりだ。

「Wolt限定メニュー」も豊富に展開

Woltのクリスマス限定メニューの一例。写真は「バビーズ汐留」のスペシャルメニュー

 もちろん、利用できるレストランのラインアップ充実も顧客満足向上の一環として注力する。Woltは競合他社に増して「ローカル」を強く意識しており、地元で人気の飲食店との連携を重視している。すでにサービスを展開している地域では、これまでフードデリバリーサービスに対応してこなかった飲食店も多く参加しているという。

 また、飲食店の協力のもと、Wolt限定のメニューも多く揃える。直近ではクリスマスシーズン限定の特別メニュー「Wolt BLUE SANTA SPECIAL」を12月18~25日に東京、札幌、仙台、広島の4都市で提供。東京都内では21店舗、そのほかの都市を含めて計40店舗とコラボレーションし、Wolt限定のクリスマスメニューを販売する。

 このように飲食店とのコラボが充実しているのは、前述のとおり各地にサポート拠点を置き、飲食店と近い距離でコミュニケーションができているためだ。

100億円を投じ100都市での展開をねらう

日本では合計100億円を投じ、100都市でのサービス展開をめざす

 「おもてなし」という日本ならではのきめ細かなサービスを武器に市場深耕を図るWolt。今後数年間で100億円を投じ、全国100都市でサービスを展開するという壮大な目標を同社は掲げる。

 しかしその達成のためには、東京や大阪といった大都市や、すでに展開している仙台や札幌、盛岡といった政令指定都市あるいは県庁所在地よりもさらに規模の小さい地方都市での展開が必要になってくる。人口が少なくなればそれだけ収益化が難しくなるとみられるが、Woltには勝算があるようだ。「本国のフィンランドやそのほかの国々では人口2万人程度の町でも単体で黒字化できている。これはWoltが持つ独自のアルゴリズムにより、配達の効率化が図られているためだ」(新宅氏)。また、冬季は雪の降る地域でも「気候条件の厳しい冬が長いフィンランドでさまざまなノウハウを蓄積している」(同)として、スムーズな運用が可能なようだ。これについてはすでにサービスを開始している旭川、札幌、盛岡、仙台などでの冬季の稼働状況が注目される。

 100億円という巨額を投じ、Uber Eatsなど有力プレーヤーとの差別化を図りながら日本市場に爪痕を残すことはできるか。北欧からの”青い刺客”の今後から目が離せない。