サラダといえば、生野菜を盛り合わせた野菜サラダもあれば、ポテトサラダやマカロニサラダなど総菜売場ではお馴染みの味もある。また、シーザーサラダやコブサラダといった海外から流入したメニューもあり、そのバリエーションは数え切れない。最近では副菜ではなく、主菜として提供する専門店も登場してきている。そこで今回は、多面体の魅力をもち、近年話題の「サラダ」にスポットを当てる。
2014年に「カスタムサラダ」と呼ばれるサラダを専門に提供するレストランをオープンさせたクリスプ代表取締役社長の宮野浩史氏。サイドメニューの立ち位置だったサラダを、主食にもなることを広く世に知らしめた。サラダブームの火付け役ともいわれる宮野氏に、なぜサラダに着目したのか、起業のきっかけと同社ならではのビジネスについて聞いた。
アメリカで食べたおいしいサラダを届けたい
おいしくて満足のできるサラダを一つひとつ手づくりして提供するレストラン、それが宮野氏の運営する「クリスプ・サラダワークス」だ。14年に都内でオープンして以来、青山や六本木、丸の内など感度の高いエリアを中心に次々と出店。現在、店舗数は17店舗に上る。
開業のきっかけは、約20年前、宮野氏がアメリカで8年ほど暮らしていたことに端を発する。当時現地では、好みの野菜や具材を自由に選んで自分好みのサラダに仕立てる、いわゆる「カスタムサラダ」の店が都市部で大人気。宮野氏自身も好きで、よく利用していたという。
「帰国してみると、アメリカには当たり前のようにあったカスタムサラダの店がありませんでした。だからといって、日本の市場を開拓したいと思って店を始めたわけではなく、自分のようにすでに食べたことがあって、カスタムサラダを気に入っている人たちに向けて提供したいという思いで起業しました。目の前のお客さまに喜んでもらいたいというのが出発点ですね」(宮野氏)
いざオープンしてみると、想像以上に反響があり宮野氏自身驚いたという。しかしながら、「サラダだけで本当に成り立つのか?」「パンやコーヒーがあったほうがいいのでは?」と進言する人もいた。だが、宮野氏はまったく気にしなかったという。
「私たちのサラダは本当においしい。毎日、農家さんから泥の付いた新鮮な野菜が届けられ、豆もメキシコから仕入れてお店で煮ています。肉も然り。手間ひまをかけているからこそ、おいしさにつながる。これがこだわりでもあります。でも、パンやコーヒーにそれだけの力をかけられるか? やれることには限界があります。中途半端なものを出すわけにはいかない。だからサラダに集中するのです」(宮野氏)
めざすのは熱狂的なファンをつくること
宮野氏が「クリスプ・サラダワークス」を運営するうえでミッションとして掲げているのは、「熱狂的なファンをつくること」。お客にもっと喜んでもらい、カスタムサラダを好きになってもらうために、テクノロジーも積極的に活用する。たとえば、自社開発の事前オーダーアプリもそのひとつ。注文から調理、会計までにかかる時間を短縮できるため、お客にとってはこのうえなく便利だ。現在、来店者の約3割がオリジナルアプリからのオーダーだという。
もちろん、宮野氏らにとってもスムーズなオペレーションが可能になるだけでなく、顧客データを把握できる。つまり、お客のことを詳しく知ることができるため、彼らのニーズに対してすばやく対応できるのだ。外食企業とは思えないほど自社にエンジニアを抱えているのも、お客とのタッチポイントを自分たちで管理したいからと宮野氏は話す。
「飲食店の成功する秘訣は3つあるといわれています。“味・人・箱”。味は大事ですが、今や競争性はなくなりつつあります。箱もそう。SNSの影響もあって、味も箱もすぐ真似されてしまう。そうなると大事なのは“人”、スタッフです。いかにお客さまに体験をつくっていけるか? そこに成功のチャンスがあると思っています」(宮野氏)
たとえば、仕事帰りに「おつかれさまです」と声をかけられるだけで、ほっと和んで「いい店だな」と思う。そういうモノではなくサービスや体験こそが、熱狂的なファンづくりに必要なのだと宮野氏は言う。これは飲食業に限らず、小売の世界にも通用することだろう。おいしさの追求はもちろんのこと、サラダを通じてお客さまの体験価値を上げていることに、「クリスプ・サラダワークス」の成功がある。