いわゆる「黒酢ブーム」があったのは約30年前も昔だが、それ以来、黒酢や果実酢、ビネガードリンク(酢飲料)といった健康酢の市場は堅調に伸びている。数ある黒酢の中でも、ダントツの位置を維持しているのが、伝統製法の「鹿児島の壺造り黒酢」だ。本稿では、江戸時代後期から鹿児島霧島市福山界隈で壺甕に黒酢づくりをしながら、独自の商品開発を展開する重久盛一酢醸造場(鹿児島県、屋号:重久本舗、まるしげ)をレポートする。
機能性表示食品としても注目される酢
伝統的な発酵食品である「酢」。重久本舗は、酢に自然発酵の成分を加えたさまざまな商品を開発している。この6月に発売した「黒生姜甕酢」(185mℓ、1250円税別)もその1つで、「身体ぽかぽか『黒生姜甕酢』」をキャッチコピーとしている。同商品の原材料は米麹と黒生姜で、黒生姜粉末を米麹と地下水と一緒に発酵させて製造する。成分は、アミノ酸450mℓ以上、化学調味料、香料、保存料、糖質無添加となっている。
同社の商品開発の歴史は古いが、目立ったものといえば、有機田七人参を甕で発酵させた「白井田七 甕」(2015年発売)、カツオ節(枕崎産)を米麹で発酵させた「旨だし酢極」のほか、無農薬栽培の日向当帰(日本山人参)を米麹で発酵した「神の恵み」、果汁を発酵させた自然発酵の「ざくろ酢」など現在、15種類の酢を製造・販売している。
同社の酢商品の比率は、黒酢が6割強、フルーツ酢が2割、漢方酢が1割弱、だし酢(鰹節)は1割弱となっている。黒酢とほかの自然発酵酢を組み合わせ、差別化商品を積極的に開発しているのが特徴だ。
最近、酢関連商品は機能性表示食品としても広がりを見せており、とくに黒酢の健康効果である「疲労回復」「血流の改善」「美肌」「栄養の吸収促進」「尿酸値を下げる」「肝機能を高める」など、生活習慣病を予防するとして注目を集めている。
“本物志向”の酢をめざして
同社では、消費者ニーズを把握した商品開発を急ピッチで進めている。同社の商品開発のコンセプト、開発の方針は実にシンプルだ。
重久本舗5代目で、39歳の若さで経営の舵を取る重久雅志社長は、「伝統製造の黒酢だからこそ、妥協はしない。匠(職人の気質)の技をフル活用して、言葉で言うなら『酢を究める』ということに尽きると考えています」と話す。
「現在は消費者のニーズは多様化しており、全社で消費者が求めているのはどんな商品なのか、ということを追及しています。現在、酢を購入する人は女性が8割となっているが、これからは『酢が苦手』という男性向けの商品開発に取り組みます」(同氏)。
「露天甕壺醸造」という伝統製造から出発した重久本舗では、時代の変化を乗り越えるために何が必要かを追求している。5年前に社長に就任した重久氏は、学校卒業後、人材派遣会社で営業職に従事した経験を持つ。
「正直、酢は苦手でした。ただ、大好きな芋焼酎の飲みすぎで肝臓の数値が悪くなった時に、黒酢と一緒に飲んだことで健康回復をした体験をきっかけに、本気で仕事に取り組み始めました。黒酢の商品開発で国民の健康に役に立ちたいと思うようになり、いまでは天職と考えています。最近は、健康関連事業を展開する会社からのOEMの問い合わせも増えている。今後も、独自の商品開発をさらに進めていきます」(重久氏)
海外も見据えながら、“酢を究める本物志向”をめざす同社。「やる気」(情熱)、「一生懸命」(真剣)、「つながる」(連携)をキャッチコピーに、イノベーションとベンチャースピリッツ旺盛な若手経営者が率いる伝統製造会社の今後の動きに注目だ。