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単なる規模拡大は終焉!「循環経済」下で、ユニクロが採用すべき経営指標とは何か

過去3週にわたってユニクロをテーマに執筆し、3週連続「ダイヤモンド・チェーンストアオンライン」で1位、月間でもトップ2を独占し、手前みそながら大好評を博した。読者から非常に多くの共感も得られたこともあり、僭越ながらファーストリテイリングおよび、グローバルトップ企業がこれから採用すべきまったく新しい「KPI」について論じてみたい。なお、まだ私自身が整理しきれていない部分もあり、あくまでも暫定的な意見のうちの一つとして、本日は考え方の骨子であることをご了承いただきたい。

Peter Fleming/istock

 間違いだらけのSDGs

 私は、アパレル企業経営者とSDGsについて話をすると、いつも違和感を覚える。なぜなら経営者たちのほとんどが、SDGsをコスト要因と考えておりビジネスチャンスと考えていないからだ。積極的にSDGs対応をうたっているアパレル業界の表向きの顔と本音が、分離しているのだ。「人類最大の発明は株式会社」といわれ、20世紀最大の天才といわれるアインシュタインが人類最大の発明は「複利」だといった。それほど、資本主義市場における競争のメカニズムはシンプルかつ強力で疑いようがない。今回は、ここにSDGsが加わったことで競争のメカニズムはどう変わり、それをマネジメントするためにどんなKPIを活用すべきかについて、論じてみたいと思う。

  私が学生時代イギリスで教育を受けていたときだった。授業で先生が「町を構成する要素を洗い出せ」と生徒に質問をした。イギリスは「英語の本場」ということで、欧州はじめアフリカや韓国などから人が集まってくる。学校、病院、スーパーマーケット、マンションなど色々な答えが出てくるのだが、私をはじめ日本人が、クビを大きくかしげ、そして、思いもよらなかったのが「教会」という回答だった。日本を離れると、「宗教」は人の暮らしや生活に寄り添い、とても大事な価値観の形成に役立っていることがわかる。米国のように「人種のるつぼ」は別にして、人は「価値観」という経済価値だけでは測れない拠り所を求め、価値観を形成し、それが文化になってゆくのだ。

  例えば合理性とロジックだけと思われる米国でも、「ノブレスオブリージュ」という考え方があり、経済的に大成功を収めた人は、そうでない人に自然に寄付をしたり、人類のために資産を分け与えるという文化がある。

  とくに、欧州の「グリーン」に対する意識は非常に高く、とくに一定の知識階層は例外ない。古くはThe Body Shopのように、ブランドエクイティとSDGsは高いブランド力やES (従業員満足度)を高める役割を果たしてきた。ESG経営が企業価値に直結するというのも、多少その地に住んだ経験のある身から言わせてもらえば、「非常によく分かる話」なのだ。したがって、2015年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定は私にとってとても自然な流れだった。

  一方、日本のSDGsは違和感だらけだ。私の目には、万策尽き果てた先に、何か事業ネタはないかと探したら、どうもこれが新しそうだ、と飛びついた匂いがムンムンする。

 実際、イギリスから帰国し経営コンサルタントになり、今から20年以上も前に「ファッションはエコロジーと融合し、eファッションになる」という主張を、当時の大前研一氏主宰の「一新塾メーリングリスト」に投稿(当時、氏はネットのダイアログに将来性を感じ巨大なディスカッションボードをつくっていた)したところ、いつ終わるともしれない反論の嵐に遭った。あのワールドの経営企画、執行役員クラスの人間からも「気でも触れたのではないか」と言われたぐらいだ。イギリスに住んでいれば過剰消費は罪悪のように感じる。なお、当時のイギリスは経済が停滞しサッチャーが国有化をすすめ、日本経済はバブルに沸いていた。

 また私はその後、今でいう「ジェンダーレスファッション」に近い概念を出したが、まだ十分な言葉の武器も持ちえず日本もそれを理解する土壌がない状況下で、これまた学生から大笑いされた経験を持つ。日本で働くことに大きな幻滅をしたことがある。だから、今頃になってSDGsを声高に叫び、「サステナファッション」や「男性用スカート」など、おかしな言葉や商品が世に出回っても、キワモノとしか見えない。また、教会で祈ることも懺悔もしない日本人が「サステナブル」と本来日本人が持つ美しさや思慮深さを忘れ、流行の一つとしてしか捉えられないのでは、本当の意味でのアジアのリーダーにはなれないと私は今でも強く思う。

「経済活動」と「人類存続」はもはや対立概念

Tokyo, Japan.

 もうしばし、哲学的な話にお付き合い願いたい。

 私は、人類の経済活動こそ人類の存続を危うくし、人に格差をつけ地球資源を枯渇するまで吸い上げる主要因だと思っている。つまり、人類は経済活動をすればするほど破滅に向かうという考えだ。太古の世界、隕石が地球上の恐竜を絶滅させたように、人類は経済活動、あるいは核戦争で滅亡する。実際、地球の温度は益々上昇し、世界規模で紛争が起き、ナショナリズムが台頭。未知のウイルスや水害・地震などが人類を襲っている。人口は第三世界を中心に爆発的に増え、飽食の時代と錯覚している日本人は、世界中で飢餓が起きていることを知らない。

  本稿は小売・アパレル関連の論考であるから、衣料品にフォーカスしていきたい。世界中で衣料品は30%の供給過多(某大手投資銀行ディスカッションより)で、日本に限って言えば200%という供給過剰であり資源の無駄使い以外の何物でもない。環境庁の「サステナファッション」のホームページにも、消費者が購入した衣料のライフサイクルだけが書かれており、もっとも深刻な「売れ残り」について、なんの言及もしていない。普通に計算しても、量的には後者の方が深刻だ。100億枚以上の在庫が日本のどこかに眠っており、アフリカやフィリピンで山のように捨てられ、また、燃やされ二酸化炭素を排出している。

  私たちは、「サステナブル社会」、「サステナブル経済」という、本来矛盾する「人類の経済活動」と「地球環境との共生」という相容れない概念を、得意の「考えないこと」で自然に受け入れ、分かったような気分になっている。

 ESG経営をすることで、株価が上がるという理屈も不自然で、今のところPERとの相関性は日本では見られない。そして、昨今のSDGsの隆盛を見ると、競争や経済活動そのものは人類を破滅に導き、SDGs活動はその最終期までの時間を短くしているにするにすぎないと私は考えるようになった。

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 ESG経営は機会か脅威か

 こうした前提を踏まえると、これ以上の売上拡大・利益拡大を一義的な「成長」にしてしまうと、ますますSDGsの理念から離れてゆく。したがって、自由経済か計画経済かをまず選ぶことになるが、仮に計画経済が地球上に存在する全ての変数を包含できないのであれば、必然的に、ある程度の歩留まりを許容した自由経済下でのKPIが必要になってくるだろう。

 理想的には、自由経済だが完全歩留まりゼロ世界、つまり需要と供給が完全一致して付加価値を生み出し成長し、リソースは過去の資源を繰り返し使い続けることである。これが、原理・原則となる。

  バランス・スコアカードのように、複数の項目をだし、面積の大きさでパフォーマンスを図る考え方も一つである。一方で私は、この「歩留まり」の小ささを測り、企業価値・事業価値を算出できればよいのではないかと考える。

 そこで、第二次世界大戦の反省から国際連盟ができたように、地球環境破壊・人権侵害の反省から世界で共通の指標が必要になる。

 たとえば、「販売後の資源再利用率」と「その資源の回転数」などは新しい概念となるだろう。このほか、ペットボトルの再生繊維をアパレルにコスト負担させるなら、ペットボトル飲料を製造した飲料メーカーに課税するなど、原因と結果を正しく分析する必要もでてくる。

 人に欲望がある限り、株式市場と株式会社は変わることはないし、成長を前提しなければならないが、それは、「売上」「利益」である必要は無い。「新しい事業価値の大きさ」が循環社会のKPIとなり、その事業価値に「リソース活用の無駄のなさ」、という変数を加えるわけだ。

 例えば、アパレルであれば「売れ残り在庫」や「余剰フリーキャッシュ」などが非効率の最たる例で、ここをデジタル技術で算出する。これにより、効率性(無駄のない資源の使い切り)と成長性を掛け合わせた事業価値算定が理論上できることになる。

 何度も使い続けられ、実際に使い続ける素材は「プレミアム因子」として勘定。逆に、その製造工程で排出される二酸化炭素や余剰在庫・余剰くずはすべて「ディスカウント因子」として計算する。

 たとえば、卸売を媒体に国内と海外に販売と生産が分離しているアパレル産業では、アジアの生産拠点は我知らず、という感じになっている。だから、すべてを「神の手」に任せるのではなく、人為的に「プレミアム因子」と「ディスカウント因子」を複合し課税や補助金(減税)を加えるなどし、循環型経済下の事業価値の大きさがでるような仕組みに組み込む。

 同時に重大な人権侵害や環境破壊が発見されたら、そのレーベルに対して最も厳しい厳罰処分を出すという国際的な取り決めも必要になる。

 さて、私の論考はここまでだ。具体的なKPIや運用は日本が「これからの経済の中心であるアジアのリーダー」として、環境省、経産省が手を組み、自分はCO2,自分はGDPと縦割りに考えるのでなく、日産のようにクロスファンクショナルチームをつくり、その青写真の検討を開始すべきだ。このような活動には必ず「ビジネスチャンス」とみて、ロビイング活動を行う商社などが入り込みそうだが、第三者の視点として大学研究室、あるいは、経営コンサルティング会社と組み客観性を担保することが重要である。後出しじゃんけんで真ん中をとる八方美人政策では、乗り切れないほどのトレードオフがあちこちにできている。

 そして、世界トップのアパレル企業をめざしているファーストリテイリング、ユニクロこそ、このKPIを率先的に導入し、経営に組み込んでいただきたいと思うのだが、どうだろうか?

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は自費で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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