ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)をベンチマークにする食品スーパー(SM)は多いだろう。しかし、売場や商品を表層的にとらえただけの調査で終わってしまうことも少なくないのではないか。そこで、ヤオコーでの勤務経験を持つ、本連載おなじみのコンサルタント・海蔵寺りかこ氏が、新たな旗艦店モデルとして昨年10月にオープンした「和光丸山台店」(埼玉県和光市)を訪問。ヤオコー流の販促術の深層と、学ぶべきポイントなどについて解説してもらった。※文中・キャプションの価格表記はすべて本体価格
戦術編
退屈な食品の買物に「楽しさ」を与えることの重要性
ヤオコーで働いていたためどうしても手前味噌に聞こえてしまうかもしれないが、筆者は毎週クルマで千葉県内のヤオコーの店舗に行き、そこで1万2000~3000円分の買物をしている。もちろん家の近くにほかのSMもあるが、なぜかヤオコーに行ってしまうのだ。いろいろなSMの店舗を回ってみても、最終的に行きつくのはヤオコーなのである。
それはなぜか。一言で言えば、ヤオコーの店舗には「楽しさ」が存在するからだ。
主婦としての経験も踏まえて考えると、食品の買物は本来、決して楽しい“作業”ではない。服やバッグを買ったり、あるいは同じ食品でも「カルディ」のような店であればテンションが上がるものだが、買えるものは限定的だ。一方SMでは、日常の食生活を維持するためというある種の義務感に追われ、持ち帰るにはあまりに重い「米」や、買物カゴからはみ出す「長ネギ」を手にしながら店内をうろうろ回り、帰路につくのである。大げさに言えば、“生きるための食料を買うため”に仕方なく買物をしているのだ。
そうしたルーティンのなかで「楽しく買物ができる」「魅力的な商品を発見できる」という要素が存在することは、主婦にとって非常に大事なことだ。その楽しさがヤオコーの店舗にはあり、それが同社が支持される理由なのである。
だから、多くのSM企業がヤオコーをベンチマークしている。新店ができればこぞってMR(市場調査)の名のもとに店を訪れ、売場や商品をくまなくチェックする。そして、「この店では冷凍食品売場が広くなっている」「ヤングファミリーに対応するために総菜にスペースを割いている」といった事象が議論される。
もちろん、そういったことも事実ではある。実際に冷凍食品の売場は広く確保され、品揃えも充実している。総菜は競合他社にはないようなユニークな商品がシズル感たっぷりに陳列されているし、おいしさにも定評がある。
しかし、いくら即食・簡便需要が高まっているとはいえ、冷凍食品や総菜だけで生活している消費者は限定的だ。それ以外──つまり
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