コンビニ食の定番、おでんと並んで中華まんがあげられる。中華まんはコンビニエンスストアが約7割のシェアを持つ。実はもとはメーカーがスチーマー(蒸し器)とセットで売ることで、市場を開いた商品でもある。その変遷を流通ジャーナリスト梅澤聡氏の「コンビニチェーン進化史」から一部編集してお届けする。
蒸しておくことで市場を拓いた「中華まん」
カウンターの上で販売している、コンビニ以外ではあまり見掛けない商品が、「おでん」と「中華まん」である。おでんが夕夜間の売上を底上げし、中華まんは秋冬の冷え込 みが厳しい早朝に販売が伸長する。 中華まんは、横浜中華街の店頭で熱々の状態で販売されているが、一般には「コンビニ食」と言ってよいくらいで、コンビニが約七割のシェアを持つ商品である。
スーパーマー ケットには袋の状態で販売されているものの、自宅で蒸して食べる手間を考えれば、コンビニで蒸した状態で販売すれば、需要のある商品になるのもうなずける。 今でこそコンビニ各社とメーカーはタッグを組んで新商品の開発に勤しんでいるが、もともとは中華まんは、メーカーがスチーマー(蒸し器)とセットで売ることで、マーケッ トを切り拓いてきた商品であった。
コンビニ販売される中華まんを製造している井村屋は、アイスバーなどを製造する菓子メーカーだ。それが、一九六四年に「肉まん・あんまん」の販売を始めている。開発の発想は、冬場に動きのないアイスクリームの販売チャネルを活用することだった。 食料品店に設置されていたアイスクリームの冷凍ストッカーは、現在と違って冬場はスカスカになる。アイスクリームの売上が落ちる冬場は、むしろ邪魔な存在になっていた。
その空きスペースに、寒い季節に需要が伸びる「肉まん・あんまん」を置いてもらい、消費者に訴求する方法を取った。しかし当時は、冷蔵庫の普及率が半分を超えた程度で、冷凍スペースも狭く、冷凍の中華まんは販売が伸び悩んだ。夏場のアイスクリームは買ってすぐに食べられたが、冬場の 中華まんは調理(蒸し工程)が必要であるため、面倒な商品と見なされ、保存して置いておくだけでは売れにくかった。
必要な分だけスチーマーで温めて販売
そこで発想を変えて、65年に採用したのが、ホカホカの肉まん・あんまんをその場で提供できる、スチーマーを活用した販売である。工場で製造した肉まん・あんまんを店頭の冷凍ケースに入れておき、販売すると同時に、従業員が必要な分だけをスチーマーで温めて販売する方法を取った。
このスチーマーの開発により、今度は菓子店、パン販売店の店頭に、あらかじめスチー マーを設置する方法に切り替え、市場を切り拓いていった。この店頭で湯気を立てて、蒸し上げて販売するスタイルを導入して以降は、冬の風物詩として、当時は高校生を中心に 爆発的なヒットとなった。マクドナルドが日本に登場する71年以前の話である。
その後、ファミリーマートが73年に1号店を開設すると、井村屋はファミリーマート と取引を始めて、現在にいたっている。 コンビニの肉まん・あんまんは、その後、ピザまん、カレーまんなど、横軸(種類)へ の展開を見せ、さらに肉を増量させた肉まん、高級肉を使用した肉まんなど、縦軸(価格)の幅を拡大している。