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「焼肉きんぐ」の物語コーポが午後6時閉店の高付加価値型カフェを出店した理由とは

焼肉チェーン「焼肉きんぐ」を主軸に外食事業を展開する物語コーポレーション(愛知県/加藤央之社長)は630日、同社初となるカフェ業態「果実屋珈琲」を東京都調布市に出店した。ラーメンやしゃぶしゃぶ、寿司などのチェーンを手がけてきた物語コーポレーションはなぜ、カフェ業態に手を伸ばしたのか。業態開発の担当者である開発本部長を取材した。

食パンとフルーツにこだわった和風デザインカフェ

「果実屋珈琲」

 物語コーポレーションは、焼肉やラーメン、しゃぶしゃぶ、寿司などの外食チェーンを運営しており、20236月期は売上高が対前期比24.4%増と業績を伸ばしている。これまでは夜間まで営業しているレストランをメーン業態としていたが、630日に同社初となるカフェ業態の果実屋珈琲を出店した。

 果実屋珈琲は京王線「調布」駅からバスで約10分の場所、交通量の多いロードサイドの角地にある。外食チェーン「サンマルクレストラン」の跡地に新築し、和をテーマとしたモダンな外装にした。

店舗外観

 果実屋珈琲は「自然の恵みを贅沢に」をコンセプトに据え、「フルーツサンド」「ご馳走サンド」などのサンドイッチをメーンに、「果実屋パフェ」などフルーツを使用したフードメニューを10002000円で販売する。

「フルーツサンド」「ご馳走サンド」

 果実屋珈琲の特徴は、サンドイッチに使用する食パンを店内で焼き上げている点だ。カフェ業態では、焼成してから冷凍した食パンを仕入れるのが一般的だが、果実屋珈琲では、店内で焼成した食パンを使用する。これによりもちもちとした食感を実現。店内はオープンキッチンを採用しており、焼成の工程をお客に見せることで鮮度を訴求する。

物語コーポレーション執行役員 業態開発本部 本部長の廣瀬雅孝氏

 ちなみに、食パンの焼成を担当するのは、パンづくり未経験の社員およびスタッフがほとんどだ。物語コーポレーション執行役員 業態開発本部 本部長の廣瀬雅孝氏は「通常のベーカリー店とは異なり、扱うパンを1種類に絞っているため、未経験の店舗スタッフでも焼成方法を習得することは難しくない」と話す。

 メニューに使用するフルーツの熟度管理を徹底している点も特徴の1つだ。果実屋珈琲では独自ルートから仕入れた新鮮な果物を使用しており、さらにそれらの果物の糖度を毎朝計測するなど、入念な熟度管理を行っている。たとえば、マンゴーであれば糖度が15度以上なければ使用せず、基準に満たなかったものは12日かけて追熟する。

 「追熟の期間設定はまだ学習中の段階だ。一般的なカフェ業態ではフルーツを追熟するためのスペースを確保しにくいが、果実屋珈琲ではそのスペースも計算して店舗づくりをした」(廣瀬氏)

 大手のカフェチェーンは一般的に、管理が大変なフルーツを扱いたがらない。カフェ業態としては後発となる果実屋珈琲は、他店との差別化を図るためにフルーツをふんだんに使用したメニューをメーンに据えた。廣瀬氏は「徹底した熟度管理による高質なフルーツを武器にしている。都心にあるフルーツパーラーの高級スイーツと同等のクオリティの商品を、果実屋珈琲では価格を約3割抑えて提供しているのが強み」と語る。

開店後1カ月間の売上は計画比1.7倍!

フルーツを使用したスイーツ

 物語コーポレーションが競争の激しいカフェ業界にあえて参入したのは、「大きなマーケットで差別化して勝つ」という同社の方針があったためだ。

 「新業態の開発にあたり、小さなマーケットは選ばない。カフェの市場規模は約13000億円あるといわれており、中長期的にも拡大するとされている。そのうえ上位企業の寡占率が高くないことから、このマーケットに注目した。都心にしかない高品質で高付加価値志向のカフェをロードサイドに展開すれば勝機があるとにらんだ」(廣瀬氏)

 他社で同様のコンセプトを持つカフェとしては、KONA’S(東京都/阿部和剛社長)が運営する「コナズ珈琲」が代表的だ。コナズ珈琲はハワイの食卓をモチーフにした高級志向のカフェ業態で、「プチ贅沢」のニーズに応える空間、メニューを提供している。

 物語コーポレーションは「和」をコンセプトとした高付加価値カフェ業態がマーケットに少ないことに目をつけ、お客が憧れを抱くような非日常的な和風デザインのカフェである果実屋珈琲の出店に至ったかたちだ。

 同社のねらいどおり、販促は一切していないにもかかわらず、オープンから1カ月間の売上は計画比の1.7倍を記録した。物語コーポレーションによれば、メーン客層は30代以上の女性で、土日にはファミリーも多く訪れるという。「大人になりファミレスを卒業したあと、行きたいと思うカフェがなかった女性層に響いた」と廣瀬氏は語る。

 足元の課題は、好調のあまりオペレーション面に余裕がない点だという。今後はフルーツをストックするスペースを増設し、製造のキャパシティを広げる計画だ。

 午後6時に閉店するメリット

 そのほか果実屋珈琲では営業時間(午前8時~午後6時)を日中に限定することで効率のよいオペレーションを実現している。ポイントは閉店時間を午後6時に設定したことだという。

 「一般的なカフェ業態の1日当たりの利益は、午後4時半までに95%が決まる。夜間に利益をとろうとするとそのぶん多くのコストがかかるため、欲張らず割り切ったかたちだ。かわりにテイクアウト用の物販ショップを併設し、収益構造の強化を図った」(廣瀬氏)

テイクアウト用メニュー

 そのため店舗デザインはすべて昼を意識したものになっている。建物の天井部分にある柱や梁をあえて目に入りやすいように設計し、インテリアや備品なども木製のものを多く採用した。廣瀬氏は「人の視界に木が映りこむ割合を表す『木視率』が45%あると、人は安心感を抱くことがわかっている。店内が多少込み合っていても落ち着く空間を演出した」と述べる。

店舗内観

 午後6時に店を閉めるのは、もう1つメリットがある。それは、女性社員の活躍促進だ。「夜間も営業するレストラン業態では、結婚して子供がいる女性社員が職場に復帰できないケースが多い。午後6時に閉店する店舗なら、そうした女性も職場復帰しやすい」(廣瀬氏)

 物語コーポレーションの中期経営計画の重点戦略の1つに、「成長を加速させる新業態開発」がある。果実屋珈琲はその取り組みの1つだ。同社としては今後、果実屋珈琲の早期の業態フォーマットの確立をめざす。