新型コロナ禍以降、CtoC(個人間取引)のフリマアプリやリサイクルショップなど、二次流通のマーケットが活況を呈している。業界紙「リサイクル通信」の調査によると、2020年の市場規模は2兆4169億円。2022年には3兆円を突破すると推計されている。
その中で、2020年に日本の二次流通市場に参入したのが、アメリカ発のCtoCマーケットプレイス「StockX」(ストックX)だ。デッドストックのスニーカーやストリートファッションの取引に株式市場のメカニズムを取り入れたビジネスモデルで注目を集め、日本での認知も拡大しつつある。その独自のビジネスモデルと、日本市場に参入したねらい、今後の展開について、StockX Japan シニアディレクターのデュイ・ドーン氏に話を聞いた。
取引価格をオープンにして透明性を確保
StockXは、スニーカーやストリートファッションを中心に、現在では生産されていない「デッドストック」のアイテムを取引するグローバルプラットフォームだ。2016年にプレミアムスニーカーを売りたい「セラー」と、それを買いたい「バイヤー」をつなげるCtoCのデジタル・マーケットプレイスとして、米デトロイトで創業した。
そのコンセプトは、ニューヨーク証券取引所の株式取引のメカニズムを、プレミアムスニーカーの取引に応用したものだ。一つのスニーカーに対して、セラーは売値を提示し、バイヤーはそれを見ながら希望する買値を提示する。両者が折り合ったところで売買が成立する仕組みだ。
StockXのサイトにはさまざまな出品アイテムが並んでいる。その中から、例えばナイキのスニーカーをクリックしてみると、アイテムの画像ととともに「出品を見る」「入札を見る」「販売を見る」の3つのボタンが表示される。
まず「出品を見る」というボタンをクリックすると、シューズのサイズごとにセラーの出品状況が出品額とともに表示される。「どのサイズを、何人が、それぞれいくらで出品しているか」を一覧で確認することができる。
次に「入札を見る」をクリックすると、今度はバイヤーが入札した価格がサイズごとに一覧表示されている。最後に「販売を見る」をクリックすると、実際に取引が成立した履歴が価格、日付とともに表示されている。つまり、セラーの出品額、バイヤーの入札額、過去の取引額がすべてオープンになっているのだ。
オークションサイトやフリマアプリなど一般的なCtoCのマーケットプレイスでは、商品を持つセラー側にイニシアティブがあり、実際の取引相場を超えた高値で出品される状況が常態化している。その取引情報をすべてオープンに公開することで、公正な取引を確保しているのがStockXのユニークな特徴だ。
「鑑定士」が一点一点のアイテムをチェック
もう一つ、StockXのビジネスモデルを支えているのが「オーセンティケーター(authenticator)」と呼ばれる「鑑定士」の存在だ。
セラーとバイヤーとの間で取引が成立したアイテムは、そのままバイヤーの手元に渡るのではなく、一度StockXの鑑定センターに運ばれ、鑑定士が真贋をチェックする。その上で「本物」と認証を受けたアイテムがバイヤーの手元に届くシステムだ。
「セラーの商品紹介やサイズ、コンディションの説明が適正かどうかを、鑑定士が実際に手に取ってチェックしている。質の高いサービスを提供する上で、彼ら鑑定士は『ゲートキーパー(門番)』の役割を果たす重要な存在となっている」
こう語るのは、日本における責任者でシニアディレクターのデュイ・ドーン氏。鑑定センターは世界中に12拠点あり、すべてのアイテムに対して実際に人の目でチェックをかけることでマーケットの信頼性を高めている。
不透明な取引が横行しやすいプレミアムスニーカーやストリートファッションのデッドストック市場に、株式取引のシステムや鑑定士によるスクリーニング機能を導入したことで、透明性の高いマーケットプレイスを創造したStockX。スニーカーのほかアパレル、ゲーム機、トレーディングカード、アクセサリーなどさまざまなアイテムが全世界200か国以上で取引され、総取引アイテム数は3000万件、月間の訪問者数は3000万人以上に上る。
また、StockXは国ごとではなく一つのグローバルなマーケットプレイスを形成しているため、セラーにとっては世界中のバイヤーを相手にでき、バイヤーにとっては世界中のアイテムにアクセスできる。このことも、StockXの大きな魅力となっている。
日本市場への進出のねらいとは?
そのStockXが、日本にオフィスを構えたのは2019年。「もともと日本市場には強い関心を持っていた」とドーン氏は話す。
「日本にはストリートファッションやスニーカーを愛好する文化があり、当社としてもプレゼンス(優先度)の高い市場と位置づけていた。加えて、おもてなしの精神などサービスに対する高いクオリティがスタンダードになっている。その日本市場でビジネスをすることは私たちにとって自然なことであり、チャレンジングなことでもあった」
約1年の準備期間の後、翌2020年6月に日本版のサイトをローンチ。しかし、そのタイミングでよもやの新型コロナウイルス禍に見舞われた。「非常に過酷な環境でローンチしなければならなかった」と、ドーン氏は当時を振り返る。
「一方で、コロナ禍によってECでの買い物がポピュラーになったことが追い風となった。世界的に、ロックダウンしていない国で仕入れたアイテムがロックダウンしている国に流れるなどの傾向もみられた。日本市場においても、結果的に非常によいタイミングでサービスを提供することができた」
世界で3店舗めのリアル店舗が原宿にオープン
日本で本格展開して約2年が経過したStockX。「日本市場では、StockXに対して非常に強い関心と需要があり、多くのチャンスがあると考えている」とドーン氏は一定の手応えを感じている。引き続き日本市場を重視し、投資を続けていくかまえだ。
それを裏づける動きとして、2022年7月16日には、日本における“ストリートファッションの聖地”である東京・原宿に、StockXの実店舗「ドロップオフ & ストア」をオープンした。「ドロップオフ」とは、取引が成立したアイテムをセラーが店舗に持ち込めるサービス。通常であれば、梱包、配送ラベルの印刷、集荷などをして鑑定センターに送る必要があるが、その手間がなくなり負担を軽減、より多くのセラーの参加を促すねらいがある。東京の「ドロップオフ & ストア」は、世界ではニューヨーク、香港に続く3店舗め。実際にニューヨークや香港ではドロップオフによって、販売が促進されたという実績がある。また、スタッフが厳選したアイテムを店頭に展示するショールーム型の店舗としては、世界初の試みとなる。購入はあくまでもサイト上からなので店舗にある商品を持ち帰ることはできないが、実際に見て決めることができるため、バイヤーにとってもメリットになる。
この秋には世界で13か所めとなる鑑定センターを日本国内に開設予定だ。この日本の鑑定センターを「次の大きなステップ」とドーン氏は位置づけている。
「日本の鑑定センターがフル稼働すれば、国内での取引数が増加し、日本のセラー、バイヤーが増えるきっかけにもなる。このセンターの開設をきっかけに、さらに日本でのビジネスを成長させていきたい」
スニーカーやストリートファッションの文化が根強い日本において、着実に存在感と信頼を高めつつあるStockX。コロナ禍を機に活況を呈する二次流通ビジネスに、さらに弾みをつけてくれそうだ。