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40年変わらぬ素朴なドーナツにシニアが飛びついた! 気持ちを動かす「実感」を込めたコピー

こんにちは。コピーライターの川上徹也です。連載第2回の今回は、チラシやPOPなど のコピーに「実感をこめる」という方法をお伝えします。人は実感がこもった文章を読むと、自分の感情が揺さぶられます。その結果、お客さんのココロに「買いたい!」というキモチが生まれる可能性が高まるのです。

昔ながらのロングセラーも多い和菓子。いかにその魅力を伝えることができるか

コロナで困っている生産者や小売店を支援する動き

 新型コロナウイルスの影響で休業を余儀なくされている店も多いでしょう。また開業していてもお客さんが来なくなり在庫を抱えている方も多数いらっしゃると思います。そんな方々を少しでも助けようという試みが、今、全国でいろいろと生まれているのをご存知でしょうか?

 たとえばフェイスブックに「コロナ支援・訳あり商品情報グループ」というコミュニティができていて、かなり盛り上がっています。これは、4月9日に立ち上がったグループで、現在メンバーは30万人を超えています。新型コロナウイルス感染拡大により影響を受け在庫を抱えた生産者・流通業者・小売店・飲食店の方々が、自分たちの商品の良さをPRして、グループのメンバーに直接売り込むという仕組みです。

 訳あり品で「最低30%オフ」という決まりがあるため、購入者にとってもお得にお買い物ができるというメリットがあります。わずかな時間で、在庫がすべてさばけてくまうくらい反響のある商品もあります。あなたも、もし在庫を抱えて困っていたら、チャレンジしてみてはどうでしょうか?

 しかしすべての商品がバカ売れするという訳ではありません。もちろん、商品の魅力やクオリティ、価格のお得感も大きな要因ですが、紹介文によっても読み手の反応は大きく変わります。どんな紹介文だと、より多くの商品が売れるようになるでしょう?

昔ながらのあんドーナツをいかに知ってもらうか

 東京上野のアメ横に「二木の菓子」という有名な店があります。終戦直後の1947年にわずかダンボール箱1つほどの面積で販売をスタートさせ、今ではアメ横をはじめ関東に10店舗以上の店をチェーン展開しています。関東地方の方は、1960年代に初代林家三平師匠が『ニキ、ニキ、ニキ、ニキ、二木の菓子!』と連呼するCMでおなじみかもしれません。

 この店の特徴は、圧倒的なお菓子の種類と、それにつけられたオリジナルのPOPです。よその店では売れないような商品でも、POPに書かれた力強いコピーによって、バカ売れする商品が続々と生まれます。同社の専務である二木英一さんは、その著書『なぜ20円のチョコでビルが建つのか?』(秀和システム)で以下のようなエピソードを紹介しています。

 ある時、二木の本部に取引先から「あんドーナツ」の売り込みがありました。40年以上変わらない製法で作り続けられているという製品です。食べてみると、とても甘く素朴な味わいで、おいしい。ただ商品の特徴をそのまま書いたような「40年間変わらぬこだわりの製法」「昔懐かしい味わいのあんドーナツ」などのコピーでは、店頭で埋もれてしまいます。あなたなら、この商品にどんなPOPをつけるでしょう?

 POP担当の店員が頭を悩ませていると、同僚の60代の男性店員がつぶやきました。

 「今食べると素朴な感じだけど、昔は甘いものって特別な時しか食べられなかった贅沢品だったんだよ」と。

 そのいかにも実感のこもった言葉に、POP担当の店員は「それだ!」と思いました。そして、以下のようなキャッチコピーを書いたのです。

 今となっては素朴でも昔はこれが贅沢だったんだ!!

テレビ番組でも紹介された「二木の菓子」のPOP

 このPOPをつけると、あんドーナツは飛ぶように売れていきました。60代以上のシニア層のお客さんがその言葉に共感して、買いたいキモチが高まったのです。

そのコピーに本当に実感はこもっていますか?

 お菓子の二木の本部では、チェーンの他の店舗でも、あんドーナツに同じPOPをつけて売るように指示しました。すると、ほとんど店舗では、同じようにバカ売れしました。しかしある店舗ではまったく売れません。「なぜだろう?」 と調べてみると、実はその店だけ別のPOPをつけていたことがわかったのです。店員が届いたPOPを見て、キャッチコピーがピンとこなかったので勝手に書きなおしていたのです。それは‥

「昔懐かしい味、今も昔も変わらぬ贅沢を」

 というものでした。内容はバカ売れしたPOPと変わりません。しかし実感がこもっていないコピーは、シニア世代の気持ちを動かせなかったのです。

 さて、冒頭の「コロナ支援・訳あり商品情報グループ」に話を戻しましょう。どんな紹介文だと、より多くの商品が売れるようになるでしょう? もうおわかりですよね?

 それは「実感のこもった文章」です。本当に困っている。こんなにいい商品なのに廃棄するには忍びない。何とか救ってもらえないかという実感のこもった文章を読むと、人は感情が動かされ、その商品が買いたくなるのです。たとえば以下のようなフレーズです。

 「収穫しても行き場のない野菜たち。悲しいです。苦しいです。困っています」

 「1500個のケーキが、食べてくださる方を求めています!」

 「種蒔きから一年半以上かけて大切に育ててきたわさびですので、廃棄せずに皆様に召し上がっていただきたいです」

 あなたの書くコピーには、実感がこめられていますか?

 

・プロフィール

川上徹也(コピーライター 湘南ストーリーブランディング研究所代表) 

大阪大学人間科学部卒業後、大手広告会社勤務を経て独立。東京コピーライターズクラブ新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴多数。中でも、企業や団体の「理念」を1行に凝縮し旗印として掲げる「川上コピー」が得意分野。「物語」の持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリーブランディング」という独自の手法を開発した。
著書は『物を売るバカ』『1行バカ売れ』『コト消費の嘘』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)『売れないものを売る方法? そんなものが本当にあるなら教えてください』(SB新書)など59万部突破。海外にも多数翻訳されている。