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あなたのお店は大丈夫? 2022年4月に全面施行される「改正個人情報保護法」が小売業界に与える影響とは

競争が激化する小売業界において、ID-POSなど顧客データの活用によってニーズに即した売場づくりや商品政策につなげるといった取り組みが各社で積極化している。一方、マーケティングやデータの利活用に関する専門的知識や知見をあまり持たないまま顧客データを扱う小売業も少なくない。そんななか、2022年4月には改正個人情報保護法の全面施行が予定されており、Cookie(クッキー)や位置情報、広告IDといった識別情報なども「個人関連情報」として扱われることになり、それらを利用・提供する際には各種制限や義務が課されることになる。これは顧客データの活用を進めている小売業にとっても当然他人事ではなく、法改正に向けて対策を打つ必要がある。

小売業のデータ活用に潜むリスクとは?

 昨今、商品情報の取得から購買に至るまで、消費者行動のあらゆる側面でのデジタルシフトが加速している。売り手である小売業でも、自社が持つ購買や顧客データを広告宣伝や販促施策に生かすといった取り組みが進んでいる。

 とくに、小売事業者が保有する顧客(会員)情報と店舗での購買履歴が紐づいたID-POSデータの重要性と価値は高まるばかりである。たとえば、ID-POSデータを活用することで、過去に自社店舗での商品の購入歴がある顧客を分析し、店舗への来店を促すために顧客の購買傾向に合わせたデジタル広告を配信したり、購買意欲を喚起するために会員アプリでクーポンを発行するといった施策が各社で展開されている。

 またID-POSデータだけでなく、自社のウェブサイトに来訪したユーザーの情報となるCookie、位置情報、広告IDなどの識別情報も用いたトラッキングやプロファイリングなどの技術も進化。顧客一人ひとりの趣味趣向に合わせた情報を提供することも容易となった。

法改正で「個人関連情報」の範疇が大きく拡大

 一方で、ID-POSデータは、小売事業者の各店舗で商品を購入した顧客の「個人情報」にあたる。この個人情報を広告や販促で活用するためには、顧客に許諾を得たうえで、各小売事業者およびデータを取り扱う事業者が、個人情報保護法を遵守したデータの取得・利用・管理・提供を行わなければならない。

 2020年6月12日に個人情報保護法の改正案が成立・公布され、22年4月1日に全面施行が予定されているが、本改正により、Cookie、位置情報、広告IDなどの識別情報なども「個人関連情報」として位置付けられることになる。それらを利用・提供する際の制限や義務が加わることとなり、より個人のプライバシーに配慮したビジネス、サービス設計を行うことが求められるのだ。

 したがって、個人データを利活用するすべての事業者において、個人情報保護のみならず、プライバシーの保護やデータセキュリティに関する課題を解決していくことは不可避であり、経営戦略上重要な課題の1つとなる。小売業にとっても、ID-POSデータを活用した広告・販促施策に少なからず影響が出ることが想像される。

法改正によって「個人関連情報」の範疇が拡大されるため、小売業は対応を急ぐ必要がある(写真はイメージです)

小売企業が抱えるデータ管理体制の課題

 これらの個人データを取り扱うには専門的な知見が必要となるが、小売事業者においてはそうしたノウハウや対応体制の整備が進んでいないのが実情だ 。また、個人情報の管理を経営課題の1つとして捉えていながら、何から着手すればよいかがわからない、あるいは日々の業務に追われるなかで十分な対策を打ち出せていないケースも多いように感じる。

 個人データを適法かつプライバシーに配慮しながら活用していくためには、顧客のデータを扱うマーケティング部門だけで完結することはできない。まずは、企業内のデータガバナンスやデータフローを可視化して、自社で取り扱うすべての個人データの取得・管理・利用・提供の現状の体制について把握することが重要だ。

 そして、個人情報保護法違反やプライバシー侵害となり得るリスクがないかなどを評価・分析し、障害となる課題をすべて洗い出した後、個人データを適法かつプライバシーに配慮して活用できる基盤とルールをつくっていくことが必要となる。

 しかし、小売事業者においてこのような取り組みを推進するためには、自社のリソースだけで対応することは難しいだろう。ID-POSデータなどの利活用を実現するためには、個人情報やプライバシーリスクに強い弁護士、データの構造を整備・運用するエンジニアやデータのセキュア(安全)な管理を実現するセキュリティエンジニア、ID-POSデータの分析を踏まえて小売事業者の収益化の施策を提案できるコンサルタントなど、それぞれの専門家の知見が必要である。

適法に対応するためには外部リソースの活用も選択肢に

 ただ、この体制であっても、それぞれの専門領域が異なるがゆえに、シームレスな課題解決が難しいといった問題が発生する可能性もある。このため、それぞれの専門領域を架橋し、小売事業者における有益かつセキュアなデータ利活用を総合マネジメントする存在が重要となる。

 そこで選択肢の1つとなるのが、それぞれの領域で専門知識を持ち合わせる外部機関に個人情報の管理業務を委託するというものだ。近年個人情報保護の重要性が増すなか、小売企業向けに、プライバシー対策の支援サービスを提供する企業も現れている。

 筆者が勤務する㈱フェズもその1つだ。もともとはリテイルテック領域を主軸に、小売業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進してきた企業だが、21年2月に、データ利活用・サイバーセキュリティ対応支援事業を行う外部企業と業務提携し、小売事業者に特化したプライバシー支援サービス「Urumo PrivPro.」の提供を開始した。

 いずれにしても、改正個人情報保護法の全面施行を来春に控えるなか、小売事業者は対応を急がなければならない。自社が扱うデータの内容と、その管理・提供体制をあらためて整理する必要がある。