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ドラッグストアに対抗できるGMS イトーヨーカドー八柱店「ドラッグ型売場」へのリニューアルの全貌

セブン&アイホールディングス(東京都/井阪隆一社長)傘下のイトーヨーカ堂(東京都/三枝富博社長)は9月17日、オープンから40年目を迎える「イトーヨーカドー八柱(やばしら)店」(千葉県松戸市、以下:八柱店)の1階を大幅リニューアルオープンする。イトーヨーカ堂初となる「ドラッグストア型売場」を導入したリニューアルの内容と、そのねらいは何か。

コロナ禍で躍進したドラッグストアへの危機感

 八柱店は1982年に開業した歴史ある総合スーパー(GMS)。もともと「今後に向けて改装が必要だと考えていた」(イトーヨーカ堂ライフスタイル事業部 事業部長 梅津尚宏氏)が、その方向性を決めるきっかけとなったのが、コロナ禍での顧客ニーズの変化だ。

 コロナ禍で売上を伸ばした業態のひとつにドラッグストアがある。化粧品や医薬品だけでなく、日用品、食品などの品揃えを充実し、さらに低価格というドラッグストアは、コロナ禍で高まった節約志向やワンストップショッピングへのニーズを満たす存在といえる。このドラッグストアの躍進に危機感を抱いたことが、今回のリニューアルに大きな影響を与えている。実際に、イトーヨーカ堂が実施した顧客インタビューでは、「品揃えが中途半端」「価格が高い」「そもそも食品以外の売場を認知・利用していない」といったネガティブな声が聞かれたという。競合調査でも、ベビー用品、医薬品などの取扱量でドラッグストアに大きく水をあけられている事実が浮き彫りになった。

 さらに、来店顧客層から「八柱店の周囲にはシニア層が多い」と同社は認識していたが、実際にデータをみたところ、実は周辺にはどの年代も均等に暮らしていることが判明。つまり、「イトーヨーカドーには主にシニアしか来ていなかった」だけだった。コロナ禍で変化したマーケットに対応するため、そして若い顧客層の取り込みを目的として開発した新業態が、今回の「ドラッグストア型売場」だ。

ポイントは4つ「ドラッグストア型売場」

 それでは「ドラッグストア型売場」とはどのようなものかみていこう。今回のリニューアルでは、もともと化粧品を中心とした非食品を扱っていた八柱店の1階売場約250坪を「ドラッグストア型売場」に改装。ドラッグストアに対抗できる品揃えを実現するため従来よりも背の高い什器に変更し、改装前と比較して取扱商品は約1.3〜1.5倍になった。ポイントは、①価格対応の明確化②ワンストップ③健康志向への対応④非接触の4つだ。

 ①価格対応の明確化では、日常的な買物に使われているという八柱店の特性を活かし、EDLP(エブリデー・ロープライス)の強化を実施。特に日用消耗品など、顧客ニーズの高い商品で競合よりも安い価格設定とすることをめざした。また、イトーヨーカドーの新PBで、生活必需品を低価格でラインアップする「ザ・プライス」、100円均一コーナーなどで買い得感をアピールする。

 ②ワンストップショッピングでは、ドラッグストアが医薬品や化粧品、日用品から食品までをカバーするのに加え、今回の「ドラッグストア型売場」ではGMSの仕入れ力を活かし、文房具やベビー用品、服飾雑貨なども差別化カテゴリーとして取り扱う。とくにベビー用品はこれまで手薄なジャンルだったが、同じセブン&アイグループ内のベビー用品専門店「アカチャンホンポ」と初めて協業。「アカチャンホンポセレクション」と銘打ち、専門店のラインアップで差別化を図る。

初めて導入した「アカチャンホンポセレクション」。ベビー用品の充実を図る

 ③健康志向への対応では、ドラッグストアに対抗するため医薬品の品揃えを充実する。従来は登録販売者による第二類と第三類医薬品を販売してきたが、改装を機に薬剤師を新たに配置。第一類医薬品の取り扱いを開始する方針だ。ほか、健康食品の集約展開も実施する。これまで、オーガニック商材や、糖質オフ商品などは食品売場内のそれぞれの売場で販売してきたが、リニューアルに伴いこれらを一カ所に集約。「ドラッグストア型売場」の中で、今需要の高まるプロテインなどとともに取り扱う。

 ④非接触では、これまでスタッフが顧客の悩みや要望を聞きながら商品を選ぶカウンセリング型が主だった化粧品売場をセルフおよび簡易接客型に変更した。また、接客カウンターを縮小したことで浮いたスペースに、韓国コスメなどの安価で若者をターゲットにした商品を新規導入。プレオープンの段階では、「これまで八柱店では見たことのなかった女子高生がコスメを選んでいる姿が見られた」(梅津氏)といい、顧客年齢の若返りにも貢献する施策になっている。

カウンセリング型が主だった化粧品売場をセルフおよび簡易接客型に変更。さらに韓国コスメなどの充実で若者を呼び込む

顧客目線の売場づくりを重視

 「ドラッグストア型売場」の他店舗展開について梅津氏は、「顧客から支持されるようなら他店舗での展開も考えている」と話す。八柱店ではその検証と、「ドラッグストア型売場」のフォーマットを確実に支持されるものにするブラッシュアップを行っていきたい考えだ。

 とくに今回のリニューアルにおいて印象に残るのは、「顧客目線の売場づくり」だ。従来の売場は、社内の担当別やカテゴリー分類をもとにレイアウトされており、「顧客目線の売場配置とはいえなかった」(梅津氏)という。これを是正し、顧客の利用シーンに沿った売場配置、例えば衣料用洗剤の近くには柔軟剤や洗濯用品がある、といった買い回りしやすいレイアウトに変更している。食品売場とドラッグストア型売場のどちらで取り扱うかについても、顧客の声に合わせて柔軟に変更していく姿勢だ。

 コロナ禍で一気に勢力を拡大したドラッグストアに、GMSとしてイトーヨーカ堂がどこまで対抗できるか、今後に注目したい。