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「それ、自分なら買いますか?」マーケッターの陥りがちな罠とその回避の仕方

 マーケティングデータを分析する際に陥りがちなのが、「自分視点の欠如」です。

データ分析の結果だけを鵜呑みにして、「自分視点」を忘れてしまうと、誰にも刺さらない商品開発やプロモーションを実施する危険がある(istock/golubovy)

 マーケティングデータを尊重せず分析をしない企業がたくさんある一方で、やたらとデータをみてそこから何とか企画を考えだして、議論を進めていく企業が増えています。ところが、そこから編み出された商品やプロモーションアイディアには、「これで消費者に買ってもらえると本当に思うのかな?」と首をかしげたくなるようなものが多く、「実感と合わないなぁ」と戸惑った経験のある読者も多いのではないでしょうか。そこで今回は、「自分視点の欠如の罠」を避けるためにどうすればよいかを解説します。大事なことは、「その商品・プロモーションを自分なら欲しいと思う?」とつねに自問自答することを忘れないようにすること。いつもはマーケティングデータの分析の重要性をしつこく言い続けている筆者ですが、今回は自戒も込めてお話ししたいと思います。

「バスケット分析」で陥りがちな罠とは

 まず、「バスケット分析」は、今まで思いつきもしなかった併売アイテムが見つかることもあり、とても大切な分析です。プロモーションのアイディアを考える際、重宝することも多いです。

 ただし実際は、意味不明な併売アイテムがランキング上位に多く見つかるので注意が必要です。たとえば、「ドラッグストアで、シャンプーXのショッパーに対してあるアイスクリームYの併売リフト値*が1.25。ランキングでは上位」にあったとしましょう。単純に考えると、シャンプーXのショッパーにアイスクリームYのクーポンを送る提案をしたくなるかもしれません。

 そこで、ふと胸に手をあてて考えてみると、「自分はシャンプーとアイスを一緒に買う必然性はないな」とか「そのドラッグストアのアイスが近隣店舗よりよっぽど安いのでは?」など、併売リフト値が高い必然性がない理由がいくらでも見つかります。つまり、ここで勇んでプロモーションアイディアを考える前に、一呼吸置いて、因果関係を考える必要があるというわけです。言い換えれば、「自分がショッパーならどう思うか」と想像すること、といってもよいでしょう。このように、「自分に置き換える想像力」を持つことも、実は「顧客理解」の1つです。

併売リフト値:バスケット分析で用いられる代表的な指標で、商品Xの購入者が商品Yを購入する確率が60%で商品Yの購入率が50%だった場合、商品Xの商品Yの併売リフト値は60%÷50%=1.20となり、Xの購入者はYを買いやすいという仮説が導き出される

ID‐POSを「定性データ」として使うこともあり!

 「ID‐POS」はいわゆるビッグデータで、とくに小売のID‐POSはマーケターからするとユートピアにも見えます。とはいえ現実には、ランキングを作成したり、いろいろな集計や解析をしたりして、そこからでてきた「微妙な差」をもとに「こんな動きがある!」と言い切るしかないことが多いでしょう。

 というのも、一般に小売業では同時に販売している商品が数万SKUあり、顧客も数百万人規模です。だから、「ショッパーとはこういうものだ」と単純化して言い切るのが難しいのです。一方で、ランダムに数名の顧客をピックアップして購買履歴をたどり、自分の想像力を駆使することで、「ショッパーとはこういうものだ」という全体像がおぼろげながらわかることも多々あります。定性調査のようなアプローチですが、ID-POSだからといって必ずしも定量データとして使う必要はありません。

セグメンテーションでも「想像力」を忘れない

 「STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)はマーケティングの基本」といわれており、「セグメンテーション」という言葉を聞かない日はなくなりました。ROIの高いマーケティングプランの立案や、とがった商品のコンセプト開発には不可欠の視点です。ただ、これもやりすぎると「そもそも、そんな人存在するのか?」となるかもしれません。それ以外にも、たとえば自分はスマホを手放せないデジタルに慣れ切った生活をしているのに、自分の商品の顧客だけは、あたかも「サザエさんの家族」のような生活をしているかのように語る人も見かけます。

 データ活用が進んで、見える領域が増えてくると、想像力で補う領域が減ることは事実です。だからといって想像力の役割が減ったわけではありません。逆に領域が減った分、想像力で深掘りすることで大きなアイディアの鉱脈が見つかるかもしれません。