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DX担当者必読! 社内のシステム責任者を「動かす」方法

本連載ではここまで、DX人材には経営/業務/ITの3つの視点が必要だとお伝えしてきました。今回は最後の視点である「IT視点」を磨き、社内のシステム責任者を動かす方法について解説します。DX推進にあたってシステムの活用は欠かせません。そのなかではシステム責任者の意識改革を促す必要があります。

世界でも特殊な日本のシステム環境が生まれた背景

 世界全体を見渡すと、日本を取り巻く「システムの環境」はとても特殊な状況と言えます。その背景から少し説明したいと思います。

 1970年代にパソコンが登場。日本でもワープロが開発され、各種システムが徐々に企業に取り入れられるようになりました。その後80年代には、多くの企業でシステムの導入が加速。主に管理部門を中心に、会計システムなどの定型業務の効率化を目的としたシステムの活用が進み始めます。

 90年代中盤からは、パソコンの性能向上によりシステムが分散化され、クライアント・サーバーの時代に入りました。クライアント・サーバーとは、中央のコンピューター(サーバー)と、それを利用するコンピュータがネットワークでつながった構成のもと、各処理が分散して行われるシステムを意味します。これにより、個人のパソコン上で表計算や文書を作成することが可能になりました。

 そして90年代後半になると、ERP(Enterprise Resources Planning:企業資源計画)と呼ばれるソフトが登場。これは当時、部門ごとに点在したデータを1カ所に集めることを目的としたものです。ERPシステムは会計・営業・購買・物流などの業務ごとに標準化されています。 欧米では、将来的な機能の追加等を加味して、「ソフトに合わせて業務を変える」改革が実行され、「業務をシステムに適用させる」という取り組みが進みました。

 一方、日本では、欧米のようにソフトに合わせて業務を変えるのではなく、多くの企業が「今の業務をどうシステム化するか」という発想でシステムを導入し、大幅なカスタマイズを行ってしまったのです。その要因として、現場主義の日本組織では、①業務を変えることへの抵抗感が強かったこと②システム企業が自社の収益向上をねらったカスタマイズを各社に提案したことの2つが挙げられます。このように、ソフトをカスタマイズするという手法をとった結果、日本では、固定化された古いシステムが多く残ってしまいました。これにより多くの日本企業では、業務内容を見直さないまま進化を止めてしまうという大きな課題を抱えてしまったのです。

システムは「所有するもの」から「利用するもの」に

 2000年代に入ると、ビジネスにおいてインターネットが活用され始めます。先ほどのシステムとは別に、ホームページやECサイトなどが構築されるようになったのです。 やがて2010年代に入り、クラウドシステムの利用を検討する企業が増えてきました。

 そうしたなかで、「SaaS(サーズ)」という言葉を耳にしたことのある人もも多いのではないでしょうか。「SaaS」とは「Software as a Service:サービスとしてのソフトウエア」の略で、クラウドで提供される業務クラウドサービスのことを指します。 クラウドとは要するに、ユーザーが専門のソフトウエアを持たなくても使えるサービスです。クラウドを介して企業もソフトウエアを共有することで、システムを自社で保有せずに利用することができるようになりました。 必要なときに必要なぶんだけ使えるため、クラウドに切り替えることでシステムコストが下がり、さまざまな新しい機能が利用可能になります。

 クラウドシステムが浸透したことで、これからは「クラウドシステムに自社の業務をどう適用させるか」という発想で汎用システムを利用していく必要があります。 これまでのシステム導入は「所有」を前提としていたため、自社でハードウエアを導入したり、リソースを調達したりする必要があるなど、多大なコストを要しました。一方、これからのシステム導入は「利用」の時代です。 クラウドシステムを活用すれば、コストも開発期間もケタ違いに小さくなります。システムは「自社で所有するもの」から「好きなときに、自由に利用するもの」に変わったと言えます。

 従来、システムを構築するときには、情報システム部門が現場に要件をヒアリングしてシステムを開発していましたが、その風景も大きく変わっていくと思われます。これからはシステム構築のやり方も、「開発」から「プロデュース」へと進化を遂げるでしょう。

 企業側もクラウドシステムの導入を前提として、「社内の業務をどう変えていくか」という発想に変わります。昔は水を手に入れるために自宅の庭に井戸を掘っていたのが、今は蛇口さえつければ水が出るようになったことと同じような話です。

開発とプロデュースの違い

システム責任者を理解し環境を整える

 しかし、多くの企業で今、このクラウドシステムを否定するシステム責任者の存在が問題になってきています。彼らがクラウドを拒否する理由は、慣れ親しんできた従来のシステム開発手法を転換することは、今までの仕事を否定されているように感じるからです。また、現場からの要求が理解できても最初の一歩が踏み出せず、長年付き合いのあるシステム会社からもリスクを提示され、動くに動けないことも大きな理由になっています。

 DX担当者はこれらの事情を理解して、システム責任者を説得する必要があります。システム責任者は常に経営者や現場から「時間がかかり過ぎる」「コストが高すぎる」などと言われ続けています。クラウドを活用することによりこれらの問題が解決するメリットを理解してもらうことから始めましょう。メリットをしっかりと理解することにより、新しいアプローチにも挑戦してくれる素地が整います。

 そのうえで、経営者や事業責任者に対し、「業務を変えることが前提となる」ことに理解を求め、会社全体でクラウドシステムの導入の環境を整えていきます。経営者や事業責任者も最初は難色を示したとしても、やはり納期・コストのメリットがわかれば、最終的には理解をしてくれることでしょう。

 このように、IT視点とは技術そのものを理解することよりも、システム構築の手法や実際に業務に携わっている人々を理解することのほうが大切です。この視点に磨きをかけて、IT戦略を立案し行動していくことで、DXは大きく進みだすことでしょう。

 

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