連日、多くの人で賑わう京都の寺町通りに、1軒のおにぎり専門店がオープンした。好みの商品を選び、店内もしくはテイクアウトで楽しめるこのショップだが、主役は「おにぎり」ではなく、「海苔」だという。一体、どんな店なのか、現地で実食レポートする。
店内の壁が真っ黒なのはなぜか?
カップル、家族連れ、また観光客など多くの人が往来する寺町通り。その名は、豊臣秀吉が都市改造の一環で、各地にあった寺院を強制的に移転、集積させたことに由来する。
そんな歴史ある寺町通りの一角に2022年4月、おにぎり専門店「のり結び」がオープンした。間口は狭いが奥行きはあり、京都特有のいわゆる「うなぎの寝床」の形状だ。
店内には細長いカウンター什器が置かれ、透明のショーケース内には、10数種類のおにぎりがずらりと並ぶ。「塩むすび」「紀州南高梅」などのほか「博多明太子」「紅鮭いくら」、さらには「チーズカツカレー」「カルビビビンバ」といった変わり種もある。価格は1個税抜150〜300円。
従業員のお姉さんからいろいろと教えてもらいながら、最終的に選んだのは定番商品の「焼きさば」、季節メニューの「たこ飯」、期間限定の「男梅むすび」の3つ。これに種類の異なる海苔3枚、さらに「具だくさん味噌汁」がついた、「味くらべセット」というメニューがお得だと聞き、迷わず決定。価格は税抜860円(イートインの場合、税込946円、テイクアウトは同928円)である。
トレーを受け取り、会計を済ませたが、おにぎりの下にありながらも、ひときわ存在感をアピールするかのように並べられていたのが海苔である。
それもそのはず、このショップは大阪の海苔メーカー、大森屋の直営店なのだ。
海苔メーカーがおむすび専門店を運営するねらいとは
かつてお中元、お歳暮で贈られるメジャーな商品のひとつは海苔だった。しかし近年は不透明な景況感が続くなか、節約、経費削減のため贈り物自体をやめる人、企業が多いと聞く。一方、コンビニで人気があるのは、おにぎり。つまり業務向け需要が一部では拡大しているそうだ。
そのなか、自社こだわりの海苔を食べてもらい、おいしさを体験してもらう機会をつくるため出したのがこの専門店。大森屋の、いわばアンテナショップである。
そうとわかると合点がいく。カウンターの向こう側の壁が真っ黒なのは、きっと海苔をモチーフにしているからだろう。上部には大森屋の登録商標も見える。
私はトレイを携え、2階のイートインスペースへと移った。
海苔は「贈答用でしか味わえないような、最上級のおいしさ」
壁際のカウンター席を確保、早速いただくことにする。
最初に手を伸ばしたのは「焼きさば」である。お姉さんのアドバイスに従い、備え付けの電子レンジで20秒間、加熱する。それをショップが推奨する海苔に乗せ、優しく包む。
この海苔は有明海産の焼き海苔だそうで、リーフレットには「やわらく、うまみが強い」とある。また、店で提供される海苔はいずれも「贈答用でしか味わえないような、最上級のおいしさ」とも書かれていた。これは期待できるぞ。
そして一口頬張る。うん、おいしい。
具材の焼きさばはもちろんだが、一粒一粒がしっかり立っている絶妙の炊き加減、硬さのご飯が気に入った。米は京都府丹波産コシヒカリ100%、塩は「淡路島産の藻塩」と、どれもこだわりがあるようだ。
私の知人に変わった経歴のカメラマンがいる。東京の中央市場が築地にあった時、海苔問屋の従業員として働いていた。その彼がある時、「海苔のおいしさは、産地、一番に摘んだものかどうか、加工法などによって異なり、よい状態のものは香り、色艶、何より食感が違うのだ」と、力説していたのを、おにぎりを食べながら思い出した。
「焼きさば」を完食した後、続けて「男梅むすび」、最後は「たこ飯」で〆た。それぞれ風味、味が違う有明海産の味付け海苔、瀬戸内海産の焼き海苔で包んで。ちなみに「男梅むすび」は、ノーベル製菓の人気ブランド「男梅」とコラボした限定商品である。大阪の企業同士、いろいろ作戦を練っているようだ。
どれも美味だった。これほど海苔に集中しておにぎりを食べたのは初めての体験である。海苔なんてどれも同じだと思っていたが、それぞれ個性があり、本物は別格だとわかった。
みなさんも機会があれば、京都のおにぎり専門店で主役の「海苔」を味わってみてはどうだろうか。