メニュー

知恵を出して価値ある商品づくりを追求、「デザイン革命」で新たな価値創造=エステー鈴木喬社長

今春、「100年に一度の経済危機」対応として、鈴木喬会長が社長に再登板して、スピーディな経営改革に取り組ん でいるエステー。主力の消臭芳香剤に経営資源を集中し、「デザイン革命」で新たな商品価値の創造を志向する鈴木社長に、同社の“挑戦”について聞く。

社長再登板で「強いエステー」復活に挑む

鈴木喬(すずきたかし) 1935年生まれ。59年一橋大学商学部卒業。同年、日本生命入社。86年にエステー化学(現エステー)入社。98年同社社長、07年取締役会会長就任。 09年4月社長就任(取締役会会長と兼務)。

──消費不況の中で、7~8月も多くの小売業の業績はよくありませんでしたが、御社の動向はいかがですか。

鈴木 トイレタリー市場は、今春は回復傾向が見られました。当社の主要カテゴリーの市場動向を見ても、4~6月は消臭芳香剤が対前年比1%増、防虫剤は同5%増 と回復基調でした。とくに、消臭芳香剤市場では、当社の「消臭プラグ」シリーズに代表される電子式などの高単価商品が伸長して、全体の売上増に寄与しまし た。一方、除湿剤や使いすてカイロなどの季節商品の市場規模は、天候の影響で前年を割っています。

 足元の業績では、7~8月は天候不順で、他社はどこも悪かったようですが、当社は決して悪くはなかったです。また、9月は新商品も発売したので、大いに期待しているところです。

──09年3月期の御社の業績は、売上高も利益も厳しい結果になりましたが、その要因は何だったのでしょう。

鈴木 当社が「エアケア」と呼んでいる、主力の消臭芳香剤や、暖冬の影響で使いすてカイロの売上が不振だったのが、売上に大きく響きました。また、原油価格の上昇に伴う原材料の高騰で、利益が圧迫されました。

 エアケアでは、「消臭力」や「消臭プラグ」などは好調に推移しましたが、「エアウォッシュ」などの既存ブランドの動きがいまひとつでした。エアケ ア市場は、すべての消費者が使っているわけではないので、新しい提案をすることで、まだまだ市場の伸びが期待できますが、前年度はそうした取り組みが不足 していたと反省しています。

──今春、一度は会長に退いた鈴木さんが、社長に復帰したのはどういう経緯があったのですか。

鈴木 3月2日の取締役会で、「100年に一度の経済危機」への対応として、私の社長復帰が決まりました。

 小林寛三前社長が組織力と社員一人ひとりの能力を最大限に生かす「仕組みづくり」に尽力している矢先に、「100年に一度の経済危機」が襲ってき ました。とくに昨年後半は、経済危機と景気低迷という予測できないアクシデントが続き、当社が強化しているエアケアの売上が不振となり、利益も急激に落ち 込むという危機的状況に陥りました。

 もともと有事のときは私が動かなければならないと覚悟していました。危機のときこそ、強力なリーダーシップが必要だからです。創業家だから再登板 したわけではありませんが、結果として、創業家のメリットとも言えるリーダーシップが発揮しやすい私が社長に復帰することになったのです。

1600SKUの商品を1300SKUに削減

──具体的にどう改革を進めますか。

鈴木 社長就任時に、(1)絞り込みと集中、(2)世にない商品の開発、(3)スピード経営という3つの基本戦略を打ち出しました。

 これまで当社が販売している商品は約1600SKUありました。まずは、それを今期中に1300SKUまで絞り込む予定です。すでに、マスクや テープなどの医療用品、美容・健康商品の「着圧ソックス」などからは撤退しました。世界一になれないカテゴリーはやめる方針です。グループ会社の商品数も 順次減らしていくつもりです。

 今後は、主力商品である「エアケア」と防虫剤などの「衣類ケア」に経営資源を集中していく考えです。さらに、「エアケア」や「衣類ケア」の中でも、ブランドを絞り込んで、強いブランドはますます強くしていきます。

 当社が扱っている商品は、洗剤や紙製品のような生活必需品ではなく、いわば「ニッチ(すき間)商品」です。だから、これからも大きな拡販の余地が あり、アイデア次第で需要はまだまだ伸びます。エステーは「グローバル・ニッチ ナンバーワン」を目標に、さまざまな新しい提案をしていきます。

 商品開発では、今期の柱として「デザイン革命」を掲げています。日用品は、他の商品に比べて、デザイン面で遅れていて、日用品の最大の付加価値は デザインだと思います。デザインに特化すれば、競合商品と大きく差別化できます。しかし、デザインといっても、単に形状の美しさを実現するだけでなく、シ ンプルな機能美、使い勝手のよさ、コストダウン、商品とパッケージの統一感なども追求して、「売れるデザイン」をめざします。

 今まで、エアケアは部屋の隅に追いやられ、隠して使われてきました。しかし、当社はエアケアをインテリア用品に格上げしたいと考えています。

──デザイン革命」の第1弾として、9月18日に主力商品の「自動でシュパッと消臭プラグ」と「消臭プラグ」をフルモデルチェンジしました。

鈴木 この2つを「デザイン革命」の第1弾に選んだのは、エアケア市場では電子式が世界を席巻すると考えているからです。

 殺虫剤ではすでに世界的に電子式が主流になっています。電子式消臭芳香剤は効果が最後まで一定というメリットがあり、アメリカやヨーロッパではす でに電子式が主流です。ところが、日本ではまだそれが実現していません。だから、国内では電子式の消臭芳香剤に大きな可能性があり、当社にとっては、まさ に次の成長エンジンになる商品と位置づけています。ここを押さえておけば、エアケア市場で大きなシェアが取れると見ています。

 ここ数年、当社は新商品で大きなヒットを飛ばせませんでした。それは、足元を見ずに、遠くの「青い鳥」ばかり探していたからです。不況の時代には、まったく新しい「世にない商品」だけを開発していてはリスクが大きくなります。

 そこで、今ある強い商品をより強化するという堅実な方法を採って、デザインを切り口にして、既存の主力商品をモデルチェンジしました。

 しかし、単にデザインをよくするだけでなく、研究や製造部門とともに、お客さまのご要望にも応えて、既存の商品とはまったく違うものをつくりまし た。2つの新商品とも旧型に比べて25%スリム化して、コストを下げ、品質向上に努めました。これにより、店頭にもより置きやすくなりました。

ベンチマークは任天堂

──世界的に活躍する、デザインオフィス「nendo」の佐藤オオキさんをデザイナーに起用したのも注目されます。

鈴木 以前から、私のもやもやしているデザインに対する気持ちを形にしてくれる方を探していて、知人の紹介で佐藤さんとお会いしました。話しているうちに、私と 波長が合うと感じて、デザイナーとしての起用を即決しました。後になって、『Newsweek』誌で「世界が尊敬する日本人100人」に選出され、世界的 な美術館にも作品がコレクションされている、有名なデザイナーであると知りました。

──すでに小売店の店頭にも商品が並んでいますが、小売側の反応はいかがですか。

鈴木 おかげさまで、予想以上に好評で、順調なスタートを切りました。「自動でシュパッと消臭プラグ」は新しい香りも加えて5種になり、3尺の専用什器をつくって、セットで展開することを提案していますが、大手チェーンでは積極的にセットで導入していただいています。

──多くの小売業は、原資なき低価格路線に舵を切り、既存店売上高減少の一因を自らつくっています。そんな 状況の中で、しっかりと売上が確保できるだけの価値がある商品を求めています。その意味では、「自動でシュパッと消臭プラグ」の1300円(税抜)という 価格設定は小売業にとっても魅力的に映ります。

鈴木 確かにそうですね。今の低価格訴求型の売り方は、だれもがいずれ行き詰まると感じているはずです。

 知恵がなければ価格で勝負するしかありませんが、知恵があれば価値で勝負できます。もともと私はエステーを工場をたくさん持っているような、ものづくりカンパニーではなく、ソフトカンパニーにしたいと思っています。

 実は、ベンチマークにしているのは任天堂(京都府/岩田聡社長)さんなのです。任天堂さんは、かつてはソニー(東京都/ハワード・ストリンガー社 長)さんやマイクロソフト(同/樋口康行社長)さんに水をあけられていましたが、今ではゲーム業界で独り勝ちしています。見習うべきは、徹底して娯楽性を 追求し、幅広い消費者に新鮮な感動や驚きを提供していることです。

 私はよく一般家庭を訪問して、当社商品についてのご意見を伺っています。ある家庭で、そこのお子さんが、「自動でシュパッと消臭プラグ」から香り が出てくるのを楽しみにして待っているという話を聞きました。その家庭では「シュパッと」が一家団欒に話題を提供しているのです。お客さまは、特殊な技術 などよりも、生活の中のちょっとした感動やおもしろさを求めているのではないでしょうか。

4月に社内のほとんどの会議を廃止

──さて、スピード経営という点では、どんな対策を採られたのでしょう。

鈴木 従来のエステーは合議制を採用し、会議ばかり多くて、何をするにも時間がかかりました。そのため、商品開発のタイミングも少しずつ遅れ、現場の意見もとおりにくいという問題点がありました。

 そこで、4月に社内のほとんどの会議やプロジェクトを廃止しました。現在は社内の会議は、朝会、執行役会、取締役会だけになりました。これで、当社の最大の強みが大手にはまねができない「スピード経営」だと宣言できます。

 スピード経営にはトップダウンが不可欠です。日本ではトップダウンにはあまりいいイメージはありませんが、海外の優良企業はすさまじいトップダウンで動いています。

 強いトップダウンがあってこそ、強いボトムアップも出てきます。その代わり、私自身も何事にも死にもの狂いで取り組んでいます。今度の新商品の商 談でも、トップセールスもいとわず、営業マンの先頭に立って、お取引先にうかがいました。経営トップが自ら新商品のために土下座するようなつもりでない と、人を動かせません。経営トップは外見はかっこよく見えますが、ビジネスは泥臭いものです。

 また、企業も競争がないと強くなりません。当社には社内外に合わせて8人の執行役がいます。その任期は1年で、アメリカやヨーロッパと同じです。 しかも、40代が中心で、昇進は早いのです。このように社内に競争を持ち込んで、いつも議論ができるような雰囲気をつくることが重要です。

──人材育成ではどんなことをやっているのでしょう。

鈴木 今、毎年、社員を2週間の世界一周旅行に派遣しています。今年も2チームを出しました。こんな不景気に、そんなことをやっていていいのかという人もおりま すが、こういうときこそ、こんなことをやるべきだと考えています。しかも、派遣者にレポートを出させたりはしません。2週間海外を回ったからと言って、す ぐに成果なんて出ませんが、いずれはそれが役に立つときが来ると思っています。