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プロ以外の顧客の需要も視野に、専門店として充実した品揃えを訴求=ハードストック富士

ハードストック富士 外観
2019年11月1日オープンのハードストック富士(静岡県富士市)

「ハードストック富士」は、エンチョーが展開するハードウエアショップとしては「ハードストック島田」(静岡県島田市)に次ぐ9号店。同社創業の地である富士市において待望の初出店となった。建築金物や道具・工具を専門的に品揃えし、地域ニーズに対応した店舗をめざしている。同店の基本的なMD戦略やプロユースを取り巻く最近のトレンドを踏まえた販売戦略などを取材した。

ハードストック富士店長 武藤和博氏

エンチョー創業の地に専門業態として待望のオープン

 「ハードストック」は、建築金物や道具・工具を専門的に品揃えし、プロ事業者や、個人事業主をはじめ、地域の一般顧客まで視野に入れた専門業態として運営されている。ハードストック富士は、国道1号線沿いで、東海道新幹線新富士駅からも徒歩10分程度の立地。

 店舗コンセプトを、「常に本物志向であり続け、良質な一流メーカー品やブランド商品、各種パーツ、消耗資材をリーズナブルに提供し、お客さまのお役に立てるハードウエアショップ」とし、建築金物、道具・工具、建築資材、土木資材、エクステリア資材、塗料、接着剤、電材、作業用品など約6万アイテムを取り揃えている。売場面積は2129㎡で、初年度の売上目標は4億2000万円を掲げている。

 想定する商圏について、ハードストック富士店長・武藤和博氏は「西は静岡市から東は三島市、沼津市あたりまで、幹線道路沿いなので、現場への行き帰りなどである程度広域集客を見込んでいます。また基本的に南側は海なので、その分北側を広く視野に入れており、甲府市など山梨県方面にも食い込みたいと考えています」という。

 同時にプロ業態という共通点はあっても、立地によって地域需要が大きく異なる点にも留意している。静岡県内では東部でも西部でもかなりの産業集積があり、多様なプロユースが存在するが、武藤店長は「地域柄として同じ静岡県内でも東側は東京に視野を向けている層が多く、逆に西側は名古屋や大阪に目が向いている印象が強い。結果としてどのような購買傾向の違いとして現れるのか、今後分析していきたいと考えています」という。

正面入口付近はゆったりした買い回りスペースを確保。左側にレジカウンターを配置している

SNSやネットを活用した購買が増える傾向に

 プロ業態の新店評価は口コミで広がる要素が大きいといわれる。競合店にはない品揃えの幅広さや、サービスの充実などが徐々に口コミで広がり、新規顧客の獲得につながっていくプロセスだ。ハードストック富士の場合、もともとドミナントエリアでの出店であり注目度が高かった点や、近隣既存店でのオープン情報の発信によって、スタート時点から好調に立ち上がっている。

 地元になじみの深い企業であることから、支払い特典付きのプロカードへの認知も高く、利用に結び付いている。店頭での接客やサービスについても、今後、需要の聞き取りを行いながら、充実を図っていく方針だ。

 ただ「口コミの役割が大きいのは事実ですが、より広域から新しい顧客層を集客するためには、やはりSNSやDMの役割も大きい。情報発信していく内容も重要で、ハードストック富士の場合は、工具類の品揃え№1といった強みや、昨今増えているプロ以外の一般顧客層に向けたカジュアル性の高い衣料や用品をアピールしています」と武藤店長は話す。

 購買行動も変化しており、最近ではネットで商品をチェックし、見つけたカジュアル衣料や用品のスマホ画面を店頭で示し、「これと同じものを見せてほしい」などと言われるケースが増えているという。

人気の高い電動工具類はレジ前で展開。比較購買しやすい売場づくりを行う(左)マネキンを使った陳列で着こなしやコーディネートを提案(右)

カジュアル志向がますます高まる作業用衣料

スポーツブランドのセーフティシューズはデザインなどが見やすく手に取りやすい陳列を行う

 近年の傾向として作業用衣料については、カジュアル志向がますます高まっている。ハードストック富士でも、プロ層に加えてこうした商品を求める一般顧客の割合が多いという。同店では、ストレッチ性や防寒性など、ワークウエアならではの機能性を大前提とし、ワークウエアとしてのプランド力を持つ商品を着実に品揃えする一方、同じプロブランドでもデニムやミリタリーといったトレンド素材やデザイン、シルエットの独自性など、ファッショントレンドに沿った商品を着実に品揃えし、顧客ニーズへの対応を図っている。

 価格帯は専門業態のほうが売れ筋のバリエーションが広く、より高品質で高い価格帯の商品が売れる傾向があるという。

 また、ワークウエアは季節ごとにメーンとなる商品が入れ替わるだけでなく、毎シーズン各メーカーから新商品が投入される。とくにカジュアル志向が高まる昨今では、機能性や技術の進化に加え、ファッション性の面でも新しい提案が盛り込まれる傾向が強まっている。こうした新商品をエンドやアイランドで展開したり、マネキンを多用したトータルでの着こなし提案や、映像を活用した演出にも力を入れている。

安全意識への高まりで、需要が高まるハーネスは試着コーナーを設置

 夏場に向けて近年需要が高まり、製品のバリエーションが増えているファン付き作業服については、「静岡県内の地方都市でもヒートアイランド現象が起こっており、毎年の気候条件にもよりますが引き続き売れ筋カテゴリーとみています。個人としての職人が購入するケースもありますが、企業として作業する方の体調管理が重要な責務となっていることから、必要な安全対策の一環としてまとめて購入するケースも増えています。種類の多様化やカジュアル化も進んでいますが、すでにある程度普及しているので、今後は機器とのセット販売ではなく、服だけを交換する需要の割合が高くなっていくとみています」と武藤店長は話す。

 このほか同店では女性用の衣料コーナーを設置しており、動きも好調だという。単にサイズが小さいというだけでなく、女性の体形にフィットする商品も増えている。「現場で働く女性の割合が急激に増えるとは思っていませんが、やはり一定の需要があることは確かで、しっかりコーナー化することで、今後の売上への付加効果にも期待しています」(武藤店長)。

レディースワークウエアコーナー。想定していた以上に動きは好調だという

 

安全保護具の重要性が高まるカジュアル化の波も

人気ブランドのワークウエアもカジュアル性の高い商品を幅広く取り揃える

 一方、安全靴や作業用手袋、安全帯などの安全保護具の重要性は増しており、商品は進化を続けている。

日常生活の使用でも違和感のないセーフティシューズ。多様な品揃えを行う

 安全靴についてはワークウエア全般と同様、カジュアル志向が強まっている。武藤店長は、「私自身も店舗の女性スタッフも日常業務で安全靴を履いていますが、見た目には安全靴には見えなく日常生活でも違和感がありません。最近の安全靴が軽くて履き心地がいいことを実感しています」という。

 同様のカジュアル志向は消費者の間でも広がっており、普段使いにも使用できるデザインの安全靴の人気が高い。もちろん定められた安全基準に合致していることが大前提だが、スポーツブランドなども売れ筋のひとつとなっている。

 同店では、店頭に揃えるデザインのバリエーションだけでなく、サイズのバリエーションの充実にも力を入れている。「小サイズ、特大サイズの商品はそれほど足が早い商品ではありませんが、やはり店頭に置いてあるという安心感が重要だと考えています」(武藤店長)。

 一方、作業用手袋は、機能へのニーズが職種や作業内容によって大きく異なる。そのためデザインよりも長く使ってきた使いやすさを重視して商品を選択する傾向が強い。また近年はさまざまな作業に特化した作業シーン別商品が多様に登場しており、それぞれ独自の機能性を訴求することで店頭からの提案力を高めている。

 また法改正によって墜落制止用器具についての規制が強化され、作業条件に応じてフルハーネス型の安全帯の着用が義務化されたことにより、安全帯の需要も底堅い。市場では数年前から実際の法施行に先駆けるかたちで新ルールに沿った保護具が選ばれる傾向が出ている。安全確保は企業の社会的責任として重視される傾向がますます高まっており、ハードストック富士でも品揃えを強化している。

ハーネス、安全帯などの定番コーナー。法改正によって需要が高まっている

いざというときに頼りにされる店舗であることを重視

店頭のショーケースで展開するレーザー墨出し器。注目度を高めている

 顧客構造が多様化する中でプロ専門業態は今後どのような取り組みが必要なのだろうか。ひとつは店頭での演出手法だ。ハードストック富士は店内の内装をシンプルでやや瀟しょうしゃ洒ともいえるすっきりしたイメージを採用。入口付近にはゆったりとしたスペースを確保し、プロ以外の来店客でも入店しやすい雰囲気づくりを行っている。

 またワークウエアや安全靴ではカジュアル志向を踏まえて陳列にも工夫を凝らしている。ショーケースや照明を駆使することで、より見せる演出にシフトした売場づくりを行っている。また品揃えに力を入れる工具類については、スライド什器や多段什器を使用した集中陳列を行うことで選びやすく買いやすい売場づくりをめざす。

 武藤店長は「“プロショップ”という言葉の意味も多様化しています。当店のように土日ともなればお子さま連れで来店されるお客さま層の多い店もありますし、たとえば作業用のツナギをファッションとして選択されるお客さまもいらっしゃいます。セミプロ的なスタンスから道具・工具を求められるお客さまも。

 しかし、やはり大切にしなければならないのは、いざというときに頼りにされる安心感のある店という存在感ではないでしょうか。たとえば小さな部品や建材でも、使用頻度の高い商品はエンドで大量陳列を行う。それだけ品揃えしてあることで、“絶対に欠品はない”という安心感を持っていただくことにつながると思います」と話してくれた。

各エンドでは大量陳列を展開。十分な品揃えをアピールする(左)消耗品類も幅広く品揃え。いざというときのニーズにも対応(右)