コンビニエンスストア(CVS)大手のローソン(東京都/竹増貞信社長)は2019年2月12日~28日、経済産業省(経産省)主導のもと、「ゲ―トシティ大崎アトリウム店」(東京都品川区)で電子タグを用いた情報共有システムの実証実験を実施した。次世代サプライチェーンの構築に向けて新たな試みを検証している。
取材・文=大宮弓絵(ダイヤモンド・チェーンストア編集部)
電子タグとは
ICチップとアンテナが内蔵されたタグのこと。電波を使って接触せずに読み書きできるシステム「RFID(=radio frequency identifier)」を使うことで、これまでのバーコードではできなかった商品情報の一括読み取りや単品での管理が可能になる。決済のほか在庫管理の自動化や省力化、賞味期限の把握による食品ロスの削減などの効果が期待されている。
在庫状況を単品単位で瞬時に把握できる
経産省は、2017年4月にCVS各社と「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を、18年3月にドラッグストア(DgS)各社と「ドラッグストア スマート化宣言」を策定。CVSとDgSとの共同により電子タグを活用した次世代サプライチェーンの構築に取り組んでいる。
ローソンはこれまで経産省と2回、実証実験を実施している。17年2月には「パナソニック前店」(大阪府守口市)で、電子タグでレジ業務の軽減や棚卸業務の効率化を図る実験を、18年2月には「丸の内パークビル店」(東京都千代田区)にて、電子タグから取得した情報をサプライチェーン全体で共有する実験を行ってきた。ローソン経営戦略本部オープンイノベーションセンターアシスタントマネジャーの佐藤正隆氏は「小売業にとっての電子タグ導入の最大のメリットは、単品単位で商品の在庫状況を瞬時に把握できること。将来的に生産性を向上させる大きな効果が期待でき、当社として実用化に向けた実験に積極的に協力していきたい」と話す。
消費者、メーカーにもメリットをつくる
今回の実験は、ローソン以外に、CVSからはミニストップ(千葉県)、DgSからはウエルシア薬局(東京都)、ココカラファイン(神奈川県)、ツルハ(北海道)も参加し、各社の計5店舗で行われた。
検証したのは「ダイナミックプライシング」と「広告の最適化」の大きく2つの試みだ。
「ダイナミックプライシング」では、電子タグで店頭の消費・賞味期限が迫っている商品を把握し、LINE(東京都/出澤剛社長)のスマホアプリ「LINE」の実験用アカウントの登録者に知らせる。該当商品を決済サービス「LINE Pay」で購入すると、後日「LINEポイント」の10ポイントの還元を行う。そうすることで消費者は商品をお得に購入できるほか、小売は廃棄ロスを減らせる。
「広告最適化」では、陳列棚に内蔵された電子タグリーダーで来店者が手に取った商品を特定し、設置されたサイネージからその商品に関連した広告を提示する。メーカーにとって商品を宣伝できる利点があることから、今回の実験には過去の実験よりも多い17社の食品・日用品メーカーも商品協力企業として参加した。
経産省商務・サービスグループ消費・流通政策課長の永井岳彦氏は「電子タグを広く普及させるには、そのコストに見合った効果を消費者、そしてメーカーにも提供できる仕組みづくりを進めていくことが必要だ」と話している。
電子タグRFIDの普及に向けた課題とは?
「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」において、ローソンをはじめCVS各社は、2025年までにすべての商品に電子タグを貼付し、商品の単品管理を実現すると宣言している。
しかし、その留保条件として、①電子タグの単価が1円以下であること。②電子タグを取り付ける作業をメーカー側で行い、ほぼ全て商品をRFIDで管理できる環境が整備されていることの2つをあげている。
経産省は電子タグの単価の引き下げる工夫を続けているが、現在は大量生産して価格を低く抑えたとしても5円程度かかるという。今後、電子タグを普及させるほか、電子タグ自体の仕組みの簡略化や、使用する素材の変更などにより、1円以下の価格を実現したいとしている。
電子タグの取り付けについては、これまでの実験では小売側で行っていたが、今回は初めてメーカー側で貼付作業を行った。こうした負担やコストを吸収できるメリットをいかにメーカー側に創出できるかが大きなポイントになりそうだ。
経産省は「電子タグの実用化はこの2つの条件のクリアが最低条件。その時期は2025年より後になる見込み」としており、電子タグの実用化へ向けた道のりは想定よりも長期化しそうと言えそうだ。