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アングル:インドでブーム「クイック配達」、競争激化で事故巡る懸念も

ニューデリーにあるブリンキットのダークストア
1月23日、インドの食料品配達サービス業界で、アプリ利用による10分以内の配達を約束する新興企業が、ハイテク機器を使いこなせる顧客を取り込みつつあり、いわゆる「クイックコマース(Qコマース)」のブームを巻き起こしている。写真はニューデリーにあるブリンキットのダークストア。19日撮影(2022年 ロイター/Anushree Fadnavis)

[ニューデリー 23日 ロイター] – インドの食料品配達サービス業界で、アプリ利用による10分以内の配達を約束する新興企業が、ハイテク機器を使いこなせる顧客を取り込みつつあり、いわゆる「クイックコマース(Qコマース)」のブームを巻き起こしている。その半面で浮上しているのが、時間を守らなければと焦る配達員の交通事故を巡る懸念だ。

アマゾン・ドット・コムやウォルマート傘下のフリップカート、富豪のムケシュ・アンバニ氏が率いるリライアンスなどがひしめくインドの食料品小売市場は既に競争が激しい。

そこにソフトバンクグループが支援するブリンキット、そのライバルのゼプトが10分で届ける便利さを武器に掲げ、市場シェアを奪おうと、人員採用やダークストア(配達専門店)の開設を急ピッチで進めている。10分という配達時間は、従来企業が設定している数時間、ないし数日よりはるかに短い。

ブリンキットやゼプトのサービスは、幾つもの都市部に構えたダークストアで数分のうちに食料品を荷造りし、二輪車の配達員が残りの7分程度で近隣地域に届けるという仕組み。アンビット・キャピタルの首席ITセクターアナリスト、アシュウィン・メフタ氏はロイターに「大手の同業者にとっては脅威だ。人々が10分(の配達)に慣れてしまえば、24時間以内の配達サービスを提供していたこれらの企業も時間短縮を迫られるだろう」と述べた。

調査会社レッドシアの試算では、昨年時点で3億ドル(約340億円)相当だったインドのQコマース市場は2025年までに10-15倍拡大して50億ドルに達するという。

ブリンキットとゼプトは、消費者がさまざまな食料品を思いついた時に衝動買いしたくなる気持ちを満足させるだけでなく、毎日使う品目をすぐに手に入れたいというニーズにも対応。首都ニューデリーの近郊グルグラムで暮らすシャルミスタ・ラヒリさん(75)は以前、アマゾンやインド複合企業タタが展開するオンライン食料品配達サービスのビッグバスケットを熱心に利用していたが、現在はトマトからスープ、ケーキのトッピングに使うチョコレートまで台所の保管分がなくなるとブリンキットを頼りにしている。「これはとても便利で、生活スタイルが様変わりした」と素早く商品を届けてくれる点を高く評価する。

欧州や米国でもこのサービスの圧倒的な利便性が明らかになってきており、トルコのゲティル(Getir)やドイツのゴリラ(Gorillas)といった新興企業が急速に地歩を伸ばしつつある。

ただしインドは交通事故が起こりやすいその道路事情により、Qコマースが危険な事業と化している。かつて道路行政の責任者を務めたビジャイ・チッバー氏は「10分というのは非常に厳しい。(道路安全)当局者がいれば、それは企業の特色あるセールスポイントとはなり得ないと言っただろう」と話す。

ブリンキットとゼプトは、ロイターの問い合わせに回答しなかった。

 

配達員の重圧

インドでは都市部でさえ、大半の道路は穴だらけで、牛などの動物が通行の妨げとなるなど車やオートバイの運転手には試練が多い。そして運転手側も基本的な交通ルールを守らないケースが少なくない。

世界銀行によると、昨年インドでは4分ごとに交通事故の死者が発生した。衝突事故で亡くなる人は毎年およそ15万人に上る。

一方、ロイターがムンバイ、ニューデリー、グルグラムで13人のブリンキットとゼプトの配達員に取材したところ、全員が配達時間厳守の重圧を受けていると答えており、ダークストアのマネジャーから叱られるのを恐れてスピード違反につながる事態もしばしば起きている。あるブリンキットの配達員は「与えられている時間は5-6分で、緊張とともに生活の不安を感じる」と打ち明けた。

ブリンキットの最高経営責任者(CEO)は昨年8月、配達員は時間を守れなくても処罰されないし、ダークストアが常に配達先の近くにある以上、自分たちのペースで配達できるとツイッターに書き込んだ。

しかし配達員側はこれを否定する。彼らの多くはロイターに、急ぐ気持ちから目的地に着く前からもう注文を「配達されました」という表示にしているが、顧客からそれに苦情が出れば300ルピー(4.03ドル)の罰金を払わなければならないと説明した。

またロイターが取材したムンバイのブリンキットの配達員がワッツアップに開設しているグループでの会話にも不満の声が寄せられている。時間を守るため急いでいた矢先に負傷したというある運転手の写真が投稿されると、1人のユーザーが「この10分(配達)は禁止すべき」とコメントした。

インドでは「ギグエコノミー(単発契約型労働でお金が回っている経済)」が拡大しているものの、まさにその裏で労働者が不当な扱いを受けたり、過酷な労働条件を上向かせる闘いに苦戦したりしている様子がうかがえる。

配達料問題

ブリンキットは同社事業を1000億ドル規模に拡大していきたい考え。ゼプトは足元で5億7000万ドルとなっている評価額を、200億ドルに引き上げることを目指している。

インドの実店舗小売企業として最も大きいリライアンスは今月、19分で配達するサービスを手掛ける新興企業への出資を表明した際に、Qコマース市場には500億ドル相当の商機があるとの見方を示した。

もっとも2-3ドルの配達料を課すほとんどの外資系企業と異なり、インドの新興企業はほとんどが無料で配達をしている。大半の注文を5時間以内に届けるというビッグバスケットの人事責任者T・N・ハリ氏は「無料配達では事業が立ちゆかなくなる公算が大きい。そして事業が存続できるだけの配達料を徴収すれば、市場規模は小さくなってしまいそうだ」と悩みを口にした。