前回、DX人材には経営・業務・ITの3つの視点が必要だとお話ししました。今回からは、それぞれの視点について深く説明するとともに、その視点の磨き方にについても解説していきたいと思います。
DX実現のためには経営者を動かさなければならない
まず最初に説明したいのは、「経営視点」です。この視点を持つことで、経営者の立場に立った戦略立案、行動ができるようになり、DXでは欠かせない経営者の理解と決断を促すことができるようになります。
DX人材は、経営者を「動かす」ために、経営視点を持ちDXを推進していくことが必要です。前回お話ししましたが、経営者は「方針を決める」「資金配分を決める」「人員配置を決める」という権限と責任を持っています。これらを十分に理解した戦略と行動を取ることはもちろんのことですが、さらに、自社の経営者の立場や意思決定スタイルやタイプをより深く理解することが必要です。
「誰か」が動き出すのを待っていてはDXは成功しない
「経営者が決意しなければDXは絶対にうまくいきません」
この言葉を何度クライアントの方に話したでしょうか。この言葉をどう受け止めるかで、その後の会社の動きは変わってくるように思います。素直に受け入れ、「まずは動ける範囲で動いてみます」と、経営者が自ら行動し始めた会社、経営者を動かすために社員が行動を始めた会社は着実に前進し、社内の雰囲気も変わっていきます。
反対に、「そうですね」「社内で協議します」と言いつつ行動を保留する会社は、デジタル化の動きはむしろ後退し、先行き不安な雰囲気が社内に流れます。とくに、若い社員の不安が増大します。この差はいったい何なのでしょうか。
もちろん、「DXは必要ない」と判断することも、立派な経営判断です。会社の特性によっては、それが正しい場合もあります。ところが多くの場合、DXを必要だと思っていても行動に踏み切れないのです。 経営者に話せば「行動したいと思います。担当者によく話してください」と言い、担当役員や部門長などに話せば、「実施したいが、社長を説得するのは難しい」「他の部署から抵抗されるかもしれない」などと返事がきます。もはややる気がないのかと思えば、よく話を聞いてみると、危機感もやる気もあるのです。
ではなぜ動かないのか。どうやら、自分から言い出すのが嫌で、”先導役”にはなりたくないという心理が働いているようです。「社長がトップの立場で『DXを実現するぞ』と言ってくれないから」「現場が自ら考え言い出してくれたら……」などと、誰かが動いてくれるのを待っているのです。 これではダメです。「誰か」ではなく、DX人材である「あなた」が手を挙げ、主体的に行動していくべきです。
経営者が放つ「No!」には理由がある
DXを成功させるためには、もちろん経営者の決意も必要不可欠です。周囲の人間がその決意を引き出すことは非常に難しいですが、決して不可能なことではありません。経営者のタイプに応じてあきらめずDXの必要性を伝え続けることが、ポイントになってくると考えます。
経営者は社員や役員の提案に対し、否定することがよくあります。「No! やったことのないことはできない」「No! 現状うまくくいっているじゃないか」「No! 今期の数字を落とせない」「No! ほかの人とよく話し合ったのか」「No! 株主に説明できないだろ」などという言葉を、一度は投げかけられたことがあるのではないでしょうか? とくにDX関連の取り組みを進めるうえで、こうした発言がよく聞かれるようです。
このような後ろ向きな「No!」発言を連発する経営者の姿勢に、「社長はわかっていない」と嘆く担当部門の人たちの姿を、私はさまざまな場面で見てきました。チャレンジをさせてもらえず、DXに遅れを取る会社の将来を悲観し、転職を決断した人も多くいます。
では、経営者は本心で「No!」と頭ごなしに否定しているのでしょうか? 説得する方法はまったくないのでしょうか? 私は、そうは思いません。経営者が「No!」と言ってしまうのは、得体の知れないDXというものを正しく理解できずに、そこへ踏み出すことを恐れているだけです。
そんな経営者を動かすには、彼らが何を考え、何を判断基準にしているのかを理解すること。そして、未来の可能性を根気強く説得していくことが重要であると思っています。たとえば、株主の対応を重視する経営者ならば、将来期待される効果を数値で明確に説明します。社内の調和を気にする経営者ならば、他部署に根回しをして、一緒に提案をしていくなどの対応が考えられます。いずれにしても、DX人材である「あなた」が、経営者の立場になって対応していけば、必ず道は開けるはずです
「How」「What」を使い分けながら説得する
経営者を説得するには、彼らの意思決定スタイルやタイプを理解することも重要です。まず経営者の意思決定のスタイルですが、変革意識が強く、自らのリスクで意思決定する「リーダータイプ」と、秩序を重んじリスクを嫌い、合議決定する「マネジメントタイプ」の2つに大きく分けられます。
このうちリーダータイプには、「How」(実現のための具体的な手法)の提供が効果的です。とくに創業経営者は、ゼロから事業を立ち上げてきた「バイタリティ」と「決断力」があります。一方で、やりたいことは明確でも、やり方がわからないことも多いので、その意思を理解し、具体的に解決してくれる人を求めます。常に経営者がやりたいことを形にする「How」を提供し続けると良いでしょう。
もう一方のマネジメントタイプは、「What」(何をすればよいか)の提案をおすすめします。 とくにサラリーマン型の経営者は、課長→部長→本部長→役員と段階を踏み、出世争いに打ち勝って社長になっています。 しかし、いざトップに立つと、何をしていいのかわかりません。自分の経験してきた分野については自信を持って動かせますが、未経験の分野には不安を感じてしまいます。とにかくリスクを嫌いますので、「What」を多く提供し、承認してもらう形をつくることをおすすめします。
また、経営者の資本保有の状況も、経営スタイルに影響を与えます。たとえば創業者や二代目経営者は、自社株を多く持っていることから、長期視点で考える傾向があるため、将来の話から入っていくと良いでしょう。プロ経営者やサラリーマン経営者は、毎年の決算数値が自らの成績されてしまうため、短期視点で考える傾向があり、”即効性”のある話を好みます。これらを念頭に置くことで、より経営者を説得しやすくなるでしょう。
このように、経営者視点とは、経営者の役割や責任を理解するだけではなく、より深く経営者の意思決定スタイルやタイプを理解することです。この視点に磨きをかけて、戦略を立案し行動していくことで、DXは大きく進みだすことでしょう。
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