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ECモール激戦時代を勝ち抜くには? 3本柱からなるパルコのデジタル戦略とは

コロナ禍で百貨店やファッション専門店のデジタル化が加速する中、ファッションビルもECモールを拡充させている。その代表格がパルコ(東京都/牧山浩三 代表取締役 兼 社長執行役員)だ。小売店自社サイトの急増、巨大ECモールの台頭に対して、「オリジナル企画」「独自メディア」「独自のビッグデータ」という三本柱をテコに、ECモールの独自性を強化。顧客やテナントの支持を高めるデジタル戦略を打ち出している。

ECならいつでも、どこでも接客可能

オムニチャネルプラットフォーム(2014年当時)

 コロナ禍を契機として、百貨店やファッション専門店のEC化が加速しているが、商業施設大手のパルコも、ECに全力投球中だ。EC売上高は、2020年度が前期比約3倍、21年度上期が同約1.5倍と、急ピッチで拡大している。

 同社は現在、J.フロントリテイリンググループとして、大都市圏をメーンとするファッションビル「パルコ」18店舗などを展開しているが、リアル施設と並行して、ECモール「パルコオンラインストア」も開設している。

 「2019年に旗艦店である渋谷パルコがリニューアルオープンして間もなく、コロナ禍に見舞われ、長期休業を余儀なくされました。社内で危機感が募ったことで、EC化に火がつきました」と、同社執行役員 CRM推進部 デジタル推進部担当の林直孝氏は振り返る。

 ECモールの前身は、テナント支援の一環として14年にスタートした「カエルパルコ」というオンラインサービスだ。

 「リアル施設では、商圏内のお客さまに、営業時間内に接客するしかありません。ところが、インターネット上のバーチャル施設であれば、そうした制約がなくなり、いつでも、どこでも接客できるようになります。テナントさんも、ビジネスチャンスが広がると考えたわけです」(同)。

 カエルパルコは24時間、ネットで注文でき、商品を自宅に配送するか、店舗で受け取るかのいずれかを選べるようにしたもの。オムニチャネルの取り組みの一つだった。

 パルコのHPにはもともと、テナントの販促支援策の一つとして、ショップスタッフが手軽に書き込める、ブログのコンテンツを用意していた。すると、ブログを見た顧客から、「掲載されていたアイテムが欲しい。どうすれば買えるのか ? 」といった問い合わせが、増えてきたという。

 そこで、ブログとECサイトを連動させ、商品をネットでも購入できるようにした。「“カエル”というネーミングは、お店に行かなくても“買える”、頼んだ商品をお店から“持ち帰る”という、二つの言葉をかけたものなんですね」(同)。

 ブログのアカウントはテナント全店に付与され、現在、約2500店舗がブログを運用しており、毎月約1万本の記事が投稿されているという。

テナント支援で、顧客からの支持もアップ

オンラインストア企画「渋谷 PARCO 通販はじめました」

 同社のECを担うCRM推進部は現在、契約社員を含めて23人の陣容。内訳は、オンラインストアチームが67人、カードポイント・キャッシュレス決済チームが67人、コミュニケーションチームが45人、カスタマー・テナントサポートチームが45人となっている(マルチタスクのため、複数のチームに所属しているスタッフもいる)。

 同社のEC事業の特徴としては、テナント支援機能の充実が挙げられるだろう。「当社はリーシングが生業で、商品を直接販売しているわけではありません。その代わりに、ECでもテナントさんをサポートし、売上アップに寄与したいと考えています。そうすれば、“パルコに出店してよかった”と評価してもらえるし、お客さまからの支持にもつながる。当社のビジネスにもプラスになるからです」(同)。

 例えば、テナント向けの研修メニュー(参加無料)を豊富に揃えている。「ECサイト用の商品写真を魅力的に撮影するにはどうしたらいいか ? 」「お客さまの心に刺さるブログを書くにはどうすればいいか ? 」といったテーマ別に研修を行い、テナントの成功事例を紹介したり、有名なユーチューバーやインスタグラマーを講師に招いたりしているという。

 とはいえ、流通各社がECを手掛けるのが当たり前になった今、ファッションビルは、ECでも転機を迎えている。小売店が続々と自社サイトを立ち上げ、楽天やアマゾン、ZOZOTOWNといった巨大なECモールが成長する中、「ファッションビルのECモールがなぜ必要なのか」という、存在理由が問われているわけだ。

 パルコの場合、独自ポイントが大きな武器になっている。「お客さまからすれば、同じ商品を買うなら、ほかのECサイトよりも当社のECサイトのほうが、ポイントがつく分、お得というわけです」(同)。テナントのショップにとっても、パルコのECサイト経由でも商品が売れれば、自店の売上に計上されるため、「ECでも、パルコで売れたほうがいい」ということになるわけだ。

ECの独自性を高める三つの柱とは?

越境ライブコマースイベントの様子

 ただし、競合するECサイトに打ち勝つには、さらなるパワーアップが必要だと、林氏は強調する。同社が、今後のECモールのバージョンアップ計画で打ち出す差別化戦略はズバリ、独自性の強化。その柱は三つある。

 一つ目がオリジナル企画。パルコでしか買えない商品、体験できないイベントを増やすことだ。

 例えば、人気ゲームキャラクター「スーパーマリオ」とのコラボレーショングッズを217月以降、パルコのテナント限定で順次発売した(リアルショップでも購入可能)。商圏内のリアル店舗に、期間限定でECモール出店を募る「ポップアップショップ」という企画もある。また、広島パルコでは、同施設のテナントだけが参加できる、プロ野球チーム「広島東洋カープ」とのタイアップ企画も、独自に実施している。

 二つ目が独自メディア。21912月には、プロモーション部と共同でライブコマース「オンライン商店街」という、言わば「ネット催事」を開催し、テナント約30社が参加した。「ECプラットフォームの提供も、動画収録もパルコで引き受け、テナントさんに負担はかけませんでした」(同)。集客力のあるネット催事であれば、テナントも参加するメリットを感じやすいだろう。

30カ国に顧客がいる渋谷パルコでは約2カ月間の休館を機に、中国向けに「越境ライブコマース」も始めた。ECでの多言語対応も、自社の機能が乏しいテナントにとっては、魅力ある付加価値サービスとなりうる。また、渋谷パルコでは、パルコのECモールとテナントの自社サイトをリンクさせた画像データを「デジタルサイネージ」で表示、在庫状況をリアルタイムで確認しながら、欲しい商品をネットからでも、店頭からでも注文できるという。

 三つ目が独自のビッグデータの活用。同社には物販だけでなく、飲食、出版、美術、エンターテインメント(演劇・音楽・映画など)といった、さまざまな事業部門がある。「パルコミュージアムでは、入場券や関連グッズの販売といった取扱高のEC化率が、20年度には30%を超えました」(同)。

 そうしたさまざまな事業分野から、カードの購買履歴などの情報を集積すれば、顧客一人ひとりの生活パターンや嗜好が、きめ細かく把握できるわけだ。23年までの3ヵ年中期経営計画では、全事業部門の顧客情報を統合して一元管理し、「特定のアーティストやアニメキャラが好きそうなお客さまには、それらのアーティストやアニメキャラのコラボグッズの売場を案内するといった、“ほかのECサイトではできない販促”も可能になります」(同)。そうすれば、テナントの販売効率アップも期待できそうだ。

 ECにおいても、こうした「パルコならでは」の独自機能を磨いていけば、「お客さまからも、テナントさんからも、より強い支持を頂けるショッピングセンターに進化していきたいと考えています」と、林氏は自信を示している。

執行役員 CRM推進部 兼 デジタル推進部担当の林直孝氏