メニュー

高齢者も少なくない生花店への発注をデジタル化した「花キューピット」の工夫とは

フラワーギフトサービス「花キューピット」を運営する一般社団法人JFTD花キューピット(東京都品川区)が2023年8月から、加盟する生花店への発注のデジタル化に踏み切った。業務の効率化がその狙いだが、一方で加盟する生花店は店主の高齢化が進んでいる。そうした中で、デジタル機器に不慣れな人でも恩恵を享受できるように設計した花キューピットの発注デジタル化の工夫と成果に迫った。

発注を受け花を準備する「花キューピット」加盟店(東京都内にて、本田路晴撮影)

電話とファックスからアプリとメールへ
加盟店への発注の
デジタル化を

「花キューピット」は全国約4100店が加盟する、生花店ネットワークだ。今回の取り組みで全加盟店を対象に、注文の約3割(231110日現在)がアプリとメールを使っての注文に切り替わり、DX化は順調に進んでいる。

 配達先近くの生花店への連絡はその都度に電話を入れるアナログ発注だった。やがてファックスが導入されるが、ファックスの場合も店内にいないと注文内容を確認できない。電話の場合は店内にての接客が中断されるなどの不便さがあった。

 アプリやメールを使っての連絡ならば、生花店は接客を中断されず、好きな時に注文が確認できる。

 万全を尽くしてのデジタル化で、「花キューピット」は月20万とも言われる発注依頼作業の簡素化を図る。

「花キューピット」の歴史

「花キューピット」が提供する「生花通信配達システム」は、遠隔地にいる親族や友人に花を届けてほしいという顧客の注文を受けた加盟店が、届け先の最寄りの加盟店に注文内容を連絡し、その加盟店が、顧客が希望する花(金額、花の種類)を作り、届け先に直接、届ける仕組みを指す。

2000年からは加盟店店頭での注文受付に加えて、インターネットでの注文も受け付けるようになり、ECの発展とともに年々その件数は増えている。

 日本での歴史は意外に古く、今から70年前の1953年に全国主要都市の生花店22店が参加してスタートした。

 きっかけは、都内のある生花店を訪れた米軍人の「本国にいる妻に花を贈りたい」とする依頼だった。

「日本から米国に花を届ける?」

 突然の注文に戸惑ったが、米国には注文を受けた生花店から、配達先近くの生花店に連絡がゆく「花の通信配達システム」があり、日常的に利用されていることを知る。「日本にも同様のサービスを」ということで、日本各地の生花店をネットワーク化する「生花通信配達システム」が生まれることになった。

 正式なサービスとしては1953413日に始まった。31年後の84年に、生花通信配達システムは正式にサービス名として「花キューピット」と名付けられた。

 現在、花キューピットの加盟店は、北は北海道・利尻島から、南は沖縄・石垣島、宮古島まで、全国約4100店舗。昼12時までに注文すれば当日配達が可能なネットワークだ。海外で同等のサービスを提供する団体、ネットワークとの提携関係により、花キューピットから約130の国と地域に花を大事な人に届けることもできる。

「クールなサービス」として注目を集める花キューピット

 インターネットなどでの注文受付業務などを展開する花キューピット株式会社の吉川登社長は「生花の通信販売はほかにいくらでもある。しかし、そのほとんどが宅配便によるお届けになっているのに対し、花キューピットは届け先の最寄りにある花屋さんが直接届けてくれる。単純にトラックなどによる配送距離は短くなり、それだけCO2の排出量抑制につながる。今風に言えば、SDGs的なサービスだ」と70年前に生まれたサービスが実は今の時代にこそ合っている点を強調する。同社は、2005年、当時、インターネットビジネスの立ち上げに力を入れていた住友商事(出資比率51%)と、花キューピット協同組合(同49%)によって設立された。現在は、JFTD100%子会社となっている。

 吉川社長は、70年前に生まれた花キューピットのビジネスモデルを、いま流の言葉に置き換えて再定義する。

 ひとつは、先ほどのCO2排出抑制につながる部分だが、注文1件1件に応じ、その届け先に近い加盟店が届けるという仕組みはUberEatsや出前館、Woltに代表される「デリバリーサービス」に近いものがある。

 また、生花のお届けものを、「花キューピット」というサービス上で一手に引き受けてしまおうというのは、まさしく「プラットフォーム的考え方」であり、A店(あるいは「花キューピット」のシステム)で注文を受けたものを、届け先に近いB店が代わりに届ける仕組みは「シェアリングサービス」そのものだ。

 生花は、野菜と同様の生ものだ。仕入れたものが売れ残れば、単なるロスになる。

 「生花を100仕入れて、全部、自店で売り切るのが理想だが、読みがはずれて在庫が生じることもある。そうしたときに、花キューピットからの依頼を受ければ、新鮮な在庫を、フラワーロスにすることなく、生花として活かすことができる」(吉川社長)

 配達も、宅配便を利用したサービスの場合、生花を傷めてしまわないよう梱包には相当、気を遣うことになるが、生花店からの配達なら、過剰に梱包する必要もなくなる。

 フラワーロスの削減、梱包資材の簡素化は、サステナブルにもつながっている。

 このように「花キューピット」は、いま流行りのキーワードで括ることのできるビジネスモデルと言えるだろう。

3年以内の全ての発注のデジタル化を目指す吉川登社長(花キューピット株式会社南青山オフィスにて、本田路晴撮影)

高齢者も少なくない生花店に配慮したシステム設計とは

 ただ、アナログの注文が全くなくなった訳ではない。吉川社長は「お通夜、葬儀などは『今日中に届けてほしい』とかの注文が殆どだ。そうした場合はとにかく間に合わせてあげたいので直接、配達先地域の生花店に電話を入れるアナログ方式を取る。アナログでのフォローも欠かせない」と話す。

 花キューピットへの加盟にあたっては、取引のやり取りを行うためのインターネット環境とパソコンは必須だ。受注連絡がアナログ式の場合でも、お届け先の住所やお届け日時などの注文情報の伝達は実際に専用システムを通じて行っている。

 とはいえ、デジタルが苦手な高齢者が少なくない各生花店への対策も考えなくてはならなかった。今回のデジタル化に際しても店に発注依頼のメールの着信を知らせる通知が自動音声で電話に入る仕組みを作った。最初の電話への返信がない場合は90分後にメール受信の再確認の電話が入る。それでも返答がない場合は、最初の発注依頼から120分後に発注依頼は次の店に回される。

 なかなか進まなかったデジタル化を加速させたのが皮肉にもコロナ禍だった。加盟店間での会合もオンラインでのミーティングが常態化し、会員も知らず知らずのうちにデジタルに親しむようになった。そうした状況の変化を捉える形で、今回のメールやアプリを導入した本格的なデジタル化となった。

 現在はアプリ、メールによる発注は全体の3割程度に増えており、吉川社長は「当面はアプリ活用でもアナログのサポートが必要になるが、年度内に5割、3年以内には全ての発注のデジタル化をめざしている」と意気込む。

 サービスが誕生してから70年。時代にマッチしたモデルとなった「花キューピット」は、加盟4100店のデジタル化も急がず、慌てず、時を待つ。

70年前に生まれた「花キューピット」のビジネスモデルをいま流の言葉に置き換えて再定義する吉川登社長(花キューピット株式会社南青山オフィスにて、本田路晴撮影)