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大手食品メーカーも注目する完全栄養食市場 国内パイオニア「ベースフード」の戦略とは

コロナ禍は、食の志向にいくつもの変化をもたらした。当初は内食回帰に注目が集まっていたが、時を経るにつれて健康志向が一層の高まりを見せてきた。また調理疲れや、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、テレワークによって新しい働き方が求められるようになり、より手軽に・効率よく、栄養を摂取できる食への関心が高まっている。本記事では、完全栄養食への関心を強める大手食品メーカーの動向と、日本におけるパイオニアであるベースフード(東京都/橋本舜社長)の取り組みを紹介する。

森永乳業、日清食品も…
高まる完全栄養食市場への関心

 大手食品メーカーでも、完全栄養をうたう食品(完全栄養食)への取り組みを本格化させる動きが出てきている。
 森永製菓(東京都/太田栄二郎社長)は、1食分で1日に必要な栄養の3分の1が摂れる「inゼリー 完全栄養」を、2021年8月4日の「栄養の日」に、ECルート限定、数量限定で発売した。翌日には品切れが出るほど消費者からの支持を集め、同社では、その結果をうけて、11月からECルート限定で再発売を始めている。

 また、日清食品ホールディングス(東京都/安藤宏基社長)は21年3月期決算発表説明会の中で、独自に開発した“おいしい完全食”の生産・販売に乗りだす方針を明らかにした。

 一般的には、公的機関(日本では厚生労働省)が策定した食事摂取基準に基づき、1食に必要な栄養素がすべて必要量以上含まれる食品が完全栄養食と呼ばれている。

 この分野での日本のパイオニアといえば、2016年4月設立のフードテック企業で、「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」をミッションとするベースフード(東京都/橋本舜社長)だ。2017年に完全栄養パスタ「BASE PASTA(ベースパスタ)」を販売して以降、完全栄養パン「BASE BREAD(ベースブレッド)」、完全栄養クッキー「BASE Cookies」とラインアップを増やし、2021年8月にはシリーズ累計販売食数1000万食を突破した。1年前と比較して、販売数量は3.7倍に拡大しているという。

完全栄養食のパイオニア、ベースフードの強み

 「BASE BREAD」と「BASE Cookies」は、たんぱく質や食物繊維、26種類のビタミン・ミネラルなど1日に必要な約30種類の栄養素が含まれ、1食(BASE BREADは2袋、BASE Cookiesは4袋)で1日に必要な栄養素の1/3の摂取が可能。合成着色料・合成保存料は不使用だ。

 同社では、在宅勤務や外出自粛で自宅での食事回数が増えたことによる「エフォートレス自炊(頑張らなくてもよい自炊)」が求められたことに加え、健康意識が高まったことで、手軽に主食から栄養バランスがとれるベースフードがより求められるようになったと分析している。

 コロナ前までは、「健康を気遣いたいが、忙しいため自炊の手間は省きたい20~40代のビジネスパーソン」がメーンの顧客だったが、コロナ禍で顧客の幅が増え、筋トレやダイエット中の20~40代の男女、子どもの栄養バランスが気になる母親、生活習慣病が気になり始めた40代、50代男性などの利用も増えているという。

ドラッグストア、コンビニ販売で認知度アップ

 ベースフードは自社サイトからのサブスク利用者が中心だが、その認知度アップを図るため、実店舗での販売をスタートさせている。

ファミリーマートで展開するBASEFOOD

 2020年11月、ドラッグストアチェーンのサンドラッグ「CARER渋谷駅前店」(東京都渋谷区)での「BASE BREAD」シリーズ販売開始を皮切りに、2021年に入ってからは首都圏のファミリーマート、ナチュラルローソン(「BASE Cookies」のみの扱い)で専用の什器を設置した販売へと広げ、この10月には中部・関西地方のファミリーマートでの「BASE BREAD」、および「BASE Cookies」の展開を進めてきている。「ネットでの認知がとれていたこともあり、コンビニやドラッグストアでの売れ行きも好調だ。ECではまとめ買いになるため、1袋単位でも手に取れる場をつくろうと考えた」(同社)。

 都内のファミリーマートでベースフードの売場がどうなっているかたびたびチェックしているが、販売開始から数カ月を経過した現在でもしっかり売場が維持されている。このことからも、それなりに売れていることは間違いなさそうだ。また、「コンビニなどオフラインで試した後に、オンラインの継続コース(サブスクモデル)を始めるケースも多い」という。

味の素と協業、さらなる改良や販売チャネル開拓へ

 ベースフードのビジネスの基本は、D2C(Direct to Consumer)だ。いったん商品化してしまえば、大幅なリニューアルでもない限り原材料や味の変更はめったにすることがない多くの食品メーカーと違い、同社では創業当初から常に、オンラインだけでなくオフラインの場でも顧客の声を聞きながら味の改善やラインアップの追加を繰り返してきた。

 調理不要でそのまま食べられる、「BASE BREAD」のメープル味やシナモン味などは、コロナ禍で、「在宅勤務のデスクワークの合間に、おいしくて体にいいものをさっと食べたい」というニーズに応えたものであるし、21年6月に発売した「BASE Cookies」は「デスクワーク中に罪悪感なく食べられるおやつがほしいというニーズに注目し、糖質控えめで栄養バランスがとれ片手で食べやすくした」ものだ。

 同社は、2020年12月、味の素と協業契約を締結した。味の素の研究開発力による「BASE BREAD」「BASE PASTA」シリーズの改良サポート、開発・販売サポートのほか、両社製品を組み合わせた外食産業への提案等による販売チャネル開拓等を狙いとしているという。「今後については、パスタやパン、クッキーの種類や食べ方のバリエーションを増やしつつ、主食のイノベーションとして、アジアやアメリカなどグローバル展開も視野に入れている」(同社)。