DX人材は「デジタル知識を持った変革者」と定義できると、前回までにお話ししてきました。では、具体的にどのような視点を持てばよいのでしょうか。今回はDX人材が持つべきスキルについて解説していきます。
DX人材に必要な「3つの視点」
「変革」とは、「時代の変化の本質」を見抜き、「革新的な物事を創造」することです。そして、企業が変革をめざす場合には、全社一丸となって取り組むことが必須になります。
しかし、簡単に「全社一丸」と言っても、各々の働く立場が違うなかで目的を一本化していくのは大変なことです。だから、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの取り組みをリードするDX人材が必要なのです。これは、ここまでの本連載で一貫してお話ししてきたことと思います。
では、DX人材に求められる具体的な視点やスキルとは何なのか。ここをもう少し詳しく考察していきましょう。
DX人材に求められるのは、「経営視点」「業務視点」「IT視点」の3つの視点です。その理由は、DXはデジタルを活用した企業変革であり、企業変革には、経営面、業務面、IT面の新しい取り組みが必須になってくるからです。あるときは経営者の立場で、またあるときには事業責任者の視点で、そしてシステム責任者の視点で考えることが必要になってきます。この3つの視点の1つでも欠けてしまった場合には、DX推進はバランスを失い迷走してしまいます。3つの視点を順を追って見ていきましょう。
経営者と同様の視点を持ち、経営者に提言する
まず必要になるのは経営視点です。経営者の立場に立って考え、経営者を「動かしていく」ことがDX人材には求められます。
では、経営者は普段何を考えているのでしょうか? 結論から言うと、大きく3つのことを常に考え、日々判断を下しています。1つは「方針」です。会社が将来どの方向に進むべきか、マーケットの変化を意識しながら方針を決めなければなりません。2つめは「資金配分」で、どの事業にどれだけの資金を投入するべきか、リターンを意識して決めています。そのうえで、3つめの「人員配置」を考えるのです。
この「方針を決める」「資金配分を決める」「人員配置を決める」は経営者の持つ大きな権限であると同時に、大きな責任なのです。これらに共通しているのは、「将来を想像していく」作業であるということです。そこで大きな役割を担うのがDX人材であり、経営者同様に常に将来の会社の姿を想像し、経営者に提言して、デジタルを活用した変革を進めていくことが求められます。
現場、モノ、お金、情報の流れをすべて理解しているか?
次に必要になるのは業務視点です。実際に価値を生みだしているのは現場であり、そこで行われている業務を軸とした視点を持つことが求められます。たとえば、小売業であるならば、実際の接客、品出し、棚卸し、商品仕入れなどの業務を理解していなければいけません。また、これらを適正に機能させていくために、全体を通しての物の流れ、お金の流れ、情報の流れなどを理解していることが大切です。
しかし、多くの企業では部門ごとに役割が分けられ、自部門の業務のことは知っていても、他部門の業務はわからないといったことがあります。DX人材はそうした縦割りに横ぐしを通して、自らが事業責任者の視点を持ち、全体を俯瞰して経営方針に照らし合わせながら、業務改革をすることが求められます。
目的と手段の投資対効果を測る「システム責任者」としての視点
いまさら言うまでもありませんが、DXを実現するためにはITの活用が必須です。しかし、実際にITで何が実現できるのか、どれくらいの費用や時間が必要になるのかを理解しておかなければいけません。また、テクノロジーだけではなく、ITを構築する人々の作業や気持ちも理解しておくことが大切です。そこで必要なのが、3つめの「IT視点」です。
ITはDXを実現するための道具です。たとえば、“穴を掘る”という行為を考えてみると、花壇に花を植えるときにはスコップを使って穴を掘り、ビルを建てるときにはパワーショベルを使って穴を掘ります。このように、目的と道具のできることを理解しておくことは大切です。同時に、すでに稼働しているシステムにも配慮して、投資対効果を考えていくシステム責任者としての視点を持つことが求められます。
DX人材が経営/業務/ITという3つの視点を持つ必要があることがまずはご理解いただけたでしょうか。次回からは各々の視点、その視点の磨き方についてお話ししていきたいと思います。
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