ベイシア(群馬県/橋本浩英社長)は、近畿大学が開発したブリとヒラマサの交雑種「ブリヒラ」を、6月16日よりベイシア全店舗(ベイシアマートを除く)で販売すると発表した。かねてより数量限定で試験販売を行ってきたブリヒラが、本格展開開始となる。販売に先立って都内で行われた記者説明会で語られた、ブリヒラの開発背景や販売のねらいについてレポートする。
ブリとヒラマサのハイブリッド魚「ブリヒラ」
「ブリヒラ」とは、雌のブリと雄のヒラマサを交配したハイブリッド魚で、「近大マグロ」など水産物の養殖技術の研究で有名な近畿大学が1970年に開発したもの。うま味成分が多く冬場はブリ類トップの味だが、夏場は身が緩んで脂も薄くなるブリと、歯応えの良い食感で血合いが少ないが、成長が遅く旬のブリに比べれば淡白な味わいのヒラマサを掛け合わせることで、それぞれの“いいとこ取り”を実現した魚だ。
2018年に1000尾から生産をスタートし、翌年19年には1万5000尾へ規模を拡大。試験販売などでの好評を受け、いよいよ年間5万尾以上の本格販売が6月16日からベイシア全店舗でスタートする。ブリヒラの大量生産は、養殖用種苗(稚魚)を近畿大学の関連会社が販売し養殖業者が育成した後、ベイシアが販売する一連の流れで行われる。ブリ類ハイブリッド種が、大学などの研究機関と民間企業が連携する「産学連携」によって本格的に生産されるのは世界初の事例だという。
価格をコントロールし、持続可能な養殖業を実現する
ブリヒラの本格販売に至った経緯には、夏場に強いブリヒラで年間通じておいしい魚を届けるというねらいのほか、「魚食が見直される一方で高騰し続ける価格への対抗策として、そして持続可能な養殖業の確立のため」とベイシア代表取締役社長 橋本浩英氏は語る。
コロナ禍での内食需要の高まりを受けて、ここ10年右肩下がりだった「生鮮魚介類一世帯あたり年間支出金額・購入量」が増加を見せる一方で、魚介類の消費者物価指数は肉類や他の食品に比べ高騰しているのが現状だ。大量養殖で安定的な供給が確保されれば、価格のコントロールも容易になる。
さらに、水産資源の枯渇が懸念されている昨今、「持続可能な養殖業のためには、天然資源を消費することなく必要な量を供給できる人工種苗の存在が重要」(近畿大学 世界経済研究所教授 有路昌彦氏)で、ブリヒラの大量生産は水産業の未来につながる重要な意味をを持つという。とくに養殖業は、魚が出荷可能になるまで年単位の時間が必要になるため、従来価格変動リスクの高い産業とされてきた。ブリヒラの生産では、大学、生産者、加工業者、販売店が連携し、あらかじめ価格と生産物の買取を決めた上で生産が行われるため、生産者にとってリスクが少なく、安定した持続可能な養殖業を実現する架け橋になり得る。
23年には売上6億円をめざす
開発自体は1970年にされていたブリヒラだが、今回の大量生産に至るまでには課題もあった。1つは、親となる良質なブリ・ヒラマサの確保だ。ハイブリッド種には、掛け合わせによって両親の優れた形質を受け継ぐ「雑種強勢」という性質があり、これは有名な豚のハイブリッド種である三元豚や、和牛、米など畜産・農業ではすでに広く利用されている性質だ。ただし、良い生産物を得るためには良い親品種の確保・育成が重要で、近畿大学では長年にわたって試行錯誤を繰り返してきた。
さらに、ハイブリッド魚が世の中に受け入れられるかどうか、という課題もあった。この点ではベイシアが試験販売を行いつつ、お客に向けて丁寧にアンケートを取ることで認知向上と需要の形成に貢献した。
気になる価格だが、カンパチ・ヒラマサ・ブリのブリ類3種の中で最も安価なブリよりも、10%程度上積みした価格(サク100g/税込494円)になるという。夏場に強いブリヒラをアピールするため、当面は刺身と寿司の販売に限り、お客のニーズを確認しながら魚総菜などへの展開も検討していく。21年は5万尾の販売で3億円の売上を目標とし、23年には10万尾以上、売上6億円をめざす。
「マグロ、サケに次いで人気のブリ類を、年間通しておいしく食べてもらうと同時に、これを機に鮮魚部門を攻めの体制に持っていきたい」と橋本社長。群馬・埼玉という海のない県を中心に展開するベイシアが注力する鮮魚販売と、ハイブリッド魚の未来に注目だ。