メニュー

パッケージデザインに見るロングセラーブランドの磨き方

商品のパッケージデザインは、ブランドの基本要素が多数集約された大切なブランド資産と考えられる。パッケージにはネーミング、ロゴ、スローガン、色など、基本的なブランド要素の多くが含まれているが、ロングセラーブランドのパッケージデザインでは、長い間に少しずつデザインを変更することで、新鮮なブランドとしてのポジションを維持しているケースが多く見られる。その手法を紹介する。

パッケージデザインにはブランド要素が集約されている

 ブランドとは、顧客の頭の中に存在するものであり、味や使い勝手、売る人やサービスをしてくれる人の服装や笑顔、CM、ポスター、WEBサイト、顧客同士の印象など、さまざまなイメージや情報から成り立っている。こういったイメージは、商品の名前やロゴ、スローガン、キャラクターなど、基本的なシンボルに集約されて記憶されていく。いわばこういった基本的なシンボルが記憶のフックとなって、ブランドのイメージが膨らんでいくことになる。

 強いブランドは顧客に対して、強い絆をつくり続けることができる。その結果、顧客は、単に安いものを買うのではなく、その企業や商品のブランドを信頼し、長い間愛用してくれることになる。

 なかでもパッケージデザインは、ブランドの基本要素が多数集約された大切なブランド資産と考えられる。また、パッケージデザインは、接触頻度が高いという点でも重要だ。その商品を購入した人のうち、その商品の広告を見たことのない人はいても、パッケージデザインを見たことのない人はいない。購入時から使用時、廃棄に至るまで、常に購入者の近くにいるブランド要素であり、実際に触れるという点でも、顧客の五感に響く、大切なブランド要素といえる。

 つまりパッケージデザインは、ブランドの基本シンボルが最も凝縮され、かつ接触頻度の高いブランド要素であり、パッケージデザインをどう扱っていくのかは、ブランドマネジメントという視点においても大変重要なカギを握っている。

ブランドを強くするリニューアル
時代に合わせて、よりシンプルに

 パッケージデザインは、定期的にリニューアルを繰り返していく。早いものでは発売と同時並行で次のシーズンのリニューアルの準備を始めるものもあるが、平均して1~3年くらいをめどにリニューアルするケースが多いようだ。

 リニューアルの目的の一つは、商品の鮮度を保つことだ。シーズンごとに多くの新商品が出てくるので、新たに登場した商品と比べて古い印象にならないようにリニューアルを繰り返し、ブランドのポジションを維持する。

 また、リニューアルの効果は消費者だけでなく、商品を取り扱う小売店へのアピールにもなる。ロングセラー商品にもしっかりとマーケティング投資を行い、育成しているという企業姿勢を示すことになるからだ。

 リニューアルを繰り返してブランドを強くしていくうえで重要なのは、アイデンティティーとなるデザイン要素を主役にして、デザインをよりシンプルにする方向に改善していくことだ。時代に合わせて色味やフォント、キャラクターの表情などを少しずつ調整していく。ブランドプロミスやパーソナリティーという核となる価値は変わることがなくても、デザイン表現は時代に合わせて変化させていく必要がある。

 たとえば江崎グリコの「ポッキー」は発売以来、定期的にデザインを進化させているが、どんどんシンプルになってきている。またフィリップ モリス ジャパンの「マールボロ」は、白と赤でつくる三角形にブランド資産を集中させるために、ロゴのカラーを消した。このようにリニューアルを起点にデザインを的確にマネジメントすれば、ブランドを強くできる。逆に、リニューアルごとにまったく新しいデザインをつくるケースもあるが、この方法はデザインの新鮮さで話題にはなるかもしれないが、ブランドを強くするという視点では難しいと思われる。

わかるかわからないか「丁度可知差異」という考え

 心理学に「丁度可知差異」という考え方がある。これは「刺激の識別が可能な最小値のこと」と定義されているが、言い換えれば「わかるかわからないかくらいの違い」といえる。ロングセラーブランドのパッケージデザインに見られる「定期的に少しずつ変えていく」というパターンでは、この「丁度可知差異」の考え方が採用されている。

 明治の「明治ブルガリアヨーグルト」やアサヒビールの「アサヒスーパードライ」、日清食品の「チキンラーメン」などは、長い間、少しずつデザインを変更することで、新鮮なブランドとしてそのポジションを維持している。一度のデザインリニューアルでは、デザインが変わったか変わらなかったかわからない程度、まさに丁度可知差異の範囲でのデザイン変更だが、10年前、20年前のデザインと比べてみると、明らかにその時代に合ったかたちに進化していることがわかる。こうした丁度可知差異の範囲でのリニューアルは、既存顧客を失うことなく、デザイン資産を構築していくために有効な手段だ。そのうえで大切なことは、「長期的なゴール」をチームで共有していることだ。

 「明治ブルガリアヨーグルト」では「より象徴的に進化させ続ける」ことを目標としている。この高い目標をブランド・デザインを担当するチームが共有することはとても大切だ。「わかるかわからないかのレベルで少しずつ変える」こと自体は手段でしかない。目標が共有されないまま少しずつ変えたデザインを大量につくり、リニューアルを繰り返しても、最終的には目標がわからなくなり、少しずつ変えるという作業自体が目的化してしまうからだ。

 「明治ブルガリアヨーグルト」は発売以来、変わらない提供価値(自然の中から見いだされた乳酸菌由来の健康効果とおいしさ)を貫いている。「長く愛してほしい」という思いからデザイン上のアイデンティティー(ロゴ、色、グラデーション)も変えることなく継承し続けてきた。商品の中身とデザインを常に磨き続けることで、発売して50年近くたち、多くの競合商品が登場するなかでも古びず、埋没することなく、デザインのアイデンティティーを変えずにその印象をより強めることに成功している。