メニュー

「データ連携」が小売業界にもたらす新しい価値と進化するリテールメディアの今後

「データ連携」が小売業界にもたらす新しい価値と進化するリテールメディアの今後

D&Sソリューションズ株式会社
取締役 共同CEO
望月 洋志 氏

 

リテールメディアのプラットフォームでデータ連携を容易に

 弊社は小売業界に特化したSaaSの提供、小売りの自社メディア開発のためのプラットフォーム(以下PF)を開発および提供している。現在最も採用されているのがLINEミニアプリである。

 静鉄ストアでは2021年12月中旬から導入1か月で会員が2万5千人を突破、昨年度末には4万4千人を超えた。カード会員数22万人のうち、売上の25%がLINEミニアプリ会員によるものであった。会員売上は前年比116%と大幅伸長した。その他PC不要、iPadでスキャンすると各店舗の販売動向が売場ですぐにわかるユーザー数無制限のPOS分析アプリ「POSMIL」やTV放映による影響をすぐに店頭展開できる「POSMIL‐TREND」などを開発している。

リテールメディアプラットフォームの仕組み

 これらのサービスを実現するために、小売データを弊社が預かり、「RETAILSTUDIO(リテールスタジオ)」というデータ倉庫で統合・加工・連携し、APIを通してパートナー企業へ公開、または弊社のサービスに直結させるなどのデータ連携の仕組みを提供している。現在は13社で同サービスが採用されている。(2022年5月末時点)

カインズにおける在庫データ連携例

 小売業のDXの課題を解決するためにはデータ連携の推進が重要だ。カインズのアプリを事例として紹介する。アプリに商品の在庫数表示機能を持たせ、顧客は店舗に行く前に「マイストアの在庫数」表示で店舗の在庫数を確認することができる。顧客は事前に在庫数を確認できるため、商品の在庫がない場合、商品の取り寄せを選択することもできるし、店舗に行って、在庫がないことで残念な気持ちになることはない。カインズではデータ連携によって、比較的リアルタイムに在庫データを更新する仕組みを構築し、在庫数表示を実現して顧客満足度を高めている。

 在庫データは基幹システムや店舗システムにあるデータのため、アプリに取り込むのではなく、基幹システムの在庫数量をどのようにアプリに公開・開示し、在庫データを連携できるのかが、最も重要である。必要なのは、「理想の状態から逆算」したデータ連携、つまりサービス設計が要になる。

複数の外部データを統合し、情報を活かす「POSMIL-TREND」

 DXの取り組みは自社データだけではなく、外部のデータを上手に活用することでも非常に効果が上がる。例えば自社商品がTV放映された際、放映日にはYahoo!の検索回数が跳ね上がる。TVの影響は非常に大きく、放送商品の売上は放映日翌日に前年比300%超え、商品によっては1500%近くにもなる事例もある。自社商品が取材を受けた場合は把握可能であるが、番組側の企画として取材無しで紹介された場合や、テーマとして取り上げられた場合の把握は難しい。このような場合も検知対象商品を「POSMIL-TREND」に登録しておけば、エム・データのTV番組DB(テキストデータ)、Yahoo!の検索データ(DS.API)、市場POSのトレンドを組み合わせた検索結果を通知する。この結果を受け、メーカー企業様であればバイヤー商談の提案資料、小売企業であればお客様向けPOP等でタイムリーに販促を打てる。

POSMIL‐TRENDの仕組み

 インターネット広告への出稿に比べ、テレビで紹介された直後に対応できれば機会損失なく売上が獲得できる。これまで人間の目視でやっていたこと、やりきれなかったことをシステムで実現してしまう、これも一つのDXである。

データ連携で実現するお買物情報のリッチ化

 店頭とオンラインの融合において、商品DB・商品マスタの拡張は重要である。商品コードと同時に表示すべき情報は商品名や画像以外にも売価や在庫、レビューなどたくさんある。大量の商品コードに加え新商品が出続ける中、それらを自前でメンテナンスすることは困難である。弊社はお買物情報のリッチ化を実現するため「共通商品マスタ」に挑戦している。様々なデータ供給元から入るデータを大きな共通商品マスタに入れ、各種サービスに連携し、常に最新の商品マスタが生成される仕組みを構築している。

 「チラシのDX」にも取り組んでおり、5月27日より新しいデジタルチラシ「チラシNEXT」をSM企業に無償提供している。チラシのテーマ訴求と商品の良さを詳細に伝えられる。商品の特徴を説明するストーリー広告のテストでは、ストーリーを見て対象商品を買った人のトライアル率は94%、ストーリーを読んでいないお客様に比べて読んだお客さまの買い上げ率は15倍となった。さらなる挑戦として、お客さま毎に「1to1のチラシ」の提供も進めている。

 コロナ禍においてSM店舗内での試食提供ができない中、売場に代わってデジタルの場で商品価値を伝えることも情報の連携の仕組みを活用して取り組んでいく。データ連携は、顧客毎のパーソナライズの効果を高めるとともに、小売業のリテールメディアの取り組みをさらに進化させていくだろう。