2013年12月に「和食」がユネスコ無形文化遺産登録され、また訪日外国人の増加などにより、日本の食文化への関心が高まっている。なかでも「抹茶」は、茶カテキンやテアニン、ビタミンCなどにより「肥満予防」「アンチエイジング効果」「リラクゼーション効果」「認知症予防」「美肌効果」「虫歯予防」といった、効果・効能を期待できることもあり、海外でも人気となっている。(本稿は2019年10月2日から4日までの間、東京ビッグサイトで開催された第30回食品開発展2019での取材をベースとしています)。
横ばいのお茶市場にあって、大幅伸長してきた抹茶
お茶全体の国内生産量はここ10年、ほぼ横ばいで推移しているのに対し、抹茶のもとになるてん茶(てん茶を石臼で挽いたものが抹茶)は約2倍の規模に成長している。茶道用以外に、食品加工用材料としての需要が大きく伸びているからだ。
そうしたこともあり、今回、愛知県に本社を置く抹茶メーカー3社が『西尾の抹茶』を積極的にプレゼンテーションしていた。
愛知県は、てん茶の生産量が京都府に次いで全国2位だが、全国的な知名度では遠く及ばないことから、地域をあげてブランド力の強化に取り組んでいる。『西尾の抹茶』は、特許庁の「地域団体商標登録制度(地域ブランド)」に認定され、2017年3月、農林水産省から「地理的表示保護(GI)制度」に登録されている。
業界で唯一、抹茶のみを原料に「退色」防止する技術を持つ
「抹茶を使ったお菓子やドリンク、アイスクリームなどが増えているが、実は、抹茶には光や熱、酸性に対し、“退色”(鮮やかな緑が落ちていく)しやすいという弱点がある」
そう語るのは、業界で唯一、抹茶のみを原料に、退色の悩みを改善した抹茶製品『松鶴みどり』を販売する松鶴園(愛知県/若杉秀樹社長)の担当者だ。
従来から、抹茶の退色を抑える方法として、着色料やクロレラ等で緑色の補強をするというケースがあるが、その効果は限定的で抹茶本来の風味も損なわれやすい。また最近では、世の中の健康意識の高まりから、着色料の有無を気にする消費者も増えている。しかし、同社の『松鶴みどり』を使用すれば、退色の心配も少なく、風味を落とすことなく、成分一括表示でも「抹茶」のみの表示ですむ。
製造原価に少々、影響が出てしまうが、製菓製パンメーカー、飲料メーカー、酒造メーカー、レトルトメーカーなどに広く納品されており、その用途も、抹茶そば、抹茶白玉、抹茶チョコレート、抹茶ヨーグルト、抹茶カスタード、抹茶マヨネーズ、抹茶蒸しパン、抹茶ゼリー、抹茶ミルクプリン、抹茶クッキー、シフォンケーキなど幅広い。
「具体的にどこのメーカーが当社製品を利用しているかということは明らかにできないが、コンビニエンスストアやスーパーで必ず消費者の目に入るものに使われている」(同)という。
膨らみやすい!スポンジ生地専用の抹茶を開発
FSSC22000認証を取得し、茶園栽培から抹茶生産までの一貫生産を行っている、日本で唯一の抹茶メーカーが南山園(愛知県/富田清治社長)だ。
同社では、「抹茶を使用すると、スポンジがふくらみにくい」という課題に対し、独自の製法で作りあげた無添加のスポンジ生地専用抹茶『ふくらむ抹茶』をはじめ、デコレーション用抹茶、加熱対応抹などを食品加工用材料として販売している。
抹茶の需要が茶道用主流の1970年代当初、食品業界に対し「抹茶を食品に使うこと」のメリットを説き、食品加工用抹茶の製造・販売に大きくシフトし、会社を成長させてきたのが、1888年設立のあいや(愛知県/杉田武男社長)。
日本初の有機抹茶にも着手し、1997年、JONA(日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会)の有機栽培認証を取得。現在では、OMIC(海外貨物検査株式会社)にて各種有機認証(日本の有機JAS認定、アメリカのNOP認証、ヨーロッパのEU認証)を取得している。
また、2014年には、「抹茶」の分野において国際的に高いシェアを確保し、良好な経営を実践している企業として経済産業省の「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」に選ばれた。
「海外の人から、日本の食材を代表するものとして抹茶が意識されているのを強く感じる。ただ、抹茶の出荷については足元ではダウントレンドに入っている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックによるインバウンド効果で、再度ブームになってくれれば。コンスタントに続く商材として定着してほしい」(同社担当者)