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なぜあの商品は何度も買われるのか?お客様をつかむ「習慣インサイト」の見つけ方

継続的に自社商品、サービスを購入してくれるお客様をつかむことはどの小売店にも求められることだ。自分たちの商品に目に触れる機会を「習慣化」してもらうための「兆し」をいかにつかむことができるか。博報堂ヒットメーカーズ「カイタイ新書」からそのエッセンスを紹介する。

リピーターになってもらうにはまず購入につながる「習慣」をみつけることが重要だ(gettyimages/JGalione)

 世の中全体を見るマクロな視点で捉えた「兆し習慣」の波に乗り、商品を「習慣化」させるには、個々の兆し習慣をミクロな視点で深掘りし「習慣インサイト」を探る必要があります。例えば、ジュースについての情報を探るとバナナジュース専門店がひそかに人気を集めていることがわかったとします。

情報収集で忘れてはならないポイント

 それを受けてバナナジュースを発売しよう、というのはやや拙速な話です。習慣インサイトを深掘りするために、まずやるべきことは、さまざまな角度からの情報収集を行うことで、兆し習慣についての理解を深めることです。以下のような情報を集めるといいでしょう。

• 習慣を実践している人はどんな人か?
• どんなシチュエーションで実践しているか?
• いつから成長トレンドに入ったのか?
• なぜ成長トレンドに入ったのか?

 もちろん、これらの他にも習慣の実態が詳しくわかる情報があると、習慣化コンセプトを検討する上で望ましいです。少なくとも、いつ/誰が/どこで/何のために/何の習慣をどのように実践しているのか?といった5W1Hに沿った情報は一通り揃えましょう。

 兆し習慣を詳細に捉えるために必要となるのは、情報源を複数もつことです。ニュースの中で、複数のメディアで類似トピックがとりあげられていないかをチェックすることはもちろん、友人やSNSの投稿などから、追加の情報を集めることも有効です。

 引き続き「糖質オフ」の例で考えてみると、一度どこかのニュースで取り上げられているのを目にしたら、SNSで「糖質オフ」と検索することで、例えば若い女性はもちろん、中年男性も取り入れている実態が発見できるでしょう。他にも、朝より晩ご飯で実践されがちなことや、糖質オフのお菓子が増えていることなども見えてくるはずです。このように、複数視点で見ることで、兆し習慣の解像度が上がり、理解が深まっていくのです。 

 複数の情報源で情報を集めることで、兆し習慣への理解は深まっていきます。しかし、それだけでは習慣インサイトにたどり着きません。習慣を実践する「N=1(1人ひとり)」について、ここでも「時系列」を意識して徹底的に観察しましょう。

 ニュースやSNSには、習慣を続ける本質的な理由=習慣インサイトは、言語化されていません。だから、観察して自分なりに推測するしかないのです。かといって、いつ、どこで習慣が実践されているかという情報だけでは、本質的な理由を解き明かすことは難しいです。だから、「1人ひとり」がなぜその習慣を続けているのかを「時系列」で観察することが、最善の方法だと考えます。

なぜ「時系列」で追うことが必要なのか

 では、「時系列」で観察するとはどういうことでしょうか?

 習慣は結婚をしたり、就職したり、何かしらのきっかけでスイッチするもの。つまり、習慣を時系列で見ると、なぜその人が習慣をはじめるようになったのかが、浮き彫りになってきます。また、習慣を行う前後にも、きっかけがあったり、ご褒美があったりします。

 土日の午前中にジョギングをして、その後お昼にビールを飲む人もいるでしょう。習慣の前後には、影響を及ぼしている重要な要素が隠れているのです。だから、ある商品を買った理由であれば、値段や商品特徴のどの要素かがわかれば十分ですが、習慣を続けている本質的な理由は、「時系列」を意識して観察する必要があるのです。

 例えば、糖質オフを続けている人をSNSで観察する場合を考えてみます。SNSでの糖質オフに関する投稿をただ眺めているだけでは、いつ、どのような人が実践しているかといった情報までしか得られません。そこで、糖質オフを実践するある1人の男性のタイムラインを追いかけてみます。すると、どうやら恋人に太っていると指摘されたのをきっかけに、糖質オフをはじめたことがわかってきました。糖質オフを続けると、脂肪が減り、これまで埋もれていた筋肉がうっすら見えてきたことで、恋人に褒められたようです。このように、「時系列」で観察すると、習慣をはじめたきっかけややりがいが浮き彫りになり、習慣インサイトが見えてきます。 

観察ツールは使い分けをする 

「N=1(1人ひとり)」を時系列で観察するには、どのような方法があるでしょうか? ツールと活用方法を説明します。

(1)SNS

 1つ目は、先ほどの例でも取り上げたSNSを活用することです。特にTwitterやInstagramなどの日常の何気ない出来事を投稿することの多いサービスで、習慣を実践している人を見つけ出し、その人のタイムラインを追いかけることが有効です。中には、直接連絡を取り合うことができる友人が習慣を実践しているということもあるので、そういった場合は直接会って、習慣をはじめたきっかけや普段どのように習慣を実践しているのかなどじっくり聞いてみましょう。

(2)現場(店頭)観察

 事前に許可を取って、店頭やサービスを提供する現場を観察することも有効な手段の1つです。店頭の場合、ポイントになるのは対象となる商品の売り場の「前後の行動」も観察することです。例えば、サラダチキンを買う場合、サラダチキンの売り場だけでなく、お店の入口から出口までの一連の行動を観察します。スイーツを手に取って成分表示を眺めたものの、あきらめた表情で棚に戻し、最後に手に取ったのがサラダチキンかもしれません。

(3)ビッグデータ

 1人を深く見るという話になると、数値的なデータを見ることが蚊帳の外に置かれがちですが、じつはデータから1人を深く観察することも可能です。例えば、ユーザーから許可を取り、サラダチキンを定期的に買っている人の購買データを時系列で見てみます。サラダチキンを買いはじめたタイミングに、同時にトクホ飲料も買っていました。

 はじめたきっかけは、やはりダイエットだったようです。しばらくすると一緒におにぎりを買いはじめ、糖質オフへの飽きが見えてきます。しかし、さらにしばらくたって、サラダチキンと小さいお菓子を一緒に買うようになってからは、その組み合わせが続きます。小さなお菓子でプチ解放することで、ストレス少なくサラダチキン習慣が定着したのでしょう。このように、大量のデータを統計的に処理するのではなく、特定の人のデータを眺めると習慣インサイトが見えてきます。

 個々の兆し習慣について、それを実践する人のイメージが浮かび上がってきたら、複数の兆し習慣のグルーピングを行い、「習慣インサイト」を見立てていきます。

グルーピングでより本質的な「インサイト」をつかむ

 なぜグルーピングをする必要があるのでしょうか? 例えば、糖質オフを行う理由だけを探ると、糖質オフにしか通用しない特殊な結論に偏ってしまう可能性があります。だから、商品やカテゴリーを越えた兆し習慣をグルーピングすることで、より本質的な習慣インサイトにたどり着きやすくなるのです。

 では、糖質オフ習慣とレコーディングダイエット習慣をグルーピングした場合を考えてみます。糖質オフは、これまでのような過度な食事制限は必要なく、お肉や魚などはたくさん食べてもいいダイエット手法として人気です。

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 一方で、レコーディングダイエットは、日々の食事量などを記録し、栄養の偏りなどの太る原因を明確にすることで、心や体に必要以上の負担をかけることなく痩せることのできるダイエット手法として人気です。

 例えば、これらの2つの習慣は、「運動せずに手軽に痩せる習慣」と括ると、新習慣を考える上でさまざまな商品やサービスと組み合わせることができそうです。このように、自社の商品やサービスと組み合わせられるレベルまで習慣インサイトを整えることこそが、グルーピングする理由です。

 グルーピングをする際には、共通する習慣インサイトでまとめます。糖質オフ習慣もレコーディングダイエット習慣も、「運動せずに痩せたい」という人々の「心のツボ」を刺激したという共通点がありましたが、この共通するインサイトが本質的であればあるほど、この後にやる習慣化コンセプトが強くなります。ただ、考える際に、あまり構えすぎると時間がかかってしまうので、まずは大胆にグルーピングしていき、徐々に精度を高めていきましょう。

 なお、兆し習慣を例にとって説明しましたが、グルーピングの考え方は兆し習慣も衰退習慣も共通します。衰退習慣の場合は、人々がその習慣から離れてしまった理由の共通点を考えることで、グルーピングを行います。