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ID-POSデータ分析・活用の進化と実践アプローチ 顧客の購買行動の可視化・データ活用の最前線

スーパーの基本“天井までキャベツ”をデータ分析でアシスト

データ分析を踏まえて未来図を描くのは人間の仕事

 いまさらのID-POSだが、上手く使えていない小売業は基本的なところ、最初の段階から失敗している。POSからID-POSになって、個人識別というデータを手に入れることができた。それで簡単に売上アップができる、というのが勘違いスパイラルの第一歩。ID-POSはより精密なPOSデータであり、POSを売上につなげるスキルがなければ使いこなすことはできない。

 スーパーはマス化によるシステム産業。ちょっと前まで“天井までキャベツ”を積み上げて売っていたのが実態だ。それを飛ぶように売るのがスーパーである。単品の積み上げが狙いならば、ID-POSで顧客のクラスター分析をするよりもセールを打ったほうが確実に売れる。つまり“天井までキャベツ”をアシストするのが、データ分析なのである。

 専門家を自認する商品部と、汗かいて販売を支えてきたのが運営部、そして統計の結果を
受け入れる習慣のなかった経営層。そうした体制を変えるべきか。これまでもそれでやってきたし、無理に変えなくても、それぞれを“さらに際立たせる”ためにデータ分析があると考える。そもそもデータ分析は昨日の反省しかできない。それを踏まえて未来図を描くのが人間の仕事なのである。

 コープデリ連合会では、元々実験用に作ったID-POSシステムを全店に導入したため、初期投資負荷が少なくて済んだ。さらにかつてダンハンビー社と提携したことも、組織全体に
ID-POSの理解が進む要因となっている。

※講演資料より掲載(クリックで拡大)

離脱しそうなロイヤル顧客には金券クーポン発行

 コープデリ店舗では、週に15万枚から20万枚のレシートクーポンを発行している。アナログなやり方だが、この効果分析にこそID-POSが活きてくる。クーポンには3種類ある。商品の値引き、全体から定額値引き、全体から定率値引きの3パターンだ。目的は2種類で
商品をたくさん売ることと、来店を促すということ。しかしたくさん売るならば“天井までキャベツ”方式の方が圧倒的に売れる。だから来店を促すことに注力したい。クーポンで単品売上が増えることではなく、利用者の来店行動を注視している。そのため値引原資はバイヤーにも取引先にも依存せず、宣伝予算でまかなっている。

 10円引きのクーポンを発行しても週当たりの値引きは28万円。利用者1万人程度で統計的に0.3回来店が増えるので客数は3000人増となる。クーポンを使う人はなぜか客単価が高いので来店増で720万円の売上増につながる。

 「お店がロイヤル顧客を育てる」と多くの指南書に書いてある。しかしID-POSデータで検証すると、ロイヤル顧客はどんどんランクダウンしている。コープデリ店舗で年間4万7000人も自然減している。しかし誠実に商売していれば、新しいロイヤル顧客が自然に現れる。

ロイヤル顧客を増やすより減らさない方が効率的だ。詳細は伏せるが未利用化の事前
購買行動パターンを把握している。それを察知して金券クーポンで元の購買パターンに戻す施策を行っている。それによりクーポン使用者の8週間後の離脱率はほぼゼロを維持しており、週当たり1500万円程度の売上に貢献している。

※講演資料より掲載(クリックで拡大)

過去からの慣習をID-POS分析で検証

 最終的な施策は、売場に手を入れること。お取引先との研究会でも長年取り組んできたが、成果が出始めたのはここ1~2年のことだ。原因は、取引先は単品を売りたくて、店舗は客数を増やしたいという目的のギャップがあったから。我々の売場づくりにも課題があった。商品の並び順など業界慣習や過去事例を踏襲する場合が多かった。ロイヤル顧客が愛用しているものをカットしてはダメと言われるが、ノウハウがなかった。年齢別の数字は品揃えには反映することも難しく、SKUを減らせとも本には書いてあるが、怖くて減らせない実態もあった。

 これらはID-POSを使うことで、顧客の購買動向から検証できる。商品のクラスター分析でデンドログラム(樹形図)を作成した。基本ロジックは「期間併売・同時非併売」。これを積上げて「同じ人は買うけど、一緒には買わない」「どっちにしようか、迷う商品ではないか」と想定してゾーニング改革に着手し始めた。

 売れ筋商品の置き場を増やすのはいいが、必要な商品がなければ客数は減る。「不要サブカテゴリー」か、それとも「必要サブカテゴリーなのに欠落した」かを見極める。ロイヤル顧客愛用品を抽出するツールを作ってみたが、1万以上のSKUを抱えるスーパーでは、大きな差は出にくいこともわかった。

数字遊びのレポートは絶対に作成しない

 SKU削減については、棚割分析のロジックを改造して、欠落サブカテを出さずに“問答無用でSKUをカットできる仕組み”を開発した。取引先にもこのシステムを公開しており、バイヤーを悪者にせずに品揃えの改革を実現するインフラができた。

 ただ実感として、データ一辺倒にはならないように注意しなければならない。ID-POSは所詮昨日までの売上分析であって、未来予測ではない。新製品を見極め、流行を感じる力はアナログの商売勘が有効だと信じている。

 損益に本気で貢献するためには、ID-POSで小難しい分析を行って、役に立たない数字遊びのレポートを作ることは絶対にしてはいけない。データからどこかに利益の糸口がないか熟慮して泥臭い実験と総括を繰り返して「金の鉱脈」を探すことを続けている。

 資金は限られているため、コープデリのID-POSではシンプルな機能に特化して、ピンポイントで開発し余計な機能は省いた。システム費用は取引先へのデータ販売で賄っている。
そのため取引先に要求されれば、最優先で開発し改良を加えてきた。

顧客データ分析結果のマス化が“天井までキャベツ”という商売の基本をアシストすると考えている。軸をぶらしてはいけない。

各プログラムの詳細

下記画像リンクから、各プログラムの詳細をご覧いただけます。