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コロナ禍でリアル店舗のデジタル化が加速 今後は得られたデータの活用がより重要に

新型コロナウイルスの感染拡大により、外出自粛や在宅勤務の奨励、「3密」の回避など、われわれの生活は大きな変化を余儀なくされてしまった。多くの業界が不況に陥るなか、食料品や日用品などの生活必需品を取り扱う食品スーパー(SM)やドラッグストアなど一部の業態は好調を維持している。しかし、生活様式が大きく変化するなか、これら業態もこの“特需”に甘えてばかりもいられない。本記事では、デジタルテクノロジーを活用し、これからの「ニューノーマル」に対応する新たな店舗づくりに取り組んでいる企業を紹介する。

トライアルのスマートストアは関東に初進出

 AIを積極的に活用している小売企業として、「トライアル」を挙げる小売関係者は少なくないだろう。トライアルホールディングス(福岡県/永田久男会長)傘下のトライアルカンパニー(福岡県/石橋亮太社長:以下、トライアル)は、新型コロナウイルス感染拡大より2年ほど前の20182月、「スーパーセンタートライアルアイランドシティ店」(福岡県福岡市)を、AIを搭載したカメラやタブレット付きのカートなど最新のデジタルテクノロジーを駆使した「スマートストア」として初出店した。その後も新店や改装でスマートストアの導入を積極的に進めており、現在は約20店舗がスマートストアとなっている。21年中には福岡・佐賀の約60店舗をスマートストア化する計画だ。207月には関東初のスマートストアとして「スーパーセンタートライアル長沼店」(以下、長沼店)を改装オープンした。

長沼店からは、スマートショッピングカートにスキャンした商品に応じたレシピを表示する機能を追加した

 スマートストアにおいて重要な役割を果たしているのが、AI搭載の「AIカメラ」と、タブレット端末とバーコードスキャナーが備え付けられた「スマートショッピングカート」だ。AIカメラでは商品の欠品情報の把握や来店客の店内動線の分析ができる。スマートショッピングカートでは事前登録したプリペイドカードで決済することでレジに並ぶ必要がなくなるほか、関連商品のレコメンドやクーポンの発行も可能で、長沼店からはスキャンした商品に合わせたレシピ機能も新たに追加した。

U.S.M.HAIを活用したマーケティングサービス開発に意欲

 ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都/藤田元宏社長:以下、U.S.M.H)も近年、新たな店舗づくりに取り組んでいる。傘下のカスミ(茨城県/山本慎一郎社長)は203月、茨城県水戸市の茨城県庁内に売場面積約30㎡(オープン時)の小型無人店舗「オフィスマ茨城県庁店」をオープン。同店は常駐の従業員がいない無人店舗で、レジも設置していない。U.S.M.Hのスマホアプリを使ってお客が自ら商品をスキャンし、事前登録したクレジットカードから決済されるという「スキャン&ゴー」の仕組みを導入している。同年6月には茨城県つくば市内のコワーキングスペースにも「オフィスマ」を出店しており、今年度中に同フォーマットを官公庁や一般企業のオフィスなど40カ所に展開する計画だ。

オフィスマ茨城県庁店の様子。飲料や菓子など約500品目を揃える

 また、U.S.M.Hはこのような小型店だけでなく、通常のSMのデジタル化も進めている。同社は208月、AIカメラやデジタルサイネージを活用した自社開発のマーケティングサービス「イグニカ(ignica)の本格的な運用開始を発表した。同サービスでは店舗に約40インチのデジタルサイネージを10台設置し、商品情報やレシピ動画などのコンテンツをネットワーク管理してリアルタイムで配信できるのが特徴だ。それぞれのサイネージでは異なる映像の配信が可能で、AIカメラにより視聴人数や視聴時間、視聴者の性別や年齢などを分析し、販売データと連動してマーケティングに生かすことができる。

 イグニカは208月末までにカスミの21店舗で順次導入する計画で、同じくU.S.M.H傘下SMのマルエツ(東京都/古瀬良多社長)、マックスバリュ関東(東京都/手塚大輔社長)でも9月以降に導入を進める考えだ。

非接触型の店舗はコロナ禍で必須に

 そのほか、国内小売最大手イオン(千葉県/吉田昭夫社長)傘下のイオンリテール(千葉県/井出武美社長)は、新たな決済システムとして、「どこでもレジ レジゴー」の運用を20年春から本格的に開始。貸出用のスマホで購入する商品をスキャンした後、専用レジで2次元バーコードをスキャンし、支払い方法を選んで会計する仕組みだ。

 トライアルやイオン、U.S.M.Hのほか、ローソン(東京都/竹増貞信社長)などコンビニエンスストア各社をはじめ、大小さまざまな企業がレジレス店舗やキャッシュレス店舗などの開発に乗り出している。これまで、米アマゾンが開発したウォークスルー決済型の「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」をはじめ、AIなど最新のデジタルテクノロジーを活用した店舗は、顧客が「新たな買物体験ができる場所」として一部の企業が提供していたに過ぎなかった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、「3密」を回避することができるこのような技術は、普段使いの店舗でももはや必須になりつつある。

 では、小売各社は単に店舗のデジタル化を進めるだけでよいのだろうか。長沼店取材時、トライアルホールディングス傘下でスマートストアに関するAIのシステム開発などを行うRetail AI(東京都)の永田洋幸社長は「スマートストアの定義の1つはデータを収集できること」と話していた。収集したデータを活用し、顧客体験の向上や業務効率化、コストの最適化などに生かすことが重要というわけだ。

 今後、3密を避けたいという顧客のニーズの高まりから非接触型の店舗開発に取り組む企業はますます増えることが予想されるが、単にAIなどの設備導入に終始するのではなく、それによって得られたデータや知見をどのように活用していくかがこれからの店舗運営のカギを握るだろう。