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焦点:長引くNYオフィス不況、コロナショックがREITも直撃

マンハッタンの夜景
9月10日、ニューヨークがオフィススペースの過剰に直面している。新型コロナウイルス感染症への懸念のため、オフィスビルの日々の利用がほとんどゼロになっているためだ。写真はマンハッタンの夜景。6月7日撮影(2020年 ロイター/Eduardo Munoz)

[ニューヨーク 10日 ロイター] – ニューヨークがオフィススペースの過剰に直面している。新型コロナウイルス感染症への懸念のため、オフィスビルの日々の利用がほとんどゼロになっているためだ。コロナ禍によって米大都市の中でも最も高い失業率にあえいでいるニューヨーク市にとって、壊滅的な兆候だ。

マンハッタンの過密さと林立する高層ビル群が、オフィスへの人々の回帰を妨げている。新型コロナのワクチンが開発され、地下鉄やオフィスビルのエレベーターが人々が十分に戻って来るまで、こうした状況は続く可能性が高い。

企業経営者約300人が参加するNPOのパートナーシップ・フォー・ニューヨークシティーが市内の大手企業の経営者を調査したところ、8月半ば時点でマンハッタンのオフィスに戻った従業員は全体の8%にとどまった。復帰が最も進んでいるのは不動産業で、従業員の53%が戻っていた。

転貸は2010年以来の高水準に

不動産仲介コリアーズ・インターナショナル・グループのマイケル・コーエン社長は「経済の現状は人々の健康への考え方と足並みがそろっている」と語る。人々がオフィスに戻っても十分安全だと思うまで、よほどのことが起きない限り、厳しい経済状態が続きそうで、これでは業況回復につながりそうにないという。

不動産契約のうち、転貸と契約の短期更新を合わせた割合が全体の70%以上に増えている。テレワーク化が成功したことで、企業経営者が自社の不動産ニーズに確信を持てていないことが分かる。

コリアーズによると、マンハッタン内の3市場のうち2市場で、転貸はオフィススペース全体の25%を超えている。供給が需要を上回っている状態だ。転貸はマンハッタン全体でも23%と、2010年以来の高水準という。

マンハッタンの平均希望家賃は今年第1・四半期に上昇が続き、過去最高を記録していたが、それに比べて8月は1平方フィート当たり2.03ドル(約215.5円)下がって78.01ドルになった。

転貸増加と家賃下落圧力の兆候が過去の景気後退局面に比べて比較的遅くに表面化したのは、7月下旬になるまで不動産仲介業者が顧客にオフィススペースを見せるのを制限されていたためだ。

コリアーズによると、8月の賃貸案件は昨年の月間平均358万平方フィートに比べ、約64%減った。

INGの商業不動産部門責任者、クレイグ・ベンダー氏は「テナントの多くが短期賃貸契約の延長を求め、長期契約にしりごみしているのはまったく驚きではない」と語った。「新型コロナ沈静化の道筋がはっきりしてくるまで、今の状態は変わらないだろう」

テレワークは主役にはならない

不況はニューヨークのオフィス市場だけの話ではない。これは米東海岸と西海岸のオフィスビルに投資する不動産投資信託(REIT)の価格でも見て取ることができる。

米株式市場は3月に売り込まれた水準から55%余りも急上昇しているが、オフィスREITの価格は基本的に横ばいのままだ。新型コロナが米景気後退を誘発するとの懸念から投資家が幅広い株式を投げ売りした2月半ばに比べると、東海岸と西海岸の主要都市に投資するオフィスREITの時価総額は約半値だ。

センタースクエア・インベストメント・マネジメントのスコット・クロー最高投資責任者によると、企業が自社のオフィススペースに想定する価値は以前よりも下がっている。

ただ、コリア-ズのコーエン氏は他の商業不動産関係の経営者と同様、テレワークが今後も優勢になることには懐疑的だ。人々は社内での出世を考えるときは、上司のそばにいたがるだろうという理由だ。「テレワークが永劫に続くとの考え方には賛成しない。社内であれ社外であれ、競争原理がわれわれをオフィスに引き戻すだろうからだ」という。

もっともセンタースクエアのクロー氏は、オフィス部門が流動的であり、REIT市場の価格動向が「まるでさびれたショッピングモールの予備軍」のようだと認める。「たぶんニューヨークは今、米不動産市場で最もひどいうちの一つだ」と話した。