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「店舗の限界」を超えろ!ビッグ・エーとベイシアの食品EC参入動機とは

食品スーパーでは、ネットスーパーやQコマース(短時間宅配)を導入する試みが加速しています。デジタル・トランスフォーメーション(DX)の時流やコロナ禍における必要性が後押ししている側面はあるとしても、オンライン販売の手段を得ようとする動機は、リアル店舗の限界を超えて商機をつかみたいという欲求から来ているようです。ビッグ・エー(東京都/三浦弘社長)のように狭小商圏で成り立つ業態にもリアル店舗ならではの限界があり、ベイシア(群馬県/相木孝仁社長)のように広域型のフォーマットにも同じ理由の越えられない壁があります。それは何か? 店を開けて待っているだけでは、来店してくれない顧客がいるという事実です。

ビッグ・エーはOniGOとの協業で即時配送サービスを導入

ビッグ・エー、OniGOで商圏拡大

 商圏800mで成り立つビッグ・エーほど生活圏に密着した店舗でも、本来なら来店するはずの顧客が、諸事情によって来られないという状況に直面します。

 ビッグ・エーの三浦弘社長は、「雨が降れば客数は減るのが事実です。こちらからお客さまに近づくにはどうしたらいいか。採算の取れる宅配の方法をずっと探していました」と言います。

 たどり着いたのはQコマースのOniGOとの提携でした。6月24日に豊島上池袋店(東京都豊島区)で即時配送サービスを開始しています。OniGOは最短10分の配達をうたう宅配スーパーが基本ですが、ビッグ・エーとの提携では30分以内と設定しました。これにより豊島上池袋店からの配達範囲は3~4kmに広がります。

「たとえテレビCMを打ったところで、これほど遠方からは来店していただけません。しかも雨が降っても酷暑でもオーダーが入ります」(三浦社長)

 OniGO経由の販売では、商品売価にOniGOの粗利益を上乗せするので、価格は店頭と異なります。これにより店舗利用とのカニバリは防げると想定します。一方、ビッグ・エーのディスカウント価格は、Qコマースの利便性への対価を加えてもなお価格訴求力を発揮します。1号店は上々のスタートを切ったそうです。

 車利用も多い食品スーパーの場合、30分配達というQコマースの時間的な制約では、拠点となる店舗の商圏は広がりにくいと思われます。しかしビッグ・エーのように基本800m圏内という狭小商圏フォーマットだと、リアル店舗の距離的な限界を超えて商圏が広がります。小型DSとQコマースの組み合わせは相乗効果を発揮するとみて、両社の協業は年内11店舗への拡大が決まっています。

ベイシア、楽天で来店頻度を補完

広域からの集客が強みのベイシアには広域フォーマットならではの課題も

 広域商圏フォーマットにもオンライン販売を導入したい事情があります。ベイシアは今年1月、楽天全国スーパー内でネットスーパーの営業を開始しました。7月中旬までに群馬県を中心に9店舗へ導入済みです。ベイシアにおけるリアル店舗の課題は来店頻度でした。何kmも遠方から集客できる強みの裏返しと言っていいかもしれません。

 より頻繁に来店してもらうにはどうするか。対策として小型店「ベイシアマート」の展開を長らく検証してきましたが、現在は店舗数を縮小しています。オンラインショッピングの浸透もあり、ネットスーパーの利便性で利用頻度を補完する方向に舵を切りました。

 楽天グループとの協業を選んだ理由について、7月初旬まで社長をされていた橋本浩英副会長は、「自前によるシステム構築の難しさを考え、また楽天会員の基盤を活用できる利点もあって提携を判断しました」と言います。

 楽天全国スーパーの情報システムやサイトへの集客力を活用しつつ、店舗でのピッキングから宅配までの仕組みは独自で整えました。取り扱い商品は最大3万点。スーパーセンターならではの在庫規模です。

 ドミナントエリア内で導入店舗を増やしていくほか、ネットで購入・店舗でピックアップといった方法も検討しているそうです。

 ビッグ・エーのように徒歩でも行ける身近な業態だと、「車に乗って外出される際には、当社を越えてもっと大きな店に行かれてしまう」(三浦社長)となりますが、ベイシアほど広域のフォーマットになると、そこにたどり着く前に別の店の駐車場に入っていく生活者は増えることでしょう。

 店が小さくても大きくても、近くても遠くても来店できない事情はありますし、悪天候などで外出すらままならない状況もざらに起こります。しかしどんな時でも店舗には在庫を抱えるわけですから、いかなる時でも商機を得たいと考えるのは道理です。むしろリアル店舗を運営しているからこそ、オンライン販売の手段が必要なのかもしれません。