世界の食料廃棄量は、年間約13億トンと言われ、世界全体で生産された食料のおよそ3分の1にあたる量だという。アメリカでは、生産された食品の40 %が廃棄処分されていて、家庭では年間1,300ドル以上の未使用の食品が廃棄されているという。今回は、そうした食品廃棄問題に取り組むアメリカのフードテック企業をとりあげたい。
アボカドの廃棄ロス半分に 粗利高は65%アップ
カリフォルニア州サンタバーバラに本社を置くアピール・サイエンス(Apeel Sciences)は、2012年にビル・ゲイツ、メリンダ・ゲイツ夫妻の基金から10万ドルの助成金を得て設立され、野菜や果物の保存期間を2倍〜3倍にできる食用コーティング剤「エディピール」を開発しているスタートアップ企業だ。
エディピールは、腐敗の主な原因である水の損失と、酸化の速度を遅らせる第2の皮を生み出してくれる。原料は、農産物の種や皮、茎から取れた脂質で、これを野菜や果物に直接スプレーしてコーティングをするか、直に浸して使うことで、傷みやすい農産物の寿命を伸ばし、輸送や小売店、顧客の家での食品廃棄(フードロス)を減らせることが実証されている。
アメリカ食品医薬品局(FDA)も同社の製品を「一般的に安全と認められる食品」として認可し、色や匂い、味もなく、人体にも有害ではないとした。現在アピール・サイエンスは、複数のUSDAオーガニック認証、およびオーガニックではない通常の農産物の製品を開発していて、小規模農家や地元の有機栽培農家、また世界最大の食品ブランドに至るまで、様々なパートナーと提携を結んでいる。
2018年6月、アメリカの44州のコストコと、アメリカ中西部に店舗を展開しているハープス・フード・ストア(Harps Food Store)は、エディピールを使ったアボカドを販売し始めた。ハープス・フード・ストアにコーティング済みのアボカドが並ぶようになってから、アボカド分野の粗利益高が65%増加し、売上も10%増加したという。また、去年は全米最大のスーパーマーケットチェーンであるクローガー(Kroger)の109店舗で、アピール・サイエンスの技術を使ったアボカドの販売を開始したところ、廃棄物が大幅に削減され、結果としてアボカドの価格も従来のアボカドと同じか、それよりも安く販売することができるようになった。また、小売段階で、50%食料廃棄を減らすことに成功している。
エディピールを塗布した農作物は、植物由来で、遺伝子組み換えされていないので、店舗で特別なラベルを貼る必要はない。しかし創業者でCEOのJames Rogers氏は、テクノロジーメディア、TechCrunchのインタビューで「我々はDNAレベルでの操作はしておらず、遺伝子組み換えもしていないが、消費者に対して真摯でありたい。そして、消費者が私たちのラベルに気づき、この農作物が高品質で長持ちすることや、廃棄する可能性が減ることを認識してもらいたい」と語った。
クローガーでは、このアボカドの販売エリアを今後、全米に拡大させる予定で、オハイオ州のシンシナティでは、アピール・サイエンスの技術を使ったライムとアスパラガスも販売することを予定している。また、コーティングする農作物の種類を増やし、販売地域も拡大する予定だ。アピール・サイエンスのコミュニケーションアドバイザーMichelle Masek氏は「当社のコーティング剤を塗布した農産物は、現在アメリカ、メキシコ、チリ、ペルー、コロンビア、中国、日本などでの使用が承認されている。今、他の全ての主要国でも早く承認を得られるように動いていて、世界的な需要の拡大に対応するために、迅速に取り組んでいる」と話す。
農産物の鮮度を長持ちさせる“魔法”の袋
アメリカのノースウェスタン大学の大学院生のグループが2015年に設立したヘーゼル・テクノロジーズ(Hazel Technologies)は、野菜や果物の鮮度を長持ちさせるサシェと呼ばれる小さな袋の研究開発に取り組むスタートアップ企業だ。米国農務省(USDA)が支援しており、この小さな袋は植物成長制御因子である1-MCPを少量、放出することで、青果物の熟成のプロセスを遅らせ、カビや腐敗を防いでくれる。小袋は、塩や胡椒の小袋くらいの大きさで、この小袋を輸送箱に入れるだけで、最大で3週間安全な化学物質を放出し、最長で3倍、青果物の鮮度を保つことができる。すでに、北米・南米の12か国100社の顧客が利用している。
大手アボカドメーカーのミッション・プロデュース(Mission Produce)社もその1つで、通常、小売店で売られているアボカドは、2日から5日で販売しなければならないが、このヘーゼル・テクノロジーズの小袋を使えば、7日から10日間鮮度を保つことができるという。「通常、アボカドは完全に熟した後数日以内に、内側が黒く変色していくが、この小袋を使って室温で保管した一部のアボカドは、2週間後にスライスしても、まだ良い状態であった」と、去年12月、事業開発担当シニアディレクターのPatrick Cortes氏はLos Angeles Timesの取材に語った。青果の専門食材を扱うフリーダ(Frieda’s)も、この小袋を使用している。フリーダの調達部部長であるAllen氏は、去年7月「ヘーゼル・テクノロジーズの小袋を使うことで、高品質のトロピカルフルーツを、常時提供することができるようになった」と、プレスリリースで述べた。
食料廃棄は、世界規模で深刻な問題となっており、一人一人が食品ロスへの対策に取り組む必要が大いにあるが、それと同時に、青果物のサプライチェーンを効率化させ、食品のロスを減少させるこのようなフードテックの技術が、今後ますます必要になってくるのではないだろうか。