今回は中国の最新事情について書いてみたい。以前もご紹介したとおり、私は海外の多くにネットワークをもっており定期的に「信頼できる筋」から情報を得ている。小売における競争も、かつては国内の閉じられた環境でも成立していたが、いまや世界戦へと舞台を移しているからだ。私が日本のアパレル産業に問いたいのは、「世界戦」で勝てなければ、自社の未来に期待は持てないということである。その観点で今回は最新の中国事情、日本企業の最新中国戦略について考察してみたい。
中国人によるインバウンドは本当に本格化するのか?
昨日私は、自動車の最新技術やデザインについての情報を展示するJapan Mobility Show(ジャパンモビリティショー)に行ってきた。そこでは中国、韓国などアジア勢の猛攻が凄まじい一方で、アウディ、アルファロメオ、フォルクスワーゲンなどは出品さえしていなかった。まるで、日本はもはや重要拠点でははないと見切ったかのようにだ。かくいう私も、8年乗ったクルマを買い換える某外車を一年前に発注したのだが、なんと先月になってドイツから「生産枠は中国にもっていかれた。日本向けはもう生産しない」という言葉が返ってきた。一年待って、着手金を払ったにも関わらずだ。なんでも、そのドイツメーカーは2023年ですべての内燃式自動車の生産をストップしEVシフトを加速するようだ。そして、今年の生産枠のほとんどが中国や(日本以外の)アジア向けになっているとのこと。
読者のみなさんは、「それでも、日本の景気は悪くないじゃないか。株価もまあまあで、金利も低い」と思うだろう。しかし、日本経済の大部分を占めている内需の多くをインバウンド(外国人)が占めているという事実を理解した方が良い。為替が151円を切った今、外国人にとって日本は「爆買い」市場なのである。だから、物価の上昇以上には給与の上がらない日本人にとって「不況」としか感じられない一方で、勤務先の企業は業績が良いという矛盾が生じているわけだ。
2023年8月10日、中国から日本への団体旅行が解禁された。2019年の中国からの訪日客は959万人と訪日外国人全体の3割を占め、国・地域別で最多だったが、2020年以降、中国政府がゼロコロナ政策の一環として中国人の海外渡航を制限し、中国からの訪日客は大幅に減少した。今年1月、中国からの個人旅行は可能となったがビザ要件の厳しさなどから日本への渡航増加は限定的で、直近7月は31万人と2019年同月の3割にとどまっている。
「中国人によるインバウンドはこれからが本番。日本経済を潤してくれる」と考えている人も多いが、実際はそうでもないようである。
経済退潮の中国、「家事手伝い」の若者の増加
中国在住の友人は言う。「ゼロコロナ政策は完全に失敗だった。ゼロコロナ政策の中でのロックダウンは、本当に厳しく、日本人のような外国人に対する締め付けは常軌を逸していた。ようやくゼロコロナ政策を解禁したところ、ゼロコロナが、皆(ミナ)コロナ(多くが感染したこと)になったというジョークも中国で流行っている」とのことだ。
これは、笑いごとではない。ゼロコロナが解禁されたというのに、中国人の「来日」を阻んでいる1つが、「フクシマの汚染処理」問題だ。加えて日本でも報じられているように、中国経済の落ち込みが影を落としている。この落ち込みは不動産の大幅下落によるものが多く、中国内での消費もグレードダウンしている。輪を掛けて、中国の若者(16~24才)の失業率が約20%と報じられているが、多くの中国人は実態はもっと悪いと感じているようだ。就職の見込みが立たない大学生は「家事手伝い」をやっていて、今、中国で名刺交換をすると「家事手伝い」と書いてある名刺を出す人さえいるのだというから深刻だ。
日本ブランドへの圧力高まる
一方、そんな中国でも化粧品市場は二ケタ成長で伸びている。そうなると、「安心、安全、おまけに円安」ということで、日本のメーカーが競争勝ちしているかと思いきや、実態は違っているという。海外からの化粧品輸入は昨対比で▲14%で落ち込んでいるとのこと。国潮政策(文化、アミューズメントなどの分野で中国製を見直そうという動き)による国民感情の変化によって、日本というブランドに対するアンチの風はよりいっそう厳しくなっている。
例えば、日本企業が中国でインフルエンサーを活用すると、そのインフルエンサーに対して「お前は日本の企業を手伝っているのか!」と、国全体で圧力がかかるほどだ。こうしたトレンドの中、日本では「プラスワン」といって、中国市場、中国生産を分散化させようという動きがあったが、今は、つい最近の事例で云えば、急速なEVシフトに取り残された三菱自動車が中国から完全撤退をするという動きも出ている。冷え込む日中関係のなかで、対中国ビジネスも冬の時代を迎えているかのようだ。
ユニクロ絶好調の本当の理由と無印良品のいま
そんな中、本稿でも紹介した中国版アマゾンといわれる、激安オンラインモールの「TEMU」はシェアをますます増やし、中国でも激安のポジションを維持したまま、売上は2ケタ増で推移といわれているようだ。(このあたりの中国の数字は信憑性にあやしいものがあるが、中国本土で発表されているものをそのまま掲載している)
一方のShein(シーイン)は、相変わらず中国人はその存在すらしらない状況は変わらないが、1つの気になる動きがあった。なんと、アリババのT-Mallにちらりと出店していたというのだ。テストマーケティングと思われるが、いよいよ世界規模で売上を増やすため、巨大な中国市場に全く出ないということはあり得ないと考えたのだろう。
私は、自身のネットワークで「それほど日本への風当たりが強いなら、なぜユニクロは強いのか?」と聞いてみた。その回答はおどろくべきものだった。
「中国の消費者達は、ユニクロに日本製というイメージを照らし合わせていない」というのだ。ユニクロはもはやZARAやForever 21のようなもので、ZARAが欧州、Forever 21が米国、ユニクロが日本など、その国籍がイメージ想起として前にでてこないのである。「ユニクロはユニクロだ」という意識で買っているのである。これこそ、ユニクロが多額の広告宣伝費をかけて中国はじめ世界でブランディングを強化している理由なのだ。真のグローバルブランドといえる存在に近づいているともいえる。
私は「では、無印良品(良品計画)はどうなんだ。無印は確か世界で唯一の上海ホテルを立上げたのではないか?それだけ中国では人気があるのではないか」と聞いてみた。ちなみに、前回韓国から来たアパレルの専門家は、無印はあまりに日本的、良い意味でも悪い意味でも日本の素材感を前面に打ち出し、内からの美を大事にする価値観を押しつけすぎている、とネガティブな発言をしていたことも付け加えた。
無印良品は、中国では「食品と雑貨の店」と見られているようで、「無印のアパレル」などという話を聞くと「違和感を覚える」人が多いとのことだ。しかも、その「味」があまり現地化されておらず苦戦をしているようなのだ。例えば、多くの中国人はコーヒーを飲むとき砂糖を山盛りにいれて甘すぎるぐらいの飲み方をするのは、中国に行った人はみな知っているだろう。しかし、無印のコーヒーはブラックだ。だから売れない。文化が違うのである。良品計画は23年8月期、中国事業の既存店売上高(+オンライン)は通期で2.7%増(前期は11.6%減)となり、コロナ禍での積極的な新規出店もあり大幅な増収営業増益を果たしている。既存店ベースではまだ完全復活とはいえない水準で、今後のさらなる巻き返しに期待したい。
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TEMU、シーインのさらなる日本侵攻は秒読み
中国では、ゼロコロナ政策により自宅の外にでられなかったということに加え、ネット販売が「便利すぎる」ため、リアル店舗に買い物をしにゆくということが「面倒だ」と感じる中国人も多いようだ。これも、リアル店舗はリアル店舗で買い物の楽しみがあると考える日本人とは異なっている。
中国の文化を一言でいえば、「自己中心トーク」という言葉があてはまりそうだ。人の話は聞いている振りをしているが、右から左。自分の主張をどんどんしてくる人が多い。私もカートサーモンの日本のパートナーをしていたころ、上海でパートナーミーティングに出かけたところ、一階のエレベータで列をつくってまっていたらドンドンぬかされ、10分経っても乗れなかった経験もある。さらに、信号無視で道路を渡る人、それを見ても平気で自動車を動かす人など「自分を中心に地球が回っている」ように思っている人が多いのではないかとおもうことが多い。
そんな中国だが、今日本と酷似しているところがある。それは、「将来不安」だ。将来が不安で国の経済に未来や希望がもてない。だから、中国人は貯蓄や投資、保険にお金をまわし、お金の流れが止まっているのである。すでに個人資産が2000兆円を超えている日本人と同様、本来社会主義はこういうときに国が人を守るものだと思っているのは私だけだろうか。だから、金持ちは自分の子供を豪州、米国、欧州に留学させるのだ。一昔前は日本への留学も多かったが、今はほとんどいない。一流の教育は日本にはないと思っているようだ。今、日本のイメージは「安心、安全」から「清潔、医療(医薬品と思われる)」へと移っている。このように、昨今の中国は経済大国からバブル崩壊前夜の日本と非常に似ているところもあり、単なる一般論では中国での勝負には勝てないだろう。この5年で中国のTEMUやSHEINは日本での活動を本格化してくるに違いない。
日本企業のアップデートが待たれる。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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